九州7県の中でも福岡県は温泉資源に乏しいエリアですが、久留米周辺には意外と良質な温泉施設が点在しており、しかも掛け流しを謳っている施設も少なくないため、私が福岡で所用がある場合にはちょっと時間を作ってこの界隈へ足を伸ばすことにしています。今回は久留米から久大本線に乗り換えて田主丸駅で下車してみました。ホームではデカい河童がお出迎え。先代林家三平の「どーもすいません」みたいなポーズを決めているこの河童くんは、色合いといい下膨れの体型といい、どこか不健康そうで気味が悪い…。
仔細はよくわかりませんが、どうやら田主丸は河童伝説の地なんだそうでして、ホームにいた先程の河童はその伝説に基づいて建てられていることは想像に難くありませんが、竹下内閣時代の「ふるさと創生一億円事業」として地元の工業高校の生徒がデザインして造られたこのキッチュな駅舎も、当地の河童がモチーフになっているんですね。
ちなみにこの駅では、昨今貴重な存在となった補充券や常備券などが販売されており、マニアの間ではつとに有名な話ですが、私も手書きの切符には惹かれてしまうので、この日実際に用いる切符(補充片道乗車券)を一枚切ってもらいました。今回購入した区間ですと通常は金額が予め印刷されている常備券での発券となりますが、窓口の方に一言お願いすれば画像のような手書きの補充券で発券してくださいます。
田主丸からは吉井~久留米を結ぶ路線バスの久留米駅行へ乗り換えます。この路線の一部は駅前にも経由しますが、本数が少なくてちょっと不便であるため、駅前からまっすぐ北へ伸びる道を7分歩いた国道210号上にある「田主丸中央」バス停へ向かいました。西鉄バスはSuicaが使えますから、東京圏で暮らす私にとっても使いやすくて便利です。
「唐島」バス停で下車。目の前の「川会小学校前」信号そばには今回の目的地である「笹の湯」の看板が掲示されていました。
信号から長閑な田舎道をまっすぐ南下します。やがて巨瀬川に架かる橋を渡りますが、その橋の親柱には「昭和9年」と彫られていました。戦前の橋が現役なのかと感心したくなりますが、古いのは親柱だけで、他の構造物はすっかり新しいものに更新されておりました。
その橋を渡ると左手の路傍に社会福祉法人の名前とともに「笹の湯」の名称が記されている看板が立っています。ここでは看板の左手から土手沿いへ伸びる道ではなく、看板の右手から分岐する道を進みましょう。土手沿いの道ですと裏手に出てしまいます。
バス停から徒歩10分で「笹の湯」に到着しました。平屋建てで比較的新しそうな建物です。この施設は知的障害者などを支援する「社会福祉法人八千代会」が運営しており、温泉も広大な敷地に設けられた支援施設「田主丸一麦寮」の一角を成すもので、「笹の湯」の建物内では「レストラン田永」や「パン工房むぎっ娘」など飲食関係の営業も行なっており、以て障害者の自立を促進しているんだそうです。実際に温泉の受付窓口やパンの販売カウンターでは障害者の方々が元気いっぱいに働いていました。一麦という名称から察するに、会のホームページを拝見しても特に明確な紹介はありませんが、おそらく新約聖書の「一粒の麦」を意味しているんだろうと思われます。
とても丁寧な対応のスタッフに案内され、浴室へと向かいます。脱衣室も清掃がよく行き届いており清潔で綺麗です。洗面台は4面設置され、ドライヤーは2台用意されています。備え付けのロッカーは無料で利用でき、大きなバックパックでもすんなり入っちゃう容量がありました。
大きなガラス窓が嵌められている浴室には、石板敷きで8~10人サイズのゆとりある浴槽がひとつ、そしてシャワー付き混合水栓が6or7基設置されています。湯船のお湯は42~3℃といったところ。加水加温消毒循環が一切ない完全掛け流しの素晴らしい湯使いです。
ごく一般的な造りの浴室の中でどうしても突っ込まざるを得ないのが、隅っこに佇む石のカッパくんです。上述のように田主丸は河童に縁がある土地なので、浴室に河童の置物があっても何ら不思議ではないのですが、その格好がド変態なのです。右肩に魚籠を掛けているのはいいのですが、なぜか左手は不健康な中年男性の如く水平角度にエレクトしたオチン●ンを持ち、乳首をビンビンに立たせて、まるで自慰行為をしているかのような姿勢で、つぶらな瞳でこちらを見つめているのです。河童だから良いようなものの、これが人間だったら即座にお縄ですね。眼をクリクリさせて本能むき出しな行為に及んでんじゃねぇよ、このエロガッパめ!
足元の台座にはガーゼが被せられ、そこから比較的熱い源泉が供給されているのですが、湯船に入って湯口から吐き出されるお湯のフィーリングを確かめるべく、そのカッパに近づいてみますと、まるで大砲のようなカッパくんの息子が眼前に迫り、今にもぶっかけられそうな恐怖感に襲われてしまいました。AV女優の心境が多少は理解できたような気がします。
ちなみに「笹の湯」のHPを拝見すると、女湯には故富永一郎氏の漫画を彷彿とさせるボインのカッパが佇んでいるんだそうですよ。
下ネタ、大変失礼いたしました。
さて屋外に出て露天風呂へ。広い日本庭園の中に3人サイズの岩風呂が配せられ、湯船には屋根が掛けられています。いつもなのか、あるいはこの時だけなのかよくわかりませんが、お湯の嵩が浅くて寝そべらないと全身浴できませんでした。岩肌が湯面と接するところではオレンジ色の析出が線になって付着しています。
岩の間からお湯が注がれ、反対側の浴槽縁で口を開ける塩ビ管から排湯されてゆきます。こちらのお湯も完全掛け流しですが外気の影響を受けるためか内湯よりは若干ぬるめであり、鮮度感も内湯の方が断然明瞭でした。
さてさて肝心のお湯に関してですが、やや橙色掛かっているような薄い山吹色に笹濁り、湯華の浮遊は見当たりません。非鉄系の金気と土気そして重曹の味、そして薄っすらとした非鉄系金気臭が感じられます。分析表には硫化水素臭と記載されていましたが、今回私の臭覚では確認できませんでした。金気と土気を含みながらスベスベとした浴感を有するこちらのお湯は、前回まで取り上げていた山形県肘折のお湯にちょっと似ています。
露天風呂の奥には滝の落ちる池が静かに水を湛えています。晴れている日には彼方に耳納連山の稜線が広がっているんだそうですが、残念ながらこの日は悪天候のため望めませんでした。
さすが福祉関係の法人が運営しているだけあって、感心させられるポイントがありました。その中の数点を列挙してみますと…
・入浴着の着用OK。乳がん手術後などで他人に傷跡を見られたくない方でも気兼ねなく大浴場を利用できる。
・障害者手帳の提示で半額。
・下足場にて館内用スリッパに履き替えるのですが、退館時には使用後のスリッパを棚下のカゴに入れて使い回しをしないようにしている。神経質な人でも安心して利用できる気の利いたシステム。
などなど。福祉施設だからこそこうした細かな配慮が可能なのかもしれませんが、決して大規模な設備を導入するわけでもなく、ちょっとした運用の工夫をするだけでどの施設でも実施可能なサービスですから、是非他の温浴施設でも「笹の湯」と同じようなシステムを導入していただきたいなと思った次第です。素っ頓狂な変態カッパくんには笑ってしまいましたが、源泉かけ流しの良質なお湯が楽しめる、弱者の目線に立った優しい配慮が嬉しい温泉施設でした。
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 52.9℃ pH8.3 200L/min(動力揚湯) 溶存物質1.77g/kg 成分総計1.77g/kg
Na+:610mg(97.39mval%),
Cl-:550mg(64.76mval%), HCO3-:470mg(32.15mval%),
H2SiO3:43mg, HBO2:59mg,
久大本線田主丸駅から西鉄バスの「久留米駅」行、あるいは久留米駅か西鉄久留米駅から西鉄バスの「田主丸駅前」「吉井営業所」「浮羽発着所」などの行き先(20・23・25番)に乗って「唐島」下車、徒歩10分
福岡県久留米市田主丸町竹野631-1 地図
0943-73-0828
ホームページ
10:30~20:00 毎週月曜および第2日曜定休
500円(毎月3がつく日は半額。詳細はHP参照のこと)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★