※2016年から日帰り入浴施設にリニューアルしました。本記事はリニューアル以前(2012年)の様子をレポートしたものです。2019年4月に再訪した際のレポートはこちらです。
鄙びた温泉が好きな方からの評価が高い土湯温泉の「不動湯温泉」で日帰り入浴してまいりました。土湯には何度も訪れていますが、不動湯は週末になると混む、という噂を耳にしてから恐れをなして訪問機会を逸しており、先日ようやく平日に時間を取ることができたので、これを機に行って見ることにしたのです。
土湯の温泉街から細い坂道を上がっていきます。はじめの2kmは離合箇所こそ少ないものの舗装路面ですし、しかも温泉街から離れれば離れるほど道幅が広くなってゆくので、対向車さえ来なければ普通に走れますが、後半2kmは本格的な林道でして、ダート区間もあれば泥んこなままの路面もあり、しかも急な坂道もあったりして、私のFF車で大丈夫なのだろうかと不安に苛まれ、ハンドルを握る掌は汗でビッショリになってしまいました。
林道のどん詰まりの駐車場に車を止め、ゲートを潜ってアプローチを歩くこと約1分。
「不動湯温泉」に到着です。時が止まったような渋い佇まいもさることながら、険しい林道のおかげで、温泉街から大して離れていないのにとんでもない秘境にやってきたような感覚です。
玄関脇に据えられている清水が滴り落ちるつくばいではラムネが冷やされていました。訪問したのは山肌が薄っすらと白くなり始めた初冬の某日、こんな冷え込んでいる日に冷たいラムネを飲む客なんているのかしら、と小首を傾げたくなりましたが、いやいや、風呂あがりに飲んだらさぞかし美味いんでしょう。
玄関に入ってすぐ左の棚にはご当地らしくこけしがたくさん陳列されています。また引き戸の枠には、飲食店営業の古い札がかかっていました。旧字体で書かれているので、相当古いのでしょうね。
不動湯温泉には3つの内湯「常磐の湯」「羽衣の湯」「御婦人風呂」と1つの露天風呂があり、「御婦人風呂」を除けば全て混浴なのですが、日帰り入浴がスタートする10:00丁度に訪問したためか、各浴室において私一人で独り占めすることができました。内容がちょっと長くなりそうなので、記事を2分割させていただき、前編となる今回は「常磐の湯」を取り上げます。
●常磐の湯
帳場から一番近いお風呂が「常磐の湯」。引き戸を開け、薄手のグリーンカーペットが敷かれたステップを下りて脱衣室へ。浴室の名前が揮毫された扁額こそかかってるものの、室内はとってもシンプルでくくりつけの棚に籠が収められているばかりです。でもこの質素な佇まいこそ秘湯らしい風情と言えるのかもしれません。
質素な浴室には窓に面して扇形を歪ませたような形状で2~3人サイズの浴槽がひとつ据えられているだけ。渋いお風呂なのでシャワーなどの現代的な設備はありませんが、ボディーソープやシャンプーは用意されていました。浴室の床は元々赤茶けていたようですが、最近その上にグレーのペンキが塗られ、塗装が薄い箇所では下地の赤茶色が透けて見えています。
砂利が敷き詰められた水受けには清冽な清水が注がれていました。
お湯は一見すると無色透明ですが、ぼんやりと白く霞がかっているようにも見えます。湯中では薄い白色の膜がちぎれたような浮遊物が沢山舞っており、これが霞の正体ではないかと推測されますが、湯船に体を沈めるとこの膜状の浮遊物が一気に舞い上がって湯船が浮遊物にまみれ、人によっては不快に感じてしまうかもしれません。室内はお湯から放たれた赤錆の匂いが漂い、そのお湯を口に含んでみると少々の土気味と収斂を伴う赤錆味が感じられます。詳しい分析表は見当たりませんでしたが、館内の案内によれば泉質は単純炭酸鉄泉とのこと。
木板の蓋い塩ビのパイプが突っ込まれており、蓋を開けてみると内部が真っ赤に染まった湯壺が姿を現しました。お湯の金気で赤く染まったのでしょうね。パイプから湯壺に落とされたお湯は浴槽内部の側面から湯船へ注がれています。湧出量が少ないのかお湯の流量はそれほど多くなく、一度私が全身浴したら湯船の嵩が減ってしまってなかなか元の嵩まで戻りませんでした。また私個人の体感で40℃に満たないと思われるようなぬるさなので、ゆっくりじっくり浸かって温まらないと、冬は湯上りに寒くて身震いしちゃうかもしれません。でも今回は独り占めできたので、他のお客さんを気にすること無く肩までお湯に沈めてゆっくり浸かり、この幽玄なお風呂で時間を忘れて瞑想に耽けました。
ちなみに浴室入口前には缶ビールの自販機と並んで、福島県民のソウルドリンク「酪王カフェオレ」「酪王牛乳」のベンダーが設置されていました。しかも瓶ですよ。もちろん私は腰に手を当てながらこの瓶のコーヒー牛乳を一気飲みしました。「酪王カフェオレ」は何度飲んでも美味いなぁ。どうでも良いことですが、このベンダーは上部を紙で隠されているものも、元々は雪印のものでしょうね。
次回は「羽衣の湯」「露天風呂」です。
後編に続く。
鄙びた温泉が好きな方からの評価が高い土湯温泉の「不動湯温泉」で日帰り入浴してまいりました。土湯には何度も訪れていますが、不動湯は週末になると混む、という噂を耳にしてから恐れをなして訪問機会を逸しており、先日ようやく平日に時間を取ることができたので、これを機に行って見ることにしたのです。
土湯の温泉街から細い坂道を上がっていきます。はじめの2kmは離合箇所こそ少ないものの舗装路面ですし、しかも温泉街から離れれば離れるほど道幅が広くなってゆくので、対向車さえ来なければ普通に走れますが、後半2kmは本格的な林道でして、ダート区間もあれば泥んこなままの路面もあり、しかも急な坂道もあったりして、私のFF車で大丈夫なのだろうかと不安に苛まれ、ハンドルを握る掌は汗でビッショリになってしまいました。
林道のどん詰まりの駐車場に車を止め、ゲートを潜ってアプローチを歩くこと約1分。
「不動湯温泉」に到着です。時が止まったような渋い佇まいもさることながら、険しい林道のおかげで、温泉街から大して離れていないのにとんでもない秘境にやってきたような感覚です。
玄関脇に据えられている清水が滴り落ちるつくばいではラムネが冷やされていました。訪問したのは山肌が薄っすらと白くなり始めた初冬の某日、こんな冷え込んでいる日に冷たいラムネを飲む客なんているのかしら、と小首を傾げたくなりましたが、いやいや、風呂あがりに飲んだらさぞかし美味いんでしょう。
玄関に入ってすぐ左の棚にはご当地らしくこけしがたくさん陳列されています。また引き戸の枠には、飲食店営業の古い札がかかっていました。旧字体で書かれているので、相当古いのでしょうね。
不動湯温泉には3つの内湯「常磐の湯」「羽衣の湯」「御婦人風呂」と1つの露天風呂があり、「御婦人風呂」を除けば全て混浴なのですが、日帰り入浴がスタートする10:00丁度に訪問したためか、各浴室において私一人で独り占めすることができました。内容がちょっと長くなりそうなので、記事を2分割させていただき、前編となる今回は「常磐の湯」を取り上げます。
●常磐の湯
帳場から一番近いお風呂が「常磐の湯」。引き戸を開け、薄手のグリーンカーペットが敷かれたステップを下りて脱衣室へ。浴室の名前が揮毫された扁額こそかかってるものの、室内はとってもシンプルでくくりつけの棚に籠が収められているばかりです。でもこの質素な佇まいこそ秘湯らしい風情と言えるのかもしれません。
質素な浴室には窓に面して扇形を歪ませたような形状で2~3人サイズの浴槽がひとつ据えられているだけ。渋いお風呂なのでシャワーなどの現代的な設備はありませんが、ボディーソープやシャンプーは用意されていました。浴室の床は元々赤茶けていたようですが、最近その上にグレーのペンキが塗られ、塗装が薄い箇所では下地の赤茶色が透けて見えています。
砂利が敷き詰められた水受けには清冽な清水が注がれていました。
お湯は一見すると無色透明ですが、ぼんやりと白く霞がかっているようにも見えます。湯中では薄い白色の膜がちぎれたような浮遊物が沢山舞っており、これが霞の正体ではないかと推測されますが、湯船に体を沈めるとこの膜状の浮遊物が一気に舞い上がって湯船が浮遊物にまみれ、人によっては不快に感じてしまうかもしれません。室内はお湯から放たれた赤錆の匂いが漂い、そのお湯を口に含んでみると少々の土気味と収斂を伴う赤錆味が感じられます。詳しい分析表は見当たりませんでしたが、館内の案内によれば泉質は単純炭酸鉄泉とのこと。
木板の蓋い塩ビのパイプが突っ込まれており、蓋を開けてみると内部が真っ赤に染まった湯壺が姿を現しました。お湯の金気で赤く染まったのでしょうね。パイプから湯壺に落とされたお湯は浴槽内部の側面から湯船へ注がれています。湧出量が少ないのかお湯の流量はそれほど多くなく、一度私が全身浴したら湯船の嵩が減ってしまってなかなか元の嵩まで戻りませんでした。また私個人の体感で40℃に満たないと思われるようなぬるさなので、ゆっくりじっくり浸かって温まらないと、冬は湯上りに寒くて身震いしちゃうかもしれません。でも今回は独り占めできたので、他のお客さんを気にすること無く肩までお湯に沈めてゆっくり浸かり、この幽玄なお風呂で時間を忘れて瞑想に耽けました。
ちなみに浴室入口前には缶ビールの自販機と並んで、福島県民のソウルドリンク「酪王カフェオレ」「酪王牛乳」のベンダーが設置されていました。しかも瓶ですよ。もちろん私は腰に手を当てながらこの瓶のコーヒー牛乳を一気飲みしました。「酪王カフェオレ」は何度飲んでも美味いなぁ。どうでも良いことですが、このベンダーは上部を紙で隠されているものも、元々は雪印のものでしょうね。
次回は「羽衣の湯」「露天風呂」です。
後編に続く。