温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台東県金崙 太平洋鹹水温泉 (台湾東部)

2012年04月18日 | 台湾
(話の流れとしては前回記事「瑞穂温泉 東岡秀川温泉会館」のつづきになります)

 
瑞穂から台東まで自強号に乗車。
車両は東急車両製のDR2800。


 
池上駅ではおなじみの駅弁を購入し、ちょっと遅めの昼食。
停車時間が1分しかない上、ホームに出ている売り子さんは2人しかいなかったので、大慌てで購入。台湾の駅弁はどこで買っても似たような内容ですが、池上の弁当は一味違うような気がします。気のせいかな。


 
台東からキョ光号に乗り換えて金崙で下車。一日数本しか止まらないローカル駅。


 
辺鄙な田舎の駅ながらいかにも台鉄らしい外観の駅舎。周囲は山が急に太平洋へ落ち込む険しい地形であり、駅の北側で線路はいきなりトンネルへ突っ込み、南側は金崙渓を橋で渡った後、やはりこちらもすぐにトンネルが口を開けています。駅前には平屋の民家が数軒並んでいるだけで、見事なまでに何もありません。あまりに閑散としすぎているため、一人で駅前に降り立った時には、不安に駆られて悲しくなりました。




(↑画像クリックで拡大)
金崙駅周辺には温泉民宿が点在しています。駅前には宿泊施設を紹介する公設と思しき案内板が立っていました。比較的最近設置されたのでしょう。私が参考にした本には、金崙温泉は鄙びた温泉地であると書かれていたのですが、意外と宿泊施設が多いんですね。



反対側には私設による温泉旅館の広告看板が立っていますが、その下に伸びるコンクリ壁の断面には、温泉マークや矢印とともに手書きで「鹹水」と記されていました。今回金崙駅で下車した理由の一つは、駅の近くにあるという「太平洋鹹水温泉」で入浴することです。この「鹹水」という字は、私の目的地を示しているのでしょう。この矢印に従い駅前広場から左へ伸びる細い路地へ入ってゆくことに。


 
至る所に道しるべがあるので迷うことはありませんでしたが、何もない裏へ裏へと進むコースにはちょっと不安を覚えました。線路の築堤にも白ペンキで直に手書きしてありましたが、鉄路局から文句はこないのかしら。ひたすら線路に沿って南下してゆきます。



犬に吠えられながら川に向かって緩やかな下り坂の一本道を歩いてゆくと・・・


 
駅から数百メートル、約5分で目的地の「太平洋鹹水温泉」へ到着です。



「生命の泉」の書かれた屋根の下には、たくさんのベンチとともにカラオケ装置が置かれています。浪越徳次郎の決め台詞は「押せば命の泉湧く」でしたけど、こちらの温泉に入れば生命の泉が湧いて元気になれるのかな。



広い駐車場は寒々としており、お客さんがいる気配ゼロ。受付小屋の中にいるおじさんに声をかけて入浴を乞うと、「チョトマテ(ちょっと待って)」と言うや否や、受付からちょっと下ったところにある温泉プールへそそくさと降りていきました。おじさんは片言の日本語がわかるみたいです。



これが温泉プール。今日は私が来るまで来客は無かったらしく、浴槽内は空っぽでした。おじさんはモップを手にすると、ホースの水を槽内に撒いて掃除をはじめました。おいおい、これから掃除するのかよ。入浴できるまで時間がかかりそうだ…。


 
受付や駐車場の前に置かれている錆びきった鉄製ブイの下に源泉井を発見。



浴槽掃除の途中に手を休めて受付へ戻ってきたおじさんは「カラオケ、カラオケ」と言いながら「生命の泉」屋根の下のカラオケ装置を指さします。おそらく「掃除が終わるまで時間がかかるからカラオケでも歌ってなさい」ということなのでしょうが、さすがに一人で屋外カラオケするほどの度胸は無いので、遠慮して鉄製ブイの前の岩に腰掛けていると、おじさんは「これでも読んでなさい」と言わんばかりに一冊の本を手渡してくれました。その本こそ鈴木浩大さんの「湯けむり台湾紀行―名湯・秘湯ガイド」であります。台湾温泉めぐりのバイブル的存在であり、私もこの本を読んで太平洋鹹水温泉の存在を知ったのです。まさかこんなところでお目にかかれるとは露程にも思いませんでした。私とこの温泉を結び付けてくれたこの本に改めて感謝です。


 
繁忙期には源泉が落とされるらしい滝は、この日はカラッカラ。でも赤く染まった岩からは、温泉がいかに濃いかが窺い知ることができますね。おじさんが掃除しているお風呂でもこんな色に染まったお湯に入れるのかな…期待しちゃいます。敷地内にあるプールも干からびていました。シーズンオフなので、しばらく使われていないようです。



この温泉は台鉄南廻線の橋梁の北側橋詰に位置しており、鉄道の橋の下には金崙渓の河口、そしてその先に広がる太平洋を臨めます。おじさんは突然来訪したどこかのおばちゃんと話し込み始め、掃除は一気にスローダウン。まぁ私一人のためにわざわざ掃除してくれているんだから、急かすのはやめようと諦観し、この河原に座ってしばらくボンヤリと海を眺めていました。


 
掃除を開始してから約30分。槽内をホースで濯ぎ終わったおじさんは、浴槽に栓をして湯口のボールバルブを全開にし、お湯を溜めはじめました。湯口からはドバドバと大量に源泉が注がれます。カラカラに乾いた源泉の滝では、温泉成分が赤い色を帯びて付着していましたが、湯口から出てくるお湯は無色透明です。あれれ?違う泉質なのかな? 吐湯量が多いので、ものの数分で入浴できる嵩まで溜まりました。

受付小屋裏に建つ建物で水着に着替えます(撮影失念)。1階がシャワー(兼更衣室)やトイレ、2階が民宿の客室になっていました。そんなに古い施設ではないはずなのですが、安普請なのかメンテナンスの問題なのか、あるいは潮風を受けやすいロケーションゆえか、敷地内の建物はどれもかなり草臥れており、トタン板は錆が浮いていたり波打ってベコベコになっていたりしていました。シャワー室エリアは全体的に薄暗くて建てつけも悪く、トイレから漂ってくるアンモニア臭のため、あまり長居したくない状態でした。


 
当初、客は私一人だけだったのですが、お湯が溜まるタイミングを見計らっていたかのように車2台に分乗した家族連れがやってきて、私が呑気に着替えているうちに、そのファミリーが次々に温泉プールへと入ってゆきました。お湯を独り占めできなくなりちょっと落胆した反面、あまりに寂しい状況が俄然解決されたので、ほっと安堵したのも事実。

この日利用できたのは、温泉プールと冷水プールのふたつ。両者は一見すると区別がつきませんが、温泉水につけた指先を嘗めてみるだけで、その差は歴然です。鹹水という名前の通り、海水のような強い塩辛さが特徴的でして、この他、ヨードのような弱い匂い、そして金気の味と匂いも感じられました。私の利用中に、温泉水は無色透明から少しずつ僅かに濁ってゆきましたが、真っ赤に濁るまでには至りませんでした。おそらく暫く放置しておけば真っ赤に濁るのでしょうが、この温泉は空気に触れたら一気に変色・変質するようなタイプではなく、ゆっくり穏やかに変化を呈してゆく性質のようです。
ここの温泉ほどしょっぱいお湯は、台湾では他に類を見ないのではないでしょうか(緑島の海中温泉を除く)。塩分濃度からも想像できるかと思いますが、入浴中は体が浮くのも面白いところです。源泉掛け流しの濃厚なお湯、しかも一番風呂に浸かれて、本当に幸せです。

なお温かい海水に浸かっているのと同じですから、湯上りにシャワーを浴びないと体はかなりベトつきます。また強食塩泉ですから迂闊に長湯すると体力や水分が奪われ、強烈に火照ってしまうこと必至です。本当に濃くパワフルな温泉ですから、自分の体力とよく相談しながら入浴することが求められるでしょう。このような性格の温泉ですから、お湯で火照った後に水風呂へ入ると、ものすごい爽快感が得られました。



入浴しているとおじさんが急須を持ちながら手招きしました。プールサイドのテーブル上には2つのガラスコップが置かれています。おじさんはそのコップのうち、片方に冷水プールの水(普通の水)を、もう片方には温泉水を汲み、両方へ急須からお茶を注ぎました。すると、水の方は単にお茶が薄まっただけですが、温泉の方は忽ち真っ黒く変色したのです。あまりに急激な変色を目にして私は「おおっ!」と驚きの声を上げてしまいましたが、これってお茶のタンニンが温泉に含まれる鉄分と反応して黒色を呈したわけですね。鉄管を通ってきた水道水で紅茶を淹れたら黒くなっちゃった、という話はよく耳にしますが、これと同じ原理です。わかりやすいリアクションの私におじさんはご満悦でしたが、これだけはっきり色が変わるのですから、温泉中に溶存している鉄分量は相当多いのでしょう。

施設・設備はあまり期待できませんが、強烈な個性を持つ源泉は秀逸。心細い思いをしながらわざわざここまで来た甲斐がありました。


南廻線・金崙駅より徒歩5分
台東県太麻里郷金崙227  地図
(089)771865

入浴可能時間不明
150元
ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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瑞穂温泉 東岡秀川温泉会館 (台湾東部)

2012年04月17日 | 台湾

前回取り上げた「瑞雄温泉旅館」からあてもなく周囲を逍遥。近所にはえらく古い民家が残っていました。日本統治時代からのものかしら?



温泉路を駅へ向かって歩いてゆくと、路傍には「東岡秀川」なる施設のデカイ矢印形看板が立っていました。おそらく温泉施設なのでしょうけど、なんだか不思議なネーミングですね。どんなところなのか予備知識が全くないまま行ってみることに。


 
路地沿いの畑ではパイナップルをはじめいろんな作物が栽培されていました。人家などは一切見当たらない、ちょっと心細くなるような長閑すぎる田園風景。


 
(右(下)画像はクリックで拡大)
温泉路から路地に入って約10分ほどで到着。敷居の高そうなリゾート施設を思わせる入口ですが、はたして一人ぼっちで伺って入浴だけの利用を受け付けてくれるのかしら? 大きな看板の下には花谷縦谷国家風景区管理所の手により、東岡秀川の名前の由来が記された小さなプレートが立っていました。名前の由来というより、瑞穂温泉の温泉開発の歴史に関する記述がメインなのですが、その下の方にはQ&Aとして…
Q:東岡秀川って日本人の名前なんですか?
A:いいえ、東岡は「東部峻嶺」、秀川は「秀姑巒渓」をそれぞれ意味します
なんて書かれていました。確かに字面からは日本の固有名詞の近いものを感じますが、その意味は当地の地形に由来するもののようです。でも読み方にはHigashi-Oka-Hide-Kawaとアルファベットを当てているので、日本風なイメージを持たせようとしていることは明らかですね。台湾を巡っていると、このよう意味不明な日本語風ネーミングにしばしば遭遇します。



雄大な自然の中に佇む平屋の本棟。広々とした敷地にポツンと建つその様は、学校の校舎みたいです。撮り忘れてしまいましたが、館内はウッディな雰囲気でリゾート感溢れる、とっても綺麗で洒落た空間です。



入浴を乞うと、大衆池(いわゆる温泉プール)や個人池(個室風呂)などがリストアップされた一覧を見せてくれましたが、閑散期の平日日中だからか大衆池は利用不可とのことだったので、個人池を選択し料金を支払います。すると受付の方はシャンプー、シャワージェル、シャンプーハット、使い捨てタオルなどアメニティー類一式が入ったバスケットを手渡してくれました。リゾートを感じさせる演出なのかな。


 
洗面台やドライヤーなどが設けられているエリア。ここでスリッパに履き替え。
この一角には脱水機も置かれています。この施設のみならず、水着で利用する台湾のSPAには脱水機が用意されていることが多く、旅行者としては濡れたまま水着を持ち歩かずに済むので、とっても助かります。


 
係員に案内された個室風呂はフロントから近い場所の一室です。2人サイズの浴槽はコンクリ造ですが、縁や湯口などに木材を用いており、木のぬくもりを醸し出そうとする演出意図が伝わってきます。でも先程利用した「瑞雄温泉旅館」の露天個室風呂と違って、こちらの部屋は窓が無く天井が低くて面積そのものも狭いため、いくら木材を用いようとも室内の閉塞感・圧迫感がとても強く、温泉風情や開放感が得られないのは残念でした。バルブを全開にして空っぽの浴槽へお湯を溜めます。お湯が満たされるには10分ほど要しました。



お湯が溜まりました。画像では木組みの吐水口と金属むき出し配管の2つが確認できるかと思います。先入観で考えると、木組みの方から温泉が出るものと思いがちですが、なぜか主役であるはずの温泉は味気ない金属配管から吐き出され、木組みからは水が出てきました。普通は逆なんじゃないのかなぁ…。
お湯は黄土色に濁っており、瑞穂らしい典型的な重炭酸土類泉ですが、瑞穂温泉瑞雄温泉よりは濁り方が薄く、浴槽の底までちゃんと見えるほどの透明度を有しています。見た目の薄さに比例して味や匂いも弱いのですが、それでも炭酸味や金気そして石灰味ははっきりと舌に伝わってきました(気泡の付着などは無し)。湯口から出てくる源泉はあまり熱くなく、むしろ入浴には丁度良い湯加減なので、加水しないで湯船に溜めても全く問題ありません。お湯のクオリティは悪くないので、もう少し開放的な環境で入浴したかったなぁ。


 
訪問時には利用できなかったSPAエリアを見学。
黄土色に濁った温泉プールと清冽に澄み切った冷水プールがあるのですが、この時温泉は半分くらいしか入っておらず、そのお湯も溜めっぱなしで相当鈍っているようでした。そして打たせ湯などが設けられている奥の方のプールは空っぽでした。開放的なプールで伸び伸び寛いでみたかったのですが、お客さんが少ない時間帯ですから仕方ありません。当然ながら週末には完全にお湯が張られるものと思われます。



プールサイドには棟割長屋のように個室が沢山並んでいます。芝生の広場が美しく、公園の中にいるかのようです。



冷水プールの色は清々しい青。見るだけで清涼感たっぷりです。湯上がりにプールサイドのデッキチェアで横になってのんびりしていると、周囲の緑からは小鳥のかまびすしい囀りがあらゆる方向から聞こえてきます。南国の青空と暖かい陽気、生命感あふれる緑、そして小鳥のコーラス・・・たちまち夢の国に誘われ、あたかも天国にいるかのようでした。
後程こちらのホームページを拝見したら、上品でセンスの良いアコモディションに感嘆。素敵じゃないですか。ここは時間を忘れてゆっくり滞在すべき施設のようです。お風呂に関してはいろいろと残念なことが多かったのですが、こればかりは訪れたタイミングが悪かった…。次回は是非宿泊したいものです。


花蓮県瑞穂郷温泉路3段2巷31-6  地図
(03)8876896
ホームページ

大衆池(プール)100元
個人池300元

私の好み:★★

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●駅まで散歩
この地域にはサイクリングロードが整備されています。当初はこの道を自転車に跨って快走するつもりだったのですが、貸し自転車屋が定休日だったため、やむを得ず徒歩で当地を巡ることに(委細は「瑞雄温泉旅館」のページの前半にて)。温泉を2軒はしごした後はサイクリングロードを経由しながら駅へ戻ることにしました。

 
サイクリングロードは歩いても爽快。南国気分を全身で満喫。


 
瑞穂は農業地帯であるとともに酪農地帯でもあり、コンビニで必ず売っている「瑞穂牛乳」はまさにこの瑞穂の名産品。この日は残念ながら瑞穂牧場には行けませんでしたが、温泉路からちょっと脇道へ逸れると小規模な酪農家が散在しており、牧場ではホルスタイン種が飼われていました。


 
小奇麗な温泉民宿も点在。瑞穂では近年開発がすすみ、温泉旅館や民宿が増加しているんだそうです。


 
道沿いにはパパイヤが実っていました。まだ青いので食べられるような状態ではないでしょうけど。
自転車で快走したら清々しかっただろうな。
瑞穂駅へ戻った後は、列車に乗って台東県の金崙を目指します(つづく)。
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瑞穂温泉 瑞雄温泉旅館 (台湾東部)

2012年04月16日 | 台湾
 
台湾東部で温泉めぐりをするなら瑞穂地区を欠かすわけにはいかないので、当初予定にはなかったのですが、後の予定に影響が出ない程度で数時間だけ、久しぶりに瑞穂へ寄り道してみることにしました。以前訪問時には無味乾燥としていた駅構内のアンダーパスには、いつの間にやら観光地図や地名を示したものが石碑風に飾られていました。これを見れば、元々は水尾という地名だったのが、日本統治後に読みを日本語化した上で瑞祥地名化して瑞穂となり、光復後も今に至るまで字面はそのまま、という当地の地名の変遷が一目瞭然ですね。



長閑なローカル駅なのですが、アンダーパスの側面には「防空避難所」と記された物騒なプレートがはめ込まれていました。両岸問題を抱える台湾ではコンクリの建造物などでこのプレートをよく見かけますが、台湾海峡とは反対側の至って平和なこの瑞穂でキナ臭い言葉を見かけたので、実質的には形骸化しているんでしょうけど、その意外性にギョっとしてしまいました。



駅舎本棟の上屋から垂れ下がっている気根のカーテン、そして柱の下に置かれているブーゲンビリアの鉢植え。いかにも南国らしいですね。


 
久しぶりに瑞穂駅へ降りたちました。懐かしい景色だぁ。行李房(ラッチ内にあり)に大きな荷物を預かってもらい、身軽になってから温泉を目指します。駅から温泉施設がある一画までは、車に乗る程じゃないのですが、歩くには面倒という中途半端な距離なので、何か都合の良い移動方法は無いかと前夜にネットでいろいろと調べていたら、駅前のショボい商店街に最近レンタサイクル店が開業したという情報を入手したので、駅を出て左斜め前にあるそのレンタサイクル店へ(観光案内所の並び)向かいます。今日は気持ち良い青空が広がる絶好のサイクリング日和であり、温泉のみならず、近くにある観光名所の瑞穂牧場(台湾人にとって瑞穂は温泉ではなく牛乳で有名かも)にも寄って新鮮な乳製品をいただけたら最高だ!! なんて口笛拭いて浮かれ気分で店を訪ねると、入口は固く閉ざされており店内は真っ暗。あろうことか、この日(木曜日)は週1回の定休日だったのです。ウキウキ気分のサイクリングを想像していた私は一気に落胆し、この時点でハートが半分近く折れてしまったのですが、せっかくこの駅で降り立ったのですから、牧場は無理でも温泉だけでも寄っていかなきゃ損だろうと、何とか心を奮い起こして、駅前で客を手ぐすね引いて待っているタクシーに乗り込み、駅の裏手から伸びる一本道「温泉路」を、あてもなく西進してもらうことにしました。



当初予定では、サイクリングしながら適当に行き当たった温泉施設で入浴するつもりでしたので、タクシーの運ちゃんに「ドコイク?」(瑞穂は温泉好きの日本人が訪れるので片言の日本語を話せる運ちゃんが多い)と聞かれた時には答えに窮してしまったのですが、とりあえず「温泉路」を奥へ進んでもらい、ファミマの隣に建つ「瑞雄温泉旅館」が偶々目に入ったので、そこで下してもらいました。
ここはちょうど日本の温泉ファンには有名な「瑞穂温泉」「紅葉温泉」へ向う途中にあり、両者を訪れたことのある方なら見覚えがあるのではないかと思いますが、どうしても先にある瑞穂や紅葉が目的地となるために、ここはパスされてしまいやすい施設だろうと思います。かくいう私も以前に瑞穂や紅葉を訪れた際はここをパスしましたが、メイン通り沿いに建つ比較的大きな旅館だけあり、その時からどんな温泉なのか気になっていたので、今回偶々目に入ったのは何かの縁だろうと判断し、こちらで入浴することにしました。



受付のおじさんはとっても愛想良く、平日午前中の訪問にもかかわらず、快く笑顔で対応してくれました。受付から中庭へ出たところにはガラスケースに収められた石灰華の塊が展示されています。


 
中庭にはウッドテラスが広がり、その右側にはコインロッカーがズラリと並んでいます。この日は私以外に誰もいませんでしたが、テラスにはカフェエリアもあり、休日にはSPAを楽しむお客さんで賑わうのでしょう。おじさんは「等一下(ちょっと待って)」と言い残して、どこかへ姿を消してしまいました。



テラスでしばらく腰かけていましたが、手持無沙汰なので構内をウロウロしてみることに。この中庭はいわゆる露天のSPAになっているんですね。台湾の温泉施設は、平日の午前中など来客が望めない時間帯には温泉プールをすっかり空にしてしまうことが多いのですが、こちらもご多分に漏れず、二段に分かれた露天の温泉プールは下段が空っぽ、上段は半分しか入っていませんでした。ちょうどお湯を張りはじめたタイミングだったのかもしれません。


 
黄金色に強く濁るお湯は、見るからに濃そうです。上段から下段へお湯を落とす流路の口には、まるで「瘤取り爺さん」の瘤のように下方へ滴るような形状で、温泉成分の析出がコンモリと付着していました。


 
ウッドデッキと露天浴槽の中間に位置する一画には個室風呂の扉が並んでいます。建物の造りといい、木立といい、なかなか良い雰囲気ですね。露天のお湯を眺めて「濃いお湯だねぇ」なんてわかりきったことを呟いていたら、さっき姿を消したおじさんが個室風呂の一室から顔を覗かせ、笑顔でおいでおいでと手招きしています。なるほど、おじさんは個室風呂の準備をしてくれていたんだな、とその時わかり(姿を消した時点で薄々気づいていましたが)、いそいそとその個室へ向かいました。


 
個室の室内はとっても綺麗。このままビジネスホテルの客室にしても良さそうな雰囲気で、クローゼットや鏡台まで用意されていました。クローゼットを開けると中にはミネラルウォーターが置かれており、無料でいただけます。


 
お風呂は露天になっており、浴槽の上には電動開閉のテントが設置されているので雨天時や日差しの強い日はテントを伸ばせばOKです。おじさんはこのテントの操作方法など、設備についてひとつひとつ丁寧に説明してくれました。
浴槽は温泉槽と水風呂のふたつ。温泉槽は3人同時に入れそうなサイズで、一人利用の私は悠々と寛いで湯あみすることができました。頭上には山の梢がせり出しているため、時々葉っぱや虫が落ちてきますが、緑豊かな環境ですから、自然と親しむべく葉や虫と混浴するのもまた一興です。
浴槽の脇にはシャワー付き混合栓があり、シャンプーやボディーソープも備え付けられています。また水風呂上の壁にはテレビまで設けられていました。


 
浴槽に注ぐお湯や水は自分でバルブを開閉して投入量を調整します。配管がむき出しですが、もう少し上手く隠せなかったものかしら…。
木組みの湯口から露天SPAで見たものと同じ源泉が出てきます。黄土色というより黄金色と表現したくなる明るい色を帯びて濁っており、透明度は30~40cmでしょうか。重炭酸土類泉らしい土気と金気が混ざった味と匂いが感じられますが、金気よりは石灰的な知覚の方が断然はっきりしています。また微かな塩味も含んでいるようでした。お湯は湯口から出る段階で41℃くらいなので、湯船ではそれより若干下がり、いつまでも長湯していたくなる絶妙な湯加減に保たれていました。幾分ぬるめなのに湯上りにはしっかり温まりますから、水分補給は欠かせません。

貸切風呂で誰にも邪魔されず、山の自然と静かな環境に囲まれながら、掛け流しの濁り湯に浸るひとときは、とっても優雅で贅沢。行き当たりばったりで入った温泉でしたが、思いがけない寛ぎが得られました。


花蓮縣瑞穗郷温泉路3段185號  地図
(03)8872254
ホームページ(なのかな?)(繁体字中文)

日帰り入浴可能時間不明(ちなみに私は午前10時半に訪問しました)
個室風呂300元
ドライヤー・シャンプー類あり

私の好み:★★★
コメント (4)
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安通温泉 安通温泉飯店 (台湾東部)

2012年04月15日 | 台湾
 
安通温泉での宿泊は当地の老舗である安通温泉飯店でお世話になることにしました。山奥の質素なお宿を想像していましたが、意外にも立派で大きな建物です。スタッフは(個人差があるものの)日本語か英語のいずれかが通じるので、台湾語が話せなくても問題なし。今回の利用にあたっては日本からメールで予約しておいたので、チェックインは実にスムーズでした(なおメールは日本語と中国語の普通話を併記して送信したのですが、英語で回答が返信されてきました)。


●部屋
 
編み笠を被った日本語を話せるおじさんが館内を案内してくれました。通されたお部屋はEVから近くて便利な503号室。なお建物自体は5階建てですが、「四」が「死」に通じるため忌み数となり、実質的な4階が5階として使われています。室内構成としてはごく一般的ですが、きちんと綺麗に清掃されており、広さもまずまずで居住性は良好。天井にはシーリングファンが設置されているので、これを扇風機代わりにすることができました。室内では無線LANも使えるので便利です。



部屋に付帯しているベランダから外を眺望。すぐ下は露天SPA、道路の向こうは大きく湾曲して流れる安通渓です。前回取り上げた川原の公衆露天風呂もこの画面の範囲内にあります。


 
お部屋にはユニットバススタイルのお風呂とトイレが設けられており、お風呂のお湯は源泉は引かれています。無色透明のお湯からはタマゴ臭&味が明瞭に感じられ、ヌルヌル感も強く、かなり良質です。



バスタブ横に貼ってある注意書きには「温泉水は加温していないので10分間出しっ放しにしておいてください(朝は20分)」と書かれていました。ボイラーなどを使わず、源泉から直接配管を引っ張っているので、温かいお湯が出てくるまで時間がかかるわけですね。


●お風呂について
 

(両画像ともクリックで拡大)
こちらのホテルではお部屋のお風呂の他、水着と水泳帽を着用する露天SPA、裸で入浴する内湯、別途料金が必要な最上階の貸切露天風呂「星光湯屋」の3つの温浴ゾーンがあり、このうち私は前2者を利用しました。
画像左(上)は全体図、右(下)は温泉分析表です。図において、上半分が内湯、下半分が露天SPAを示しています。また分析表では放流式(掛け流し)の湯使いであることが明記されています。


●露天風呂(SPA)
 
ロビーや食堂がある本棟と4階建ての宿泊棟に挟まれたスペースには、いろんな温浴プールが。
いずれも温泉水が張られているのが嬉しいところ。プールに近づくだけで温泉由来のタマゴ臭(硫黄臭)が鼻孔をくすぐってくるので、私はついつい麻薬探査犬のように鼻をクンクン鳴らしてしまいました。


 
本棟から見て右手手前にあるのが重力水療区と泳池区。重力水療区という字面からは重々しい物を感じますが、早い話が打たせ湯などによって水圧を楽しむエリアということでして、台湾のSPAではおなじみの沖撃湯(体がバラバラになりそうな程に強力な打たせ湯)が3本と、2階の天井と同じ高さから垂直に落とされる打たせ湯が2本、それぞれ凄まじい水音を轟かせながら噴射されていました。一般には沖撃湯と称する施設を、ここでは湯口の形状から「重力鴨嘴噴頭」とネーミングしているのがユニークです。プールの温度計は「43℃」と表示していましたが、体感的には38℃くらいでした。一方、その隣にある広いプール「泳池区」は読んで字の如く遊泳プールなのですが、なぜか前浴槽の中で最も熱く、温度計は39℃を示しているのに、体感としては43℃近くありました。このため、試しに平泳ぎで2往復してみましたが、熱さで体力が奪われてしまい、たちまちヘトヘトに…。


 
泳池区の向かいにあるのが浸泡区。日本の岩風呂のような作りをしており、まさに日本の露天風呂のようにじっくりと湯あみするための浴槽です。日本人が思わず入りたくなる雰囲気ですね。これで全裸で入浴できれば最高なのですが…。温度計には49.3℃と表示されていたので恐る恐るお湯に指を突っ込んでみたのですが、実際には42℃ほどで、全身浴に丁度良い湯加減でした。もちろんこちらも温泉です。
それにしても重力水療区、泳池区、浸泡区、そのいずれにおいても温度計の数値がデタラメなんですね。心の中で「意味ないじゃん」と叫んでしまいました。


 
本棟の左側には岩風呂風のプールもあり、熱水区と温水区の二つに分かれています。熱水といっても多少熱い程度で、温水区に至っては水風呂に近いのですが、あくまでレジャー感覚で楽しむプールですから、むしろぬるくないと不適当なわけです。こちらには三つ又状の打たせ湯やジェットバスなどが設置されており、こっちの打たせ湯は比較的おとなしいので、重力水療区の刺激が強すぎる方にはこちらの方がいいかも。

この他、足湯や温泉蒸気のよるスチームバスなども利用でき、この露天SPAだけでも存分に温泉温浴が楽しめました。


●内湯

さて安通温泉の真打ち登場。露天と異なり、こちらは全裸で入浴します。結論から申し上げると、この内湯は秀逸でした。露天SPA側に開けた入口から中へと入り、内湯専用のカウンターで部屋番号を告げて、脱衣所のロッカーキーを受け取ります(係員によっては「キーをちょうだい」と言わないと手渡してくれないかも)。
なお以下は内湯の大浴場について紹介しますが、大浴場の他、同じフロアには個室風呂もあり、宿泊者はこの個室風呂も無料で利用できるそうです。受付の右手が大浴場、左手が個室風呂です。今回は右手へと進みます。


 
ロッカーが壁を埋め尽くしている更衣室。宿泊中は2度この内湯を利用し、その際にあてがわれたいずれも中央に位置するものだったので難なく使えましたが、もし天井や床に近いロッカーだったら、どうやって使ったら良いんでしょう。


 
内湯全景。タイル貼りで何気ない浴室に見えますが、浴室へのドアを開けた途端、はっきりとした硫黄臭が感じられ、ここのお湯が只者ではないことを知らせてくれます。自ずと期待に胸が膨らんでしまい、早くもニヤニヤが止まりません。
洗い場の水栓(シャワー付き混合栓)は9基。各ブースは仕切り板でセパレートされており、一人あたりの区画も広いので、ゆったりと使えました。なおシャワーから出てくるお湯は温泉でして、温泉に含まれる硫黄の影響か、水栓金具は硫化して若干黒ずんでいました。


 
シャワーとは別に小さな掛け湯専用の槽もあり、お湯はもちろん温泉。



浴槽は3つあって、うち2つが温泉の温浴槽です。右側が熱くて43~4℃、左側はぬるめで約38℃といったところ。ちなみに温度計は前者が45.1℃、後者は40.1℃を示していましたが、露天同様にやはりここも誤表示だろうと思います。
いや、温度計なんてどうでもいい! 何とはともあれ、お湯がすばらしい! 無色透明の澄んだお湯からははっきりとしたタマゴ味に焦げたような苦み、そして薄い塩味が感じられ、強いタマゴ臭を放っています。湯口付近でよく嗅いでみると、タマゴ臭というより石油を思わせるような匂いと表現してもよいかもしれません。明瞭で個性的な知覚面もさることながら、ローションも真っ青なヌルヌル浴感がすばらしく、入浴中は何度も肌をさすりたくなること必至でしょう。
露天もお部屋のお湯も同じ源泉を使用しているようですが、知覚や浴感では内湯が遥かにレベルが高く、質の良さで並べると内湯>部屋>露天SPAの順になるかと思います。この内湯のお湯だけでも「わざわざこんな山奥まで来て良かった」と感動できるほどでした。



両浴槽ともお湯は2mほどの高さにある獅子の湯口から落とされています。獅子のお口には白い析出が付着していますが、この析出はとても脆く、指先でちょこっと触れるだけで結晶が崩れてしまいました。



温浴層の他に水風呂もあり、冷温の交互入浴も楽しめます。私は19時と22時半の2度このお風呂を利用したのですが、いつ行っても内湯で入浴し続けている中年のおじさんがいて、22時半に利用した際に「何時間入っているんですか?」と聞いたところ、「(夕方)6時半に入っているから、もう4時間以上だね」という答えが返ってきました。こんな閉塞的な空間に4時間以上も入っていられるなんて驚愕ですが、おじさんは「お湯の滑らか質が大好きで、且つ水風呂と熱い風呂の交互入浴を繰り返していると本当に気持ち良いから、時間を忘れていつまでもお風呂にいられるんだ」と笑みを浮かべながら語っていました。


●源泉地帯
 
翌朝、天気の良さに誘われて宿の周りをお散歩していたとき、何気なく奥の駐車場スペースへ踏み込んだ際に、鬼太郎の妖怪アンテナならぬ我が温泉アンテナ(つまり第六感のようなもの)が激しく反応したので、導かれるがままにアンテナが示す方向へ向かってみると、そこには「高温注意」の赤い立札が立てられ、柵によって円形に囲まれたエリアがありました。


 
柵の内側には熱湯が煮え滾る小判型の池を発見。これは明らかに安通温泉の源泉地帯ですね。源泉はここのみならず、安通渓の川に沿って約200~300mの間に分散しているそうです。


●その他

台湾はどんな田舎に行っても集落に1軒くらいは飯屋やコンビニがあるものですが、安通温泉にはコンビニはおろか、レストランすらも無く、適当に外を歩いて食事を楽しむようなことができません。従って夕食は必然的にホテル内の食堂で摂ることになります。今回選んだ宿泊プランに夕食は含まれていなかったので、別料金で注文することに。頼んだのは豚肉の炒め物の定食で、お弁当のような容器に詰められて出されました。中身は豚の炒め物の他、空芯菜炒め(私の大好物)、目玉焼き、そしてココナッツのお刺身です。ココナッツのお刺身は、初めての人は「なにこれ? イカの刺身?」なんて驚きますが、私は何度もいただいているので別段驚きはしません。でも、丸い器の中には台湾南東部の名産である金針菜(ワスレグサ・百合の一種)の花を具にしたスープが入っており、初めていただく金針菜の素朴な味には心が癒されました。
ちなみに朝食は中式(中華料理)のバイキングでした。



安通温泉は1904年に樟脳(カンフル)を採取しようとした日本人によって発見され、その当時から温泉地として拓かれていったんだそうです。現在の宿泊棟の裏手には日本統治時代からの旅社が残っていますが、戦前の木造建築にしては妙に艶々しており、おそらく実際には建て替えられているんでしょうから、残っているというより復元されていると表現したほうが適切かもしれません。この日は何かのロケが行われており、すっかり中華風の姿に変わっていました。古い建物ですから、時代物の撮影のセットとして重宝するんでしょうね。


 
玄関ではニャンコが呑気に大あくび。
ニャンコじゃなくても思いっきりあくびを誘われてしまう、静かでのんびりした環境の温泉でした。



塩化物・硫酸塩温泉
56.2℃ pH8.3 0.007m3/sec(=420L/min) 総溶解固体量1673mg/L
Cl-:670mg/L SO4-:188mg/L HCO3-:17.6mg/L 遊離CO2:0.05mg/L 硫化物0.21mg/L
陽イオンはFe++以外分析表に記載なし(しかもそのFe++ですらND(not detected))(おそらくNa+がメインだと思う)

花蓮県玉里町楽合里温泉36号  地図
(03)8886108
ホームページ

入浴のみの利用可能

私の好み:★★★
コメント (2)
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安通温泉 川原の公衆露天風呂 (台湾東部)

2012年04月14日 | 台湾
川原の公衆露天風呂? 何じゃそりゃ?という声が聞こえてきそうですが、詳しくは後ほど。


 
前回取り上げた立川漁場でシジミを鱈腹食べた後、歩いて壽豐駅へ戻り、キョ光号で玉里へ向かいます。


 
キョ光号の車両は、自動ドアとLEDの行先表示・車内案内を装備している新タイプと、薄汚れたデコラの内装と昔ながらの手動ドアでボロさたっぷりの旧タイプの2種類が混在していますが、今回やって来たのはボロい車両の方でした。車体は古いくせに台車がボルスタレスだったりするのが何ともチグハグで不思議ですが、それはともかく、古いボロ車両に乗ると日本から失われてしまった客車らしい独特の旅情を盛り立ててくれるので、私は旧タイプの方が断然好きです。シートピッチは広々、シートも大きくリクライニングするので、たとえ古くてもとっても快適。使い古されたシートの肘掛には、度重なる修繕によってペンキを厚くベッタリ塗り重ねた跡がはっきりと見られました。


 
玉里に到着。界隈では比較的大きな街であるため、乗客の約半数はここで降車していきました。
構内ではDR2700がお休み中。小田急沿線住民としては、小田急顔(小田急の車両の伝統的な前面様式)にそっくりなこの前面の造作に親近感を抱いてしまいます。DR2700は40年以上前に日本の東急車輌で製造された古参のディーゼルカーであり、かつては台鉄の花形として大活躍しましたが、いまでは都落ちして東部幹線非電化区間の普快車(普通列車)用として余生を送っています。


 
玉里駅の駅舎と駅前広場。いかにも台鉄らしいスタイルの駅舎ですね。屋根上には大きな液晶画面が設置され、一応通電されているのですが、画面のほとんどで液晶漏れが発生しており、どんなものが映っているのか、さっぱりわかりませんでした。
駅前ロータリーからタクシーに乗って目的地である安通温泉へ。どのタクシーでも安通温泉への料金は250元で統一されているようです。



タクシーに揺られること約20分で安通温泉に到着。谷底を流れる川に沿って数軒の温泉旅館がポツンポツンと点在している、山間の鄙びた温泉地。宿泊施設以外にはこれといった建物が無い、本当に静かで何もないところです。



宿へ向かわず、いきなり川原を目指します。
安通温泉飯店の向かい側の、道路と川に挟まれた狭いスペースには「渓畔温泉」という日帰り専門の有料温泉施設があり、当然こちらでも入浴できますが、今回は敢えてパスし、その施設の脇を通り抜けてます。



川原を歩道を上流に向かって進むと、やがて川岸の原っぱにコンクリのプールを発見。一見すると養魚場の生簀のようにも見えますが、中に人がいることからもわかるように、ここは温泉の露天風呂なのであります。既におじちゃんおばちゃんが湯あみを楽しんでおられました。
コンクリの槽は3つに分かれており、両端の槽ではそれぞれお客さんが入浴を楽しんでいましたが、真ん中の槽には意図的に誰も入ろうとしていません。何故なのでしょう?



辺りをウロウロしながら様子を窺っていると、おばちゃんの一人が「着替えて入っていらっしゃい」と私に声をかけ、ダミ声でまくしたてながら入浴方法を教えてくれたのですが、その時に真ん中を使っていない理由が判明しました。
台湾は入浴前の掛け湯を厳守するマナーが徹底しており、その厳しさは日本以上なのですが、浴槽以外にシャワーやカランなどの水栓類が一切無いこの露天風呂において、どのように掛け湯をするかと言えば、この真ん中の槽の湯口に取り付けられているボールバルブをうまい具合に開閉して吐湯の勢いをコントロールし、ホースの先を指でつまむと水が勢いよく飛んでゆく原理を応用して、湯口のお湯を勢いよく噴射させ、それをシャワー代わりにして掛け湯しているのです。つまり真ん中の槽は入浴するのではなく、洗い場代わりだったのですね。
↑画像では普通に湯口からお湯が出ているだけですが、湯口の上のバルブの開閉具合を調整することにより、川にも届くようなすごい勢いでお湯が噴出してゆきます。単にこのバルブを開閉するだけではなく、隣の湯口でも調整しないとうまく出ないらしく、初めて訪問した私にそのあたりの塩梅をつかむことはできず、おばちゃんに調整をお願いしました。

野趣溢れる場所の露天風呂ですからてっきり掛け湯だけなのかと思いきや、後から来た原住民夫婦はその場で水着に着替えた後、シャンプーやボディーソープを持ち出して、湯口から出る横殴りシャワーを浴びながら、全身泡だらけにして体を洗いはじめたので、私は思わず目玉を丸くしてしまいました。しかし、このご夫婦の他にも同様の使い方をする人がいらっしゃったので、ここでは銭湯のようにガッツリ体を洗って入浴するのが普通であり、まさに青空公衆浴場とでもいうべき使われ方がなされているのであります。露天風呂は公設であり、無料で気軽に利用できますから、常連さんにとってこの露天風呂は生活の一部になっているんだろうと思われます。掲題にて「川原の公衆露天風呂」と称したのは、このような特徴を表現したかったのです。


 
湯口から出るお湯はかなり熱く、50℃近くはありそうでした(測定し忘れちゃいました)。このため真ん中の槽で湯口のシャワーを浴びるときには、火傷に要注意。そんなことも露知らずに横殴りシャワーへ突撃してしまった私は、お湯の熱さにびっくりして「アチィ、アチィ」と叫びながらピョンピョン飛び跳ね、おじさんおばさん達に大声で爆笑されてしまいましたが、むしろこの滑稽な様が良いきっかけとなって露天風呂全体が笑いに包まれ、皆さんの輪に入ることができました。

各浴槽ともお湯は膝丈より低い程度しか溜まっていません。湯口を全開にしてドバドバお湯を出しても大して増えません。浴槽の底の排水口に栓が無いのです。もっとも、お湯が熱くて加水もできないので(水の配管は壊れていました)、湯船をお湯でいっぱいに満たしたところで、熱さゆえに恐らく全身浴することはできないでしょうし、浅くても寝そべれば肩まで浸かることができますから、現状でも特に不便するわけではありませんでした。浴槽の縁で涼みながら皆さんとお喋りし、体が冷えたかなと感じたら、再びお湯に浸かるか柄杓で掛け湯するなどして温浴し、再び縁に上がって川風に吹かれてクールダウンする…。ひたすらこの繰り返しを楽しみました。



おばちゃんに頼んで記念撮影してもらいました。背後の芝生の上に映っているのは常連のおじちゃんでして、ちょうどお風呂から上がって服に着替えている最中です。この露天風呂には更衣室らしきものや目隠しなどは何にも無いので、着替えの際にはポンチョのようなものを持参し、適当にその場でゴソゴソと手早く済まさねばなりません。常連さんは実に手馴れており、早業でサクサクっと着替えていました。
お湯は無色透明でほんのりタマゴのような匂いと味が感じられます。


 
皆さんが帰った後に改めて撮影しました。緑豊かな渓流の川原に佇む開放的な環境で、のんびり湯あみできることがおわかりいただけるかと思いますが、まさかこの吹きっ晒しのコンクリ槽が公衆浴場として使われているとは、いろんな温泉を巡っている私も想像だにしませんでした。

常連さんのうち一人のおじさんは片言の日本語が話せたので、この人を介して皆さんとお喋りすることにしたのですが、曰く、みなさんほぼ毎日のようにここへ通っており、お湯に浸かりながらお喋りするのが楽しいんだそうです。また無色透明な安通温泉の泉質や、新鮮なお湯を無料で浴びることができるこの露天風呂をとても誇りにしており、一方、同じ花蓮県にあって日本の温泉ファンにもお馴染の瑞穂温泉のことを異口同音に「不好」と評していました。料金が高いうえに濁っているから良くない、とのことなのですが、この地では透明な温泉が好まれるんでしょうか。いろんな面で台湾の温泉文化について学ぶところが多かった露天風呂でした。



花蓮県玉里町楽合里温泉  地図

利用可能時間不明(おそらく日中なら利用可)
無料

私の好み:★★★
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