温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾糖業鉄道の観光トロッコ「五分車」 その3・橋頭 (台湾南部)

2012年04月29日 | 台湾
新営糖廠のトロッコ列車に満足した後、新営駅から台鉄や高雄捷運(MRT)を乗りついで、高雄市郊外の橋頭へとやってきました。橋頭は台湾で最初に近代的な製糖工場が建設された土地。ここでもかつてサトウキビを運んでいたトロッコ列車が観光用として週末だけ運転されています。


高雄市の北に位置する橋頭糖廠は高雄市街から捷運(MRT)1本で気軽に行ける好立地。烏樹林や新営は交通アクセスがちょっと…と二の足を踏んでしまう方にも、ここなら問題ないでしょう。


 
MRT橋頭糖廠駅。煉瓦っぽい外壁により、周囲の産業遺産的な構造物との調和を図っているんだとか。


 
既に製糖工場の操業が終了してから20年近く経っており、構内は都市近郊の緑豊かな公園・レジャーパークとして変貌を遂げています。週末のこの日も親子連れで大変賑わっていました。今度のトロッコ列車の発車は16:30。その時間までちょっと時間があるので、園内を歩いてみることに。


●日本時代の遺構
 
MRT駅付近の何気ない地味な建物。よく見ると建物の石段の両側には古い狛犬が置かれており、手前側には石灯籠が立っていました。おそらくここには日本時代に日本式の神社があったと思われます。



表に奉献と彫られた石灯籠の裏手を見ると、そこには日付が彫られていたはずですが、すっかり文字が削られていました。でも一番上だけ「昭」の字が判読できるので、昭和期のものであることがわかります。光復後に国民党の手により日本の面影が残る部分が削られたのでしょう。


 
石灯籠の傍にある手水鉢。「奉納 ●●六年拾壹月吉日」と彫られています。元号の●●の部分は削られていますが、うっすら昭和と判読できました。これも日本の匂いがプンプンする元号だけが削られたわけです。日本の遺物をまるごと否定せず、元号のみを消して物自体は大切の残そうとしたんですね。苦肉の策だったのでしょう。


 
煉瓦積みの塀で囲まれたエリアの中には古い平屋の建物が残されており…


 
建物の前の傾斜にはこんな穴が開けられていました。1940年(昭和15年)に造られた製糖工場の庶務課職員向けの防空壕で、地形を生かして複層構造になっているんだそうです。


 
駅から線路に沿って北へ歩くと、木陰の下に煉瓦造りの半ドーム状の構造物を発見。これも第二次大戦中に造られた防空壕。園内ではこのように日本時代の遺構が多く残されており、説明板が設置されて大切に保管されています。本当はもうちょっと探索したかったのですが、トロッコ列車の時間が近づいてきましたので、列車の乗り場へと戻ることに。


●トロッコに乗車
 
トロッコ乗り場はMRTの線路の下。橋頭糖廠駅の自動改札を出てそのまま直進すると、すぐに五分車の切符発売小屋に行き当たります。係員のおじさんは「花卉中心17:00発が戻りの最終だからね!」と最終列車の時間を注意するよう何度も念を押していました。


 
トロッコの線路は台鉄の縦貫線と並行しており、発車を待つ間も、自強号や区間車がビュンビュン走り抜けていきました。なおトロッコ線路の北側は草に埋もれて行き止まり。構内には機回し線がないので、トロッコの両端に機関車が連結されています。


 
ここで働いている機関車も、烏樹林や新営と同じスタイルの徳馬牌のDL。誰もいないときにキャブの内部をちょこっと覗いちゃいました。


 
トロッコはいかにもサトウキビを積載する貨車らしい造りですが、屋根が瓦風だったり、柱に竹を被せてあったりと、貨車の無機質な雰囲気をできるだけ払拭しようとする試みがなされていました。



発車後しばらくはMRTの高架の直下を進み、台鉄縦貫線の線路と平行して南下。踏切を越えたあたりで台鉄やMRTと少しずつ離れ、かつて駅があった跡を通過し、やがてサイクリングロードと平行。自転車にぬかされつつもノンビリ走行し、そのまままっすぐ進んでゆきます。他の観光トロッコと異なり、こちらは係員によるガイドもなく、出発合図の警笛が鳴らされた後は、淡々とゴール目指してゆくだけでした。



乗車時間10分で花卉中心駅に到着。高雄花卉農園センターは都市郊外の大規模公園のようなところ。
折り返しの列車の時間まで20分あるので、園内を簡単に散策してみます。


 
花卉中心という名前だけあって、園内ではあちこちでお花が咲き乱れていました。
南国らしい「頭上のヤシの実に注意」の札。


 
木陰の下で静態保存されたトロッコは、車両が檻に改造され、中では鳥が飼われていました。


 
ミニミニ動物園で飼育されているダチョウやヤギなど。


 
園芸植物コーナーでも色とりどりの花が観賞できました。サルビアが綺麗だこと。
乗り場周辺をぐるっと歩いてから、17:00の最終列車で戻りました。トロッコ列車自体にはこれといった特徴は無く、2点間を単純往復するだけのシンプルな運行ですから、いわゆる遊園地のお猿の電車みたいなものですね。烏樹林新営に比べればかなり質素ですが、高雄から簡単便利にアクセスできるので、とりあえずサトウキビのトロッコに乗ってみたいという方には良いかと思います。
でもここで私の心を惹きつけたのは、この観光トロッコ列車ではなく、構内に昔のまま保存されていた製糖工場の姿だったのであります…。


●工場

単純往復のトロッコより強く心に残ったのが台湾糖業博物館。1990年まで操業していた製糖工場がそのまま保存された上で公開されていました。門の大きな「糖」のレリーフが印象的です。


 
ヤード跡にはかつてここで活躍していた車両たちが静態保存されています。単なる保存車両ではなく、周囲の緑と上手く調和しながらオブジェのような感じで一つの風景を造り上げていました。


 
線路は工場へと続いています。


 
下手に小奇麗にせず、操業を停止した時の状況をそのまま手をつけずに保存しているので、あちこちで錆びが浮き出たり損傷が発生していたりしますが、かえってこの方がリアリティがあり、当時の躍動・振動・轟音・臭気などが直に伝わってくるようでした。
これは貨車に積載されたサトウキビを落とし、ベルトコンベアで工場内へ運ぶ施設でしょう。眺めていると自分までサトウキビに紛れて施設に吸い込まれてしまいそうな恐怖感を覚えてしまいました。
工場内も見学できるようですが、訪れた時間が遅かったためか、残念ながらこの時は入口のシャッターが閉じられていました。建物内部はダメでも屋外なら自由に歩けるので、周辺をウロウロしてみることに。


 
画像左(上):トロッコ貨車に荷物を積み込むホッパー
画像右(下):歴史を感じさせる古い煉瓦造りの倉庫


 
画像左(上):「糖蜜槽」。その名の通り製造された液体の糖蜜を貯蔵しておくタンクで、建造から100年以上も経っています。
画像右(下):糖蜜を積んだ貨車を計測する鉄道貨車用の台貫。



こちらはトラック用の台貫。建物には「安全はあなたと私の幸せである」という標語が。


 
「修護所」。修理工場もしくは検修場といったところでしょうか。ここは日本時代に「株式会社台湾鉄工所」だったんだそうです。解説には「1895年の馬関(下関)条約により台湾は日本に割譲された後、日本の植民政策により橋仔頭に近代的な製糖工場が建設された。これにより製糖業が革新されて新たな時代を迎えたのみならず、台湾の経済発展にも大きな影響を与えた」と記されており、当時の日本の政策がポジティブ評価されていることに、日本人として大きく胸が打たれました。


 
列車機器類のパーツで作られたアートスペース「鉄園迷城」



構内にはまさに網の目のようにトロッコの線路が縦横無尽に敷かれていました。これは機関車等の格納庫ですね。


 
これは車両に付着したサトウキビの破片を吹き飛ばす設備かしら?


 
一見無造作に留置されて哀愁を漂わせている車両群も、その無造作ゆえに、きっと現役時代はこのように一時停止していたんだろう、こうして発車を待っていたんだろうと昔日の面影を想像させてくれ、車両が止まっているのにもかかわらず不思議な躍動感すらみなぎらせているようでした。
今は動かないトロッコの傍の高架を、開業して数年しか経っていないMRTが快走していきます。



右へ曲線を描きながら扇状に線路が分岐してゆくヤード。



台糖のゲートを出て・・・


 
橋頭の老街(橋南路)を歩いて、屋台でいろんなものをつまみながら・・・


 
台鉄とMRTが接続している橋頭駅へ。

文中でも申し上げましたが、橋頭の観光トロッコは烏樹林新営に比べればかなり質素であり、そこだけを捉えれば物足りなさすら感じてしまいました。しかし広大な構内に点在する産業遺産は台湾が歩んできた近代化の歴史そのものであり、また日本が台湾に対して行ってきた植民地政策の痕跡でもあって、そうした過去が凝縮された構内を散策して遺構に触れることは、日本人としても非常に意義深く、過去の歩みを見つめなおす良い機会となるのでないかと実感しました。そして、イデオロギーを超越してこうした遺構をありのままの姿で後代に残そうとする台湾の方々の姿勢に敬服致しました。


台湾糖業博物館
高雄市橋頭区橋南里糖廠路24号  地図(トロッコ乗り場)
(07)6113691  
ホームページ

トロッコは土日祝のみ運行 発車時刻→10:30, 11:30, 13:30, 14:30, 15:30, 16:30,
復路(花卉中心)は30分後に出発、最終は17:00
大人80元、145cm未満の子供及び65歳以上の老人50元
コメント (2)
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