温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

安通温泉 川原の公衆露天風呂 (台湾東部)

2012年04月14日 | 台湾
川原の公衆露天風呂? 何じゃそりゃ?という声が聞こえてきそうですが、詳しくは後ほど。


 
前回取り上げた立川漁場でシジミを鱈腹食べた後、歩いて壽豐駅へ戻り、キョ光号で玉里へ向かいます。


 
キョ光号の車両は、自動ドアとLEDの行先表示・車内案内を装備している新タイプと、薄汚れたデコラの内装と昔ながらの手動ドアでボロさたっぷりの旧タイプの2種類が混在していますが、今回やって来たのはボロい車両の方でした。車体は古いくせに台車がボルスタレスだったりするのが何ともチグハグで不思議ですが、それはともかく、古いボロ車両に乗ると日本から失われてしまった客車らしい独特の旅情を盛り立ててくれるので、私は旧タイプの方が断然好きです。シートピッチは広々、シートも大きくリクライニングするので、たとえ古くてもとっても快適。使い古されたシートの肘掛には、度重なる修繕によってペンキを厚くベッタリ塗り重ねた跡がはっきりと見られました。


 
玉里に到着。界隈では比較的大きな街であるため、乗客の約半数はここで降車していきました。
構内ではDR2700がお休み中。小田急沿線住民としては、小田急顔(小田急の車両の伝統的な前面様式)にそっくりなこの前面の造作に親近感を抱いてしまいます。DR2700は40年以上前に日本の東急車輌で製造された古参のディーゼルカーであり、かつては台鉄の花形として大活躍しましたが、いまでは都落ちして東部幹線非電化区間の普快車(普通列車)用として余生を送っています。


 
玉里駅の駅舎と駅前広場。いかにも台鉄らしいスタイルの駅舎ですね。屋根上には大きな液晶画面が設置され、一応通電されているのですが、画面のほとんどで液晶漏れが発生しており、どんなものが映っているのか、さっぱりわかりませんでした。
駅前ロータリーからタクシーに乗って目的地である安通温泉へ。どのタクシーでも安通温泉への料金は250元で統一されているようです。



タクシーに揺られること約20分で安通温泉に到着。谷底を流れる川に沿って数軒の温泉旅館がポツンポツンと点在している、山間の鄙びた温泉地。宿泊施設以外にはこれといった建物が無い、本当に静かで何もないところです。



宿へ向かわず、いきなり川原を目指します。
安通温泉飯店の向かい側の、道路と川に挟まれた狭いスペースには「渓畔温泉」という日帰り専門の有料温泉施設があり、当然こちらでも入浴できますが、今回は敢えてパスし、その施設の脇を通り抜けてます。



川原を歩道を上流に向かって進むと、やがて川岸の原っぱにコンクリのプールを発見。一見すると養魚場の生簀のようにも見えますが、中に人がいることからもわかるように、ここは温泉の露天風呂なのであります。既におじちゃんおばちゃんが湯あみを楽しんでおられました。
コンクリの槽は3つに分かれており、両端の槽ではそれぞれお客さんが入浴を楽しんでいましたが、真ん中の槽には意図的に誰も入ろうとしていません。何故なのでしょう?



辺りをウロウロしながら様子を窺っていると、おばちゃんの一人が「着替えて入っていらっしゃい」と私に声をかけ、ダミ声でまくしたてながら入浴方法を教えてくれたのですが、その時に真ん中を使っていない理由が判明しました。
台湾は入浴前の掛け湯を厳守するマナーが徹底しており、その厳しさは日本以上なのですが、浴槽以外にシャワーやカランなどの水栓類が一切無いこの露天風呂において、どのように掛け湯をするかと言えば、この真ん中の槽の湯口に取り付けられているボールバルブをうまい具合に開閉して吐湯の勢いをコントロールし、ホースの先を指でつまむと水が勢いよく飛んでゆく原理を応用して、湯口のお湯を勢いよく噴射させ、それをシャワー代わりにして掛け湯しているのです。つまり真ん中の槽は入浴するのではなく、洗い場代わりだったのですね。
↑画像では普通に湯口からお湯が出ているだけですが、湯口の上のバルブの開閉具合を調整することにより、川にも届くようなすごい勢いでお湯が噴出してゆきます。単にこのバルブを開閉するだけではなく、隣の湯口でも調整しないとうまく出ないらしく、初めて訪問した私にそのあたりの塩梅をつかむことはできず、おばちゃんに調整をお願いしました。

野趣溢れる場所の露天風呂ですからてっきり掛け湯だけなのかと思いきや、後から来た原住民夫婦はその場で水着に着替えた後、シャンプーやボディーソープを持ち出して、湯口から出る横殴りシャワーを浴びながら、全身泡だらけにして体を洗いはじめたので、私は思わず目玉を丸くしてしまいました。しかし、このご夫婦の他にも同様の使い方をする人がいらっしゃったので、ここでは銭湯のようにガッツリ体を洗って入浴するのが普通であり、まさに青空公衆浴場とでもいうべき使われ方がなされているのであります。露天風呂は公設であり、無料で気軽に利用できますから、常連さんにとってこの露天風呂は生活の一部になっているんだろうと思われます。掲題にて「川原の公衆露天風呂」と称したのは、このような特徴を表現したかったのです。


 
湯口から出るお湯はかなり熱く、50℃近くはありそうでした(測定し忘れちゃいました)。このため真ん中の槽で湯口のシャワーを浴びるときには、火傷に要注意。そんなことも露知らずに横殴りシャワーへ突撃してしまった私は、お湯の熱さにびっくりして「アチィ、アチィ」と叫びながらピョンピョン飛び跳ね、おじさんおばさん達に大声で爆笑されてしまいましたが、むしろこの滑稽な様が良いきっかけとなって露天風呂全体が笑いに包まれ、皆さんの輪に入ることができました。

各浴槽ともお湯は膝丈より低い程度しか溜まっていません。湯口を全開にしてドバドバお湯を出しても大して増えません。浴槽の底の排水口に栓が無いのです。もっとも、お湯が熱くて加水もできないので(水の配管は壊れていました)、湯船をお湯でいっぱいに満たしたところで、熱さゆえに恐らく全身浴することはできないでしょうし、浅くても寝そべれば肩まで浸かることができますから、現状でも特に不便するわけではありませんでした。浴槽の縁で涼みながら皆さんとお喋りし、体が冷えたかなと感じたら、再びお湯に浸かるか柄杓で掛け湯するなどして温浴し、再び縁に上がって川風に吹かれてクールダウンする…。ひたすらこの繰り返しを楽しみました。



おばちゃんに頼んで記念撮影してもらいました。背後の芝生の上に映っているのは常連のおじちゃんでして、ちょうどお風呂から上がって服に着替えている最中です。この露天風呂には更衣室らしきものや目隠しなどは何にも無いので、着替えの際にはポンチョのようなものを持参し、適当にその場でゴソゴソと手早く済まさねばなりません。常連さんは実に手馴れており、早業でサクサクっと着替えていました。
お湯は無色透明でほんのりタマゴのような匂いと味が感じられます。


 
皆さんが帰った後に改めて撮影しました。緑豊かな渓流の川原に佇む開放的な環境で、のんびり湯あみできることがおわかりいただけるかと思いますが、まさかこの吹きっ晒しのコンクリ槽が公衆浴場として使われているとは、いろんな温泉を巡っている私も想像だにしませんでした。

常連さんのうち一人のおじさんは片言の日本語が話せたので、この人を介して皆さんとお喋りすることにしたのですが、曰く、みなさんほぼ毎日のようにここへ通っており、お湯に浸かりながらお喋りするのが楽しいんだそうです。また無色透明な安通温泉の泉質や、新鮮なお湯を無料で浴びることができるこの露天風呂をとても誇りにしており、一方、同じ花蓮県にあって日本の温泉ファンにもお馴染の瑞穂温泉のことを異口同音に「不好」と評していました。料金が高いうえに濁っているから良くない、とのことなのですが、この地では透明な温泉が好まれるんでしょうか。いろんな面で台湾の温泉文化について学ぶところが多かった露天風呂でした。



花蓮県玉里町楽合里温泉  地図

利用可能時間不明(おそらく日中なら利用可)
無料

私の好み:★★★

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