温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台東県金崙 太平洋鹹水温泉 (台湾東部)

2012年04月18日 | 台湾
(話の流れとしては前回記事「瑞穂温泉 東岡秀川温泉会館」のつづきになります)

 
瑞穂から台東まで自強号に乗車。
車両は東急車両製のDR2800。


 
池上駅ではおなじみの駅弁を購入し、ちょっと遅めの昼食。
停車時間が1分しかない上、ホームに出ている売り子さんは2人しかいなかったので、大慌てで購入。台湾の駅弁はどこで買っても似たような内容ですが、池上の弁当は一味違うような気がします。気のせいかな。


 
台東からキョ光号に乗り換えて金崙で下車。一日数本しか止まらないローカル駅。


 
辺鄙な田舎の駅ながらいかにも台鉄らしい外観の駅舎。周囲は山が急に太平洋へ落ち込む険しい地形であり、駅の北側で線路はいきなりトンネルへ突っ込み、南側は金崙渓を橋で渡った後、やはりこちらもすぐにトンネルが口を開けています。駅前には平屋の民家が数軒並んでいるだけで、見事なまでに何もありません。あまりに閑散としすぎているため、一人で駅前に降り立った時には、不安に駆られて悲しくなりました。




(↑画像クリックで拡大)
金崙駅周辺には温泉民宿が点在しています。駅前には宿泊施設を紹介する公設と思しき案内板が立っていました。比較的最近設置されたのでしょう。私が参考にした本には、金崙温泉は鄙びた温泉地であると書かれていたのですが、意外と宿泊施設が多いんですね。



反対側には私設による温泉旅館の広告看板が立っていますが、その下に伸びるコンクリ壁の断面には、温泉マークや矢印とともに手書きで「鹹水」と記されていました。今回金崙駅で下車した理由の一つは、駅の近くにあるという「太平洋鹹水温泉」で入浴することです。この「鹹水」という字は、私の目的地を示しているのでしょう。この矢印に従い駅前広場から左へ伸びる細い路地へ入ってゆくことに。


 
至る所に道しるべがあるので迷うことはありませんでしたが、何もない裏へ裏へと進むコースにはちょっと不安を覚えました。線路の築堤にも白ペンキで直に手書きしてありましたが、鉄路局から文句はこないのかしら。ひたすら線路に沿って南下してゆきます。



犬に吠えられながら川に向かって緩やかな下り坂の一本道を歩いてゆくと・・・


 
駅から数百メートル、約5分で目的地の「太平洋鹹水温泉」へ到着です。



「生命の泉」の書かれた屋根の下には、たくさんのベンチとともにカラオケ装置が置かれています。浪越徳次郎の決め台詞は「押せば命の泉湧く」でしたけど、こちらの温泉に入れば生命の泉が湧いて元気になれるのかな。



広い駐車場は寒々としており、お客さんがいる気配ゼロ。受付小屋の中にいるおじさんに声をかけて入浴を乞うと、「チョトマテ(ちょっと待って)」と言うや否や、受付からちょっと下ったところにある温泉プールへそそくさと降りていきました。おじさんは片言の日本語がわかるみたいです。



これが温泉プール。今日は私が来るまで来客は無かったらしく、浴槽内は空っぽでした。おじさんはモップを手にすると、ホースの水を槽内に撒いて掃除をはじめました。おいおい、これから掃除するのかよ。入浴できるまで時間がかかりそうだ…。


 
受付や駐車場の前に置かれている錆びきった鉄製ブイの下に源泉井を発見。



浴槽掃除の途中に手を休めて受付へ戻ってきたおじさんは「カラオケ、カラオケ」と言いながら「生命の泉」屋根の下のカラオケ装置を指さします。おそらく「掃除が終わるまで時間がかかるからカラオケでも歌ってなさい」ということなのでしょうが、さすがに一人で屋外カラオケするほどの度胸は無いので、遠慮して鉄製ブイの前の岩に腰掛けていると、おじさんは「これでも読んでなさい」と言わんばかりに一冊の本を手渡してくれました。その本こそ鈴木浩大さんの「湯けむり台湾紀行―名湯・秘湯ガイド」であります。台湾温泉めぐりのバイブル的存在であり、私もこの本を読んで太平洋鹹水温泉の存在を知ったのです。まさかこんなところでお目にかかれるとは露程にも思いませんでした。私とこの温泉を結び付けてくれたこの本に改めて感謝です。


 
繁忙期には源泉が落とされるらしい滝は、この日はカラッカラ。でも赤く染まった岩からは、温泉がいかに濃いかが窺い知ることができますね。おじさんが掃除しているお風呂でもこんな色に染まったお湯に入れるのかな…期待しちゃいます。敷地内にあるプールも干からびていました。シーズンオフなので、しばらく使われていないようです。



この温泉は台鉄南廻線の橋梁の北側橋詰に位置しており、鉄道の橋の下には金崙渓の河口、そしてその先に広がる太平洋を臨めます。おじさんは突然来訪したどこかのおばちゃんと話し込み始め、掃除は一気にスローダウン。まぁ私一人のためにわざわざ掃除してくれているんだから、急かすのはやめようと諦観し、この河原に座ってしばらくボンヤリと海を眺めていました。


 
掃除を開始してから約30分。槽内をホースで濯ぎ終わったおじさんは、浴槽に栓をして湯口のボールバルブを全開にし、お湯を溜めはじめました。湯口からはドバドバと大量に源泉が注がれます。カラカラに乾いた源泉の滝では、温泉成分が赤い色を帯びて付着していましたが、湯口から出てくるお湯は無色透明です。あれれ?違う泉質なのかな? 吐湯量が多いので、ものの数分で入浴できる嵩まで溜まりました。

受付小屋裏に建つ建物で水着に着替えます(撮影失念)。1階がシャワー(兼更衣室)やトイレ、2階が民宿の客室になっていました。そんなに古い施設ではないはずなのですが、安普請なのかメンテナンスの問題なのか、あるいは潮風を受けやすいロケーションゆえか、敷地内の建物はどれもかなり草臥れており、トタン板は錆が浮いていたり波打ってベコベコになっていたりしていました。シャワー室エリアは全体的に薄暗くて建てつけも悪く、トイレから漂ってくるアンモニア臭のため、あまり長居したくない状態でした。


 
当初、客は私一人だけだったのですが、お湯が溜まるタイミングを見計らっていたかのように車2台に分乗した家族連れがやってきて、私が呑気に着替えているうちに、そのファミリーが次々に温泉プールへと入ってゆきました。お湯を独り占めできなくなりちょっと落胆した反面、あまりに寂しい状況が俄然解決されたので、ほっと安堵したのも事実。

この日利用できたのは、温泉プールと冷水プールのふたつ。両者は一見すると区別がつきませんが、温泉水につけた指先を嘗めてみるだけで、その差は歴然です。鹹水という名前の通り、海水のような強い塩辛さが特徴的でして、この他、ヨードのような弱い匂い、そして金気の味と匂いも感じられました。私の利用中に、温泉水は無色透明から少しずつ僅かに濁ってゆきましたが、真っ赤に濁るまでには至りませんでした。おそらく暫く放置しておけば真っ赤に濁るのでしょうが、この温泉は空気に触れたら一気に変色・変質するようなタイプではなく、ゆっくり穏やかに変化を呈してゆく性質のようです。
ここの温泉ほどしょっぱいお湯は、台湾では他に類を見ないのではないでしょうか(緑島の海中温泉を除く)。塩分濃度からも想像できるかと思いますが、入浴中は体が浮くのも面白いところです。源泉掛け流しの濃厚なお湯、しかも一番風呂に浸かれて、本当に幸せです。

なお温かい海水に浸かっているのと同じですから、湯上りにシャワーを浴びないと体はかなりベトつきます。また強食塩泉ですから迂闊に長湯すると体力や水分が奪われ、強烈に火照ってしまうこと必至です。本当に濃くパワフルな温泉ですから、自分の体力とよく相談しながら入浴することが求められるでしょう。このような性格の温泉ですから、お湯で火照った後に水風呂へ入ると、ものすごい爽快感が得られました。



入浴しているとおじさんが急須を持ちながら手招きしました。プールサイドのテーブル上には2つのガラスコップが置かれています。おじさんはそのコップのうち、片方に冷水プールの水(普通の水)を、もう片方には温泉水を汲み、両方へ急須からお茶を注ぎました。すると、水の方は単にお茶が薄まっただけですが、温泉の方は忽ち真っ黒く変色したのです。あまりに急激な変色を目にして私は「おおっ!」と驚きの声を上げてしまいましたが、これってお茶のタンニンが温泉に含まれる鉄分と反応して黒色を呈したわけですね。鉄管を通ってきた水道水で紅茶を淹れたら黒くなっちゃった、という話はよく耳にしますが、これと同じ原理です。わかりやすいリアクションの私におじさんはご満悦でしたが、これだけはっきり色が変わるのですから、温泉中に溶存している鉄分量は相当多いのでしょう。

施設・設備はあまり期待できませんが、強烈な個性を持つ源泉は秀逸。心細い思いをしながらわざわざここまで来た甲斐がありました。


南廻線・金崙駅より徒歩5分
台東県太麻里郷金崙227  地図
(089)771865

入浴可能時間不明
150元
ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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