半透明記録

もやもや日記

『21世紀東欧SF・ファンタスチカ傑作集 時間はだれも待ってくれない』

2014年08月06日 | 読書日記ー東欧

高野史緒 編(東京創元社)



《内容》
二十一世紀に入ってからの東欧SF・ファンタスチカの精華。十か国十二作品を、新鋭を含む各国語の専門家が精選して訳出した日本オリジナル編集による傑作集。

《収録作品》
*オーストリア
 「ハーベムス・パーパム(新教皇万歳)」ヘルムート・W・モンマース/識名章喜訳

*ルーマニア
 「私と犬」オナ・フランツ/住谷春也訳
 「女性成功者」ロクサーナ・ブルンチェアヌ/住谷春也訳

*ベラルーシ
 「ブリャハ」アンドレイ・フェダレンカ/越野剛訳

*チェコ
 「もうひとつの街」ミハル・アイヴァス/阿部賢一訳

*スロヴァキア
 「カウントダウン」シチェファン・フスリツァ/木村英明訳
 「三つの色」シチェファン・フスリツァ/木村英明訳

*ポーランド
 「時間は誰も待ってくれない」ミハウ・ストゥドニャレク/小椋彩訳

*旧東ドイツ
 「労働者階級の手にあるインターネット」アンゲラ&カールハインツ・シュタインミュラー/西塔玲司訳

*ハンガリー
 「盛雲(シュンユン)、庭園に隠れる者」ダルヴァシ・ラースロー/鵜戸聡訳

*ラトヴィア
 「アスコルディーネの愛-ダウガワ河幻想-」ヤーニス・エインフェルズ/黒沢歩訳

*セルビア
 「列車」ゾラン・ジブコヴィッチ/山崎信一訳



《この一文》
“「僕たちはみな、写真や物語や思い出のなかで単なる過去になることを宣告されているのかもしれませんね」”
   (「時間は誰も待ってくれない」ミハウ・ストゥドニャレク)より




東欧の物語というのはなかなか読めないので、これも貴重な一冊と言えそうです。しかも、SFとファンタジー。最高。

珍しい国の、ここで初めて知るような作家の作品ばかりでしたが、特に印象に残ったのはポーランドのミハウ・ストゥドニャレク「時間は誰も待ってくれない」(ワルシャワに霧のように浮かぶ過去の街並を追うお話)、スロヴァキアのシチェファン・フスリツァの2作品「カウントダウン」(戦闘的平和集団がヨーロッパ内の原発を占拠し、日曜日に終末がやってくる)「三つの色」(スロヴァキア、ハンガリー間に起こる民族紛争の物語)、チェコのミハル・アイヴァス「もうひとつの街」(プラハに存在する「もうひとつの街」をめぐる物語)、セルビアのゾラン・ジブコヴィッチ「列車」(列車のなかで〈神〉と出会うお話)ですね。あ、ハンガリーの「盛雲(シュンユン)、庭園に隠れる者」も面白かったな。というか、思い返してみると、全部がそれぞれに本当に面白かったです。

編者の高野さんによるあとがきを読むと、この本ができるまでには大変なご苦労があったそうです。多くの人の情熱によって、こういう貴重な本が生まれてくるのですから、読むだけの私としてはただただ感謝するばかりですね。東欧文学のアンソロジーはこれまでにもいくつか読んできましたが(思い出せるだけで『東欧怪談集』『東欧SF傑作集 上下』『ポケットのなかの東欧文学』など)、乱暴にひとまとめにしてみると、東欧の物語には独特の感じがあるというか、どれも不思議なほど静かでちょっと悲しげというか、要するにいかにも私が好きそうな雰囲気があるので、もっと流行して多くの作品が訳出されるようになってほしいものです。






最新の画像もっと見る

コメントを投稿