半透明記録

もやもや日記

『怪奇小説傑作集5 ドイツ・ロシア編』(ドイツ編)

2006年09月14日 | 読書日記ードイツ
植田敏郎訳 (創元推理文庫)

《収録作品》
ロカルノの女乞食(ハインリヒ・フォン・クライスト)/たてごと(テオドール・ケルナー)/蜘蛛(H・H・エーヴェルス)/イグナーツ・デンナー(E・T・A・ホフマン)


《この一文》
”「誘惑者を追いはらい、わたしの家から罪を防ぐためには、いまなにがわたくしの役目であり、使命であるかがわかっています」
 こうアンドレスは言った。
      --「イグナーツ・デンナー」より ”



ロシア編のほうにゴーゴリの「ヴィイ」とチェーホフの「黒衣の僧」が収録されていたので迷わず購入した一冊です。ホフマンの未読の作品も入ってました。やったー! 在庫僅少のようだったので、あぶなかったぜ!

ドイツ編は全部で4編。クライストの「ロカルノの女乞食」は、別の本で何度も読んでいるので、飛ばし。クライストは怖い。でも、これはそれほどでもないですね。「聖ツェツィーリエあるいは音楽の魔力」(河出文庫『チリの地震 クライスト短篇集』所収)は怖かった…!

ケルナーの「たてごと」は夫婦の悲しい愛の物語。怪奇というよりむしろロマンチックではありましたが、私の好みからすると、あともう一歩踏み込んでほしいところでした。いや、でもまああの雰囲気はすごく良かったのですが。こういうのに慣れてしまっている私にはいささか物足りませんでした。いやですね、すれてしまって。

エーヴェルスの「蜘蛛」はすごく面白かったです。毎週金曜日の夕方に、ある宿屋の一室でたてつづけに3人の男が窓辺で首を吊る。医学生リシャール・ブラックモンはその部屋に滞在し、数週間を無事に過ごすのだが……。うーん、不気味に面白い。色が綺麗で素敵。黒に紫、細い細い糸を紡ぐ白い手…。日記体で物語が進行するのも良かったです。最後のほうの緊迫感がすごい。面白かったー。

ホフマンの「イグナーツ・デンナー」は、私のこれまで読んだホフマンの作品とはちょっと雰囲気が違うような(と言っても私はまだそれほどには読んでいないのですが;)気がしました。が、やっぱり面白い。ホフマンの作品には、ほとばしるような何かがあります。読み出したら途中で止められないような何か。めくるめくような何か。私はやっぱりホフマンが好きです。後の作家にも多大な影響を与えたらしいことがあとがきに書いてありましたが、納得です。しかも、とても多才な人だったらしい。うーむ、そんな感じ。この間買ってそのままになっている『悪魔の霊酒(上下)』(ちくま文庫)と『くるみ割り人形とねずみの王様』(河出文庫)もはやく読まなきゃ。


というわけで、秋になって食欲と読書が止まらなくなっている私は、もうロシア編も読みました。そちらはまた別のカテゴリーに分けて書きます。

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4 コメント

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ベスト? (kazuou)
2006-09-17 00:21:28
このシリーズのドイツ編、悪くはありませんが、ちょっとオーソドックスな感じですよね。ロシア編と抱き合わせなのもちょっと…。それぞれ一冊で編集してほしかったところです。

エーヴェルスの『蜘蛛』は僕も好きな作品です。これ、似たような話でエルクマン=シャトリアンの『見えない眼』というのも面白いですよ。

ホフマンの『イグナーツ・デンナー』は、たしかにホフマン作品としては、異色な感じがしますね。ちょっとシリアスな要素が強いかんじでしょうか。そういえばこの作品が入っている短編集『夜景作品集』(創土社『ホフマン全集3』)は、『砂男』なんかも入っていて、非常に暗いトーンのものが多い作品集でした。
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ドイツ編 (イーゲル)
2006-09-17 07:42:27
ドイツ編と『ヴィイ』は読みました。

ケルナーの『たてごと』がフランス編の『フルートとハープ』とよく似ていた気がしましたが、まさかパクり…?真相はわかりませんが。

全体の幻想的な雰囲気は好きでしたが、怖くはない。

美しい話なのに素直に感動できない自分が悲しかったです。

クライストは初挑戦。うーん、怖いと言えば怖いような…怖くないと言えば怖くないし…煮え切らない感じでした。

『蜘蛛』は予想通りの展開ではありましたが、窓から見える女性と医学生の関係が蜘蛛の生態の描写と組み合わさって、スリルがありました。まさしく蜘蛛糸に絡めとられるように読まされた感じ。

ホフマンは面白かった。ホフマンは怪奇幻想小説界の

安全パイのイメージがあります。まだ『砂男』と『黄金の壺』しか読んでいませんが。

そして、『ヴィイ』。

これを読みたくてこの本を買ったようなものでしたので、期待していました。やった!当たり!!

買って良かったとひと安心。

ロシアの民間伝承を題材に取っているそうなので、岩波のロシア民話集を読む楽しみが増えました。
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Unknown (ntmym)
2006-09-17 14:21:42
kazuouさま、こんにちは~!



やっぱりこの本は「抱き合わせ」感が拭い切れませんよねー。ドイツ編はもっと分量があったら良かったのに。私も、ドイツとロシアとそれぞれに分けて出してほしかったと思います。



「蜘蛛」は良かったですよねー。私はこういう話はすごく好きです。「見えない眼」というのも読んでみたいですねー。

ホフマンの「砂男」は超怖いですよね。衝撃の結末に大ショックでした; こわーい。「イグナーツ・デンナー」は「砂男」に比べるとそれほど怖くはなかったですが、やはりただならぬ勢いを感じました。「クレスペル顧問官」のような話も好きなんですけどねー。ホフマンはもっと読みたいです。『ホフマン全集』欲しい~。
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イーゲルさま (ntmym)
2006-09-17 14:29:34
イーゲルさん、こんにちは~!



イーゲルさんのところで記事を読んで速攻で購入したこの本は、買った甲斐がありましたよ♪



「たてごと」とフランス編の「フルートとハープ」が似ているとのご指摘でしたので、さっそくそれだけ読んでみました。た、たしかに、似てる…。そっくりですね。元ネタとかあるんですかね? でも、個人的には「たてごと」のほうが好きですねー。なんとなく。



クライストは他の作品のほうが怖いかもしれませんね。私個人としては「拾い子」とか記事にも書きましたが「聖ツェツィーリエ」なんかがすごく恐ろしかったですよ。



「蜘蛛」はほんとにスリルがありましたね~。結末は予想できるものの、そこに至るまでの主人公の粘りにハラハラさせられました。窓の向こうの女性の描写も美しいし、面白かったです。



ドイツと言えば、ホフマンはほとんどはずれませんよねー。どれも面白いし。すごい。「黄金の壺」は大昔に読んで、内容をほとんど忘れてます。せっかく幸運にめぐまれているので、新しい気持ちで読み返したいですね~。



「ヴィイ」は最高に面白いですよね。私も夢中になりましたよ。やっぱロシアって素晴らしい。この本では、私はなんだかんだでロシア編のほうが面白かったですねー。
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