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「毒もみのすきな署長さん」

2009年11月19日 | 読書日記ー日本


宮沢賢治 (青空文庫)


《あらすじ》
プハラの国の第一条は「火薬を使って鳥をとってはなりません、毒もみをして魚をとってはなりません。」ということだ。ある夏に町へ新しく警察署長さんがやってきた。不思議なことにちょうどそのころから第一条に反して毒もみをやる者が現れて……

《この一文》
そうすると、魚はみんな毒をのんで、口をあぶあぶやりながら、白い腹を上にして浮びあがるのです。そんなふうにして、水の中で死ぬことは、この国の語(ことば)ではエップカップと云いました。これはずいぶんいい語です。



このあいだ友達とご飯を食べた時に、この「毒もみのすきな署長さん」が凄いという話をきいたので、読んでみました。た、たしかに凄い!! K君、ありがとう!

上に引用したのは「毒もみ」とは何かの説明の部分なのですが、まあ何と言うか、えーと、あれですね。宮沢賢治って、こういうところが凄いですよね。すんなりと「これはずいぶんいい語です」と言い切ってしまうあたりが、実に超越的です。なかなかこの域まで達することは常人には難しいと、私などはいつも感服させられます。

ほんとうは、この物語の結末部分がもっとも強烈なので、そこを引用したい気持ちはいっぱいだったのですが、それをすると未読の方の楽しみを半減するかと思い、止めました。いや、私は結末を知ってて読んで、それでも十分に楽しかったんですけどね。いずれにせよ、これは面白いです。とにかく凄い。善とか悪とか、そんなことはお構い無し、好きだったら好きなんだ! こういう面白さは面白いですね。もっと深く考察することはできると思うのですが、物語の上辺をなぞるだけでも、十分に面白いとも思いました。

「フランドン農学校の豚」を読んだ時にも思いましたが、これは農学校の豚が解体されるまでを描いた物語ですが、そこではものすごい悲哀を描いていながらも、描写は恐ろしくあっさりとしているんですよね。ユーモラスでさえある。この人は、こんな感じでいつもあっさりとしている。この人の作品がいつも透き通って見えるのは、この淡々とした語り口にも原因があるのかもしれません。しかし、どのようにとらえたらよいのか見当もつかない、悲しいのだか可笑しいのだか分からない物語の内容については、私にはその魅力がどこからやってくるのかを突き止めることはできそうにもありません。面白いということだけは、はっきりと分かるのですが、それがどうして面白いのだかが分かりません。まあ、私は他の作家の他の小説であっても、それがなぜ面白いのかを説明することができないのが常なのではありますけれども。

それにしても不思議な人です。読書の守備範囲の狭い私が言っても説得力はないかもしれませんが、他にこの人に似た人を思いつきません。物事が違って見えてくるような気がする。どこから来た人なんだろう。どこか遠い世界のお話であるようにも見えるのに、たしかに私たちの世界を描いているようにも強く感じられるというこの感じ。物語というのはおしなべてそのようなものであるかもしれませんが、この人の作品においては特に強くそれを感じさせられます。うーむ。


あ、宮沢賢治の作品は、《青空文庫》というところでかなり沢山公開されています。著作権の切れた作家の作品が、テキスト形式や、HTML形式などで無料で大量に配布されていてとても便利なので、興味がおありでしたら活用なさってはいかがでしょうか(^^) 紙の本のほうが読みやすいとは思うものの、思いついた時に気軽に文学作品に触れられるのは、やっぱりいいですよね~。

 →→ 青空文庫