ここは螺旋階段。
上がったり下がったりはできるけれど、
決して遠くまでは行けない。
見えるのはいつも同じ景色。
ある晩、空を見上げて僕は言った。
月が、美しいね。
すると君は言う。
だけど、それは今も少しずつ遠ざかっているよ。
僕は君のその言葉の響きがきれいだから、
そのために君を愛したのだと思っていたけれど、
違った。
それだけではなかった。
今も少しずつ遠ざかっている。
だからだ。
だから、月は僕には美しいのだ。
君は、僕の言葉を、本当の言葉にして返してくれた。
だからだ。
だから、僕は、君のことが好きさ。
ここは螺旋階段。
今夜も、あの晩と見える月は同じ。
だけど、本当は少しずつ遠ざかっているね。
だからこそ、私は、月も君も今も何も変わらずに
美しいと思うのです。
いつか。ここへ私を探しに来たならば、これは君のものです
語るべき声を持たぬ私から Kに。