"Control" by Conrad Schnitzler
日曜日の昼下がり、台風を待ちながらコンラッド・シュニッツラーを聴いていたんだ。家の入口を開け放ち、吹き荒れる風をわざと部屋の中に入れ込み、何をしていたかというとルームランナーで走っていたのであって、被害を受けた方々、不真面目でごめんなさい。
いや、思ったほど雨は降っていなかったし、吹き込む風がむしろ気持ちよかったんでね。
以前書いたとおり、長雨に降り込まれた日など、無生に電子音楽系の音が聞きたくなる。どういう心理からくるものか分からないが。いわんや、台風の日においておや、ということで。
タンジェリン・ドリームやクラスターといったドイツのエレクトリック・ミュージックの有名どころの誕生に立会い、その後も独自の電子音楽表現の道を歩いたコンラッド。この人も、もう”故”の一字をつけなくちゃならないんだった。
そんな彼の、これは1981年にアメリカの実験音楽のレーベルから発表されたアルバムのCD化作品。それにしてもオリジナル版LPはたったの1500枚限定だったというから偏屈もいいところだ。
マイナーレーベルからマニア向けの作品を、こっそりちょっとだけ出す。そんなことばかりをしているから、コンラッドのディスコグラフィは希少盤だらけになる。というか、「そんな盤が出ていたのか」みたいなものばかりになってしまう。
そんな世捨て人の仙人みたいな活動をしていた割には、彼の作品には結構お茶目な要素が含まれており、そこが素敵だったと私は思っている。難解な作品を生み出してきた厳格な芸術家の心の真ん中に、いたずら好きな3歳児みたいなタマシイが住んでいて、時にそいつが暴れだす、みたいな瞬間が。
このアルバムは、なぜかキーボードを使わずに創作された一枚で、いわゆる音楽的な表現方法を排し、コンピューターの操作による音刺激のみが収められた、彼の作品中でも難物といえるのかも知れない。
パチパチと夜空に飛び散る花火のように点滅し、あるいは夜の闇に果てしなく伸ばされる捜査線のように触手を伸ばし、コンピューター越しのコンラッドの想念を直接にこちらの脳裏に焼き付けるように音像たちは踊りまわり、また闇の中に消えて行くのだった。