ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

悪意のトイピアノ、嗤う

2012-02-14 03:43:58 | アンビエント、その他

 ”Drape Me in Valvet”by Musette

 ずいぶん前に読んだ本なので著者名も正確な内容も忘れたのだが。それなら引用めいたことなんかするなよ、と言われそうだが、そりゃそうなんだが、こうしないと話が始められない。なんとかご容赦願いたい。

 その文章では、”性の禁忌”の誕生に関わる考察がなされていた。まず、幼児の性欲に関して。いわく、幼児にも性欲はある、と。ただ、生まれたばかりの彼には、欲望を実現する方法も分からなければその能力もない。が、抱えてしまった欲望に対して無能な自分を認めてしまうと、彼のプライドが傷ついてしまう。ゆえに彼はこう規程っするのだ。すなわち、「自分は性に触れることを禁じられている」と。
 やりたいのだができない、のではなく禁止されているからできない、とすればオノレの無能を自ら認める恥辱に、ベッドの上でおしゃぶりを加えた無力の帝王である幼児の心は、まみれずに済む。

 それでは、奏でられる音楽に無力である幼児の心には、何が起こっているのか。
 などと訳の分からない話を初めてしまったのは、今回取り上げるこのアルバムの中に、ベッドの幼児の上で簡単な音楽を奏でながら回っている玩具があるでしょう、昔ながらの。あれが奏でるようなフレーズが聴こえてきたんで、「あ」と思ってしまったから。
 音楽が頭上で奏でられている。が、自分にはそれにどう対処したら良いのかわからない。その時幼児の心には何が行き過ぎるのか。

 このバンドはスウェーデンの、まあ変態ロックとでもいうジャンルに属するんじゃないですかね、ミュゼットなんてバンド名だけど、同名のフランスの下町音楽とはなんの関係もない。
 あえてローファイに装ったサウンド、奇妙な味わいのキーボード、古めのシンセ、あさっての方に向かってピント外れの抒情を歌うトランペット、などなど。一癖も二癖もある意匠が時代遅れの祝祭楽団の装いで、薄明の中を通り過ぎて行く。

 上に書いたように、小さな頃、どこかで聴いたようなメロディの断片が次々に奏でられてゆく。が、手放しに甘やかなノスタルジィという感じじゃなく、どこかに毒気、悪意、といったものが潜んでいる。そんな不安を、音楽のなかに気配として感じさせる。生暖かい郷愁の底に仕掛けられた、たちの悪いいたずら。嘲り笑い。
 いや、そいつもまた、演者なりの苦い郷愁の発露なのだろう。無傷な心がどこにある、って奴ですぜ旦那。

 なんとなく人懐かしいんだけど簡単に人と馴れ合いたくもないなんてめんどくさい気分の夜に、一杯やりながら聴くには最適の一枚かと思う。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。