”Javier Casalla ”
まあこれは・・・「マニアなオタクのお楽しみ」とか言われちゃってもしょうがないだろうね。現地、アルゼンチンではロックバンドとの競演も多いというタンゴのバイオリン弾き、Javier Casalla のこのアルバム、なんとコルネット・バイオリンなんて代物を引っ張り出して来ているのでした。
コルネット・バイオリンというのは。どこかで見たことがあるんじゃないかなあ。バイオリンのボディをはずし、代わりにホーン楽器の筒先みたいなものを取り付けた異様な外見の楽器であります。
これはおそらく、コンサート会場のPAシステムとか、あるいは電気楽器とかが発達していない時代に、大きなボリュームの音を出せる楽器が欲しくて開発されたものなんでしょう。
で、その結果は。確かにでかい音は出るかもしれないけど、なんかバイオリンが鼻をつまんだみたいな癖のある音になってしまって。その後、たいした展開もなく滅びて行ってしまったのも仕方がないんだろうなあ、と。
そんな楽器をJavier Casalla は持ち出し、このアルバムにおいて全面的に弾きまくる。奇をてらっているのか、この楽器の音がよほど気に入っているのか、なんとも分かりませんが、まあ、オタク以外、そんな楽器をわざわざ持ち出しはしませんわなあ。
その伴奏部分の音もJavier Casalla は自身で構成しているのですが、これがまた。 すべて彼自身が奏でるバイオリンの多重録音でまかなっている。コルネット・バイオリンに付き従ってハーモニーを奏でるバイオリン、叩きつけるような、パーカッシヴなフレーズを積み重ねて打楽器としての効果を出そうともくろむバイオリン、ともかく、聴こえて来る音のすべてがJavier Casalla の奏でるバイオリンの音。
なんか聴いていると何台ものバイオリンが群れを作り、グイグイと魚みたいに空間を泳ぎだしている光景が浮かんで来るのですなあ。
クネクネと体を捩じらせて風に乗り、空高く泳ぎ出るバイオリンの群れ。高らかに弦の音を響かせながら。
演奏されているのはタンゴの古典的なものが多いみたいなんですが、こうなってくると音楽家として保守なのか革新なのか、よく分かりませんな。いずれにせよ、描かれる音像があまりにも不思議なんで、つい何度も聴き返してしまうんですが。