ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

三界稔の”奄美便り”

2008-05-12 02:55:42 | 奄美の音楽


 三界稔(1901~1961)

 またも思い出したように奄美話で恐縮です。

 奄美の音楽に興味を持ち、あれこれ島歌のCDなど聴き始めると、まあそのついでと言ってはなんだが昭和30年代に田端義夫が取り上げて”奄美ブーム”を起こすに至った”奄美の島歌”なるものの正体が気になってくる。あれは奄美の民謡とも違うものだし、なんだったのだろう?
 その後、あれらの歌は現地では”新民謡”と呼ばれるジャンルの、奄美ローカルの歌謡曲であると知るわけだが。

 そもそもの奄美ブームの始まりは昭和30年代当時、田端義夫がふと立ち寄った東京は新橋の沖縄料理店で聴いた奄美の歌、”島育ち”に魅せられ、周囲の反対を押し切ってレコーディングする、という形だったようだ。
 その曲のヒットに引っ張られ、奄美や、時に沖縄のローカル・ポップスが当時、中央の歌謡曲シーンで活躍していた歌手たちに取り上げられ、”全国ネット”のヒットとなって行った。”島のブルース”やら”永良部百合の花”などなど。

 これらの音楽がどのように”内地”の人々に受け入れられていったのか、などなどいろいろ知りたい事も出てきているのではあるが、現在までのところ、有効な資料を掴むにいたってはいない。

 なかでも正体が気になってくるのは、そもそもの起爆薬となった”島育ち”の作曲者、三界稔なる人物とは何者かである。
 これまでは「子供の頃に聴いた覚えがある」程度の認識しかしていなかった”島育ち”は、あらためて聴き直してみればやはり名曲といってよく、曲の内に脈打つ、彩なす波を掻き分けて進み行くようなリズムの反復の小気味よさなど、島歌の風情を見事に演出していて憎い限りなのだ。
 また、三界の晩年に世に出た”奄美小唄”の、ほのかにエキゾチックでほのかに切ない、いかにも歌謡曲の”小唄”と言える小粋な味わいに当方、惚れてしまったという事情もある。

 最初私は、奄美以外では無名の、ローカルな活動をしていた音楽家と想像していたのだが、調べてみると第二次世界大戦中、戦時歌謡の”上海便り”の作曲をしていることが分かり、認識を改めさせられるのであった。そのジャンルには詳しくない私も、”上海便り”の”拝啓ご無沙汰しましたが♪”あたりのメロディならなんとなく記憶にある。
 あれれ、結構メジャーな作曲活動をしていた人なんじゃないかと、三界のライフストーリーを知りたく思いあれこれあたってみるのだが、こいつもまるで資料に出会えずにいる。これはこちらの捜査の要領の悪さもあるのだろうけれど。

 田端義夫が奄美の歌謡に出会った際の詳細を知りたいと言う願望はここでも頭をもたげてくる。田端が”島育ち”に魅せられてその曲をレパートリーに加える際、「おや、これは”上海便り”の作曲者の作品じゃないか」などといった驚きはあったのだろうか?
 三界にはそれ以外にも全国規模のヒット曲があるようで、その辺の事情が分からないのがなんとももどかしい。どうやら奄美出身で奄美で生涯を終えた三界であるようだが、青年期から壮年期にかけてはどのような作曲家活動を行なっていたのか?

 奄美の大衆音楽界で重要な位置を占める会社、”セントラル楽器”を創業し、多くの奄美島歌や新民謡のレコードを世に送り出した指宿良彦氏の回顧録のうちに描かれた三界の晩年の姿は、なかなか寂しい。自分の曲の版権を切り売りして戦後の混乱期を生き延びようとする悲しい様子が伝わってくる。
 そして三界の亡くなって後、曲の初出からは23年後の昭和37年、田端義夫による”島育ち”の大ヒットがやって来るのだ。


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2 コメント

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私のおじいちゃんです (三界ゆかり)
2008-12-14 13:32:18
初めまして
三界稔は私の祖父です。
小さい頃からゆかりのおじいちゃんはとても有名な作曲家なんだよと聞かされていました。

7年前私の父三界隆成が亡くなり、ふとパソコンで調べて見ようと思い開いてみると、やはり有名な人なんだと実感しました。
今も多くの方に愛されている曲を作ったんだと知りました。ほんとうにうれしく思っています。
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うわあ!!! (マリーナ号)
2008-12-14 16:10:33
 三界ゆかりさんへ
 いらっしゃいませ!
 あの三界稔氏のお孫さんから書き込みをいただくなんて、こんな光栄なことはありません。どうかこれからも、お立ち寄りくだされば幸いです。
 また、三界稔先生に関する資料など、「この辺を探してみたら」なんてヒントでもご提供いただければ幸いです。図々しいお願いですが、何かありましたらよろしくお願いいたします。とにかく大好きな作曲家のかたでもあり、その業績の詳細など、知りたいことは山ほどあるんです。
 それにしても・・・うわあ、嬉しいですね。書き込み、どうもありがとうございました!
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