おととい 上橋菜穂子さんの守り手のシリーズを 蒼路の旅人・虚空の旅人を残して読み終わりました。すこし虚脱感がありました。
新ヨゴ皇国は やはり日本を模したものなのだろうと思いました。詳しくは述べませんが、チャグムがナユグの卵をその身に抱くにいたったのは チャグムのうまれがサクとナユグのあわいに生まれたから....という記述があります。また 帝を見ると目がつぶれるという記述から新ヨゴ皇国の帝は他国の国王と一線を画するものであることがわかります。
古代 日本の天皇は巫覡(フケキ シャーマン)でした。しだいに神とつながることが(権力闘争などで穢れたためか)できなくなり シャーマンを別に置くようになったのです。
新ヨゴ皇国の帝は清浄でなくてはなりません。清らかでなくてはなりません。けれども チャグムは卵を産み付けられたため 父の帝に殺されそうになり しもじもの世界を知ることになります。チャグムは女短槍つかいのバルサに守られながら わが身を自分で守ること 戦うこと 命を守るために他者のいのちを奪わなければならないイタミを知ってゆきます。
血に汚れたチャグムはしかし 清浄さを失いはしませんでした。むしろ しもじもの世界にあるほんとうのやすらぎやぬくもりやよろこびを知ったのです。チャグムは最初は冷ややかな宮廷から逃げたいと望むのですが やがて国をまもる くにびとたちひとりひとりをたいせつに思い守りたいという帝王の意識に目覚めてゆきます。けれどもそれは苦難の道でした........チャグムは民のために 権謀術策渦巻く世界へ ひたむきさだけをたよりに飛び込んでゆきます。そして血にまみれ戦うのです。父帝が神の恩寵がいずこにあるかさとるところが秀逸です。
この守り人シリーズは上橋さんにとって「君主論」であったのではないか とふと思いました。チャグムは筆を進めるごとに勝手に息づき歩き出し そのキャラ立ちしたのだと思います。上橋さんはものがたりの産み手でありましたが もしかしたらすこしチャグムに引きづられたのかな 愛しすぎたのかな....と思いました。なぜなら チャグムは完璧に過ぎる もっとなにかちょっとした 傷がほしかったかな.....これはわたしのわがままですが。
チャグムとバルサは表と裏です。女だてらに剣術の達人であるバルサ 男であるのに卵を孵すチャグム.... 名君への道を歩き出すチャグム タンダとおだやかな暮らしにつくであろうバルサ.....ラストシーン ゲドの晩年と重なったのはわたしだけでしょうか。いいものがたりでした。旅をさせていただきました。上橋さん ありがとうございます。
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