南斗屋のブログ

基本、月曜と木曜に更新します

弁護士団体は、満州事変は自衛権の発動との意見表明をしていた(日本弁護士協会・帝国弁護士協会)

2021年11月01日 | 歴史を振り返る
(日本弁護士協会の設立)
 昔も今も弁護士は、弁護士会に所属していないと弁護士業を行えません。この意味で弁護士会は強制加入団体といわれます。
 戦前の弁護士会と今とでどこが違うかというと、昔も今も弁護士会が強制加入団体であることに変わりはないのですが、違うのは、個々の弁護士を監督する権限を弁護士会が持っているかどうかというところです。
 現代では、弁護士の自治が認められており、弁護士会は自律的に活動を行っていますので、弁護士会が個々の弁護士を監督します。しかし、明治時代には検事正の監督下にありました。このような制度的制約から、各地の弁護士会では司法制度や弁護士制度の改善には不十分と認識し、1897(明治30)年には、全国的な弁護士のつながりとして日本弁護士協会が設立されました。この日本弁護士協会は、任意団体であり、加入を強制されるものではありませんでした(参考文献1)。
 
(帝国弁護士協会)
 日本弁護士協会は、設立以来唯一の全国的弁護士団体でしたが、東京弁護士会が分裂した影響で、1923(大正12)年に帝国弁護士協会が誕生しました(参考文献1)。同年からは、各地の弁護士会(強制加入団体)と、全国的な任意団体として日本弁護士協会、帝国弁護士協会が存在していたことになります。

(弁護士が任意団体を作った理由)
 日本弁護士協会、帝国弁護士協会といった任意団体を弁護士が作ったのは、官からの規制を受けずに自由な意見を表明するためでした。 
 弁護士会は、所属地方裁判所検事正の監督下にあったり(明治26年弁護士法)、司法大臣の監督下にあったりし(昭和8年弁護士法)、自治を認められておりませんでした。そのため、強制加入団体としての弁護士会が意見表明をすると、それを理由に官から監督権を発動される可能性があったのです。任意団体であれば、官の監督権はないので、自由な活動や意見表明が可能となったのです。

(弁護士層は戦争に対して反対していたのか)
 自由な意見表明と書いたところで、そういえば、戦前は戦争に対して弁護士層はどのような意見表明をしていたのかが気になりました。
 この点、参考文献1は、日本弁護士協会や、帝国弁護士協会は、1938(昭和13)年ころまでは、反対の意見を述べることができていたが、その後は戦争協力の姿勢に転じ、1941年の太平洋戦争開始とともに戦争翼賛体制に移り、1944(昭和19)年には、大日本弁護士報国会が設立されるなど戦争協力体制に組み込まれていったと述べています。
しかし、どうも弁護士層の大勢が戦争に反対していたということはないようです。
 大野正男は、「多くの弁護士およびその団体が、戦争に反対したということはない」と言い切っており、満州事変のときに、日本弁護士協会も帝国弁護士会も、これを自衛権の発動であるとして、国際連盟に抗議電報を打ったという事実を指摘しています(参考文献2)。この事実は、法律の専門家が、満州での武力行使は、自衛権の発動であって正しいと武力行使であるいう法的見解を示したものといえ、当時の弁護士階層の考え方を反映するものでしょう。
 大野は、弁護士階層の大勢は、戦時体制に順応していくが、他面、戦時体制に伴う法制度の改悪と、警察官による人権蹂躙に対して、ほぼ太平洋戦争の開始のころまで、弁護士団体が抵抗していることも事実であると述べています。1938(昭和13)年には、国家総動員法が帝国議会に提出されたのですが、日本弁護士協会は、これは法律によらず勅令によって国民の権利財産を統制するもので憲法違反であるとの反対声明を発しています。また、1941(昭和16)年に国防保安法が議会に提出されたときに、帝国弁護士会は、被疑者を勾留する権限を検事に与えていること、弁護権を著しく制限していることを理由に、反対の意見書を議会に提出しています。
 どうやら弁護士層は、戦争そのものには反対ではなかったけれども、それに伴う法制度の改正については、「改悪である」と主張し、反対を表明していたということのようです。
 このように明確に戦争に反対ではなかったことから、「弁護士階層の大勢は、戦時体制に順応していった」「弁護士の多くが、戦争の最終段階において進んで軍国主義体制に協力するようになった」(参考文献2)ということになったのでしょう。

参考文献1 金子武嗣「私たちはこれから何をすべきなのかー未来の弁護士像」(2014年;日本評論社)
参考文献2 大野正男「職業史としての弁護士および職業団体の歴史」(1970年;「講座現代の弁護士2 弁護士の団体」所収;日本評論社)

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 700万円の横領で業務停止 弁... | トップ | 謎の多い大日本弁護士報国会 »
最新の画像もっと見る