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公務員の給与、遡って減額できるか

2020年06月05日 | 地方自治体と法律

 後だしジャンケンという言葉には、ズルさへの非難が込められています。

 後知恵で利益を得る者は非難されるわけですが、法律でいうと「不利益遡及」という問題になるでしょう。
 「遡及」という言葉は聞きなれない言葉ですが、“前に向かってさかのぼる”という意味です。前に向かってさかのぼることでその方が利益を受ける場合は、文句を言う方は少ないでしょうが、逆に不利益を受ける場合は問題です。
 これを「不利益遡及」といいます。

 「不利益遡及」はいろいろな場面ででてきます。 
 例えば、犯罪。
 そのときは犯罪にならなかった行為を後で法律で犯罪になることにして処罰するということがあったのでは、たまったものではありません。そのため、刑罰については憲法で不利益遡及が禁じられています(憲法39条)。

 では、従業員の給料はどうでしょう。
 法律には給料を不利益遡及してはいけませんという条文はありません。そのため、裁判でこの点は争いになったことがあります。
 判例で明らかとなったのは、“民間企業では給与は不利益遡及できないが、公務員ではできる”ということです。

 民間企業については最高裁での判決があり、具体的に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約や事後に変更された就業規則の遡及適用により処分又は変更することは許されないと判示しています(最高裁判所平成元年9月7日判決・裁判集民事157号433頁,同裁判所平成8年3月26日判決・判例時報1572号133頁)。

 しかし、公務員の場合は話が違います。
ここでは、一般職地方公務員について不利益遡及適用が許される場合もあり得るとした大阪高裁平成18年2月10日判決(労働判例910・12)の判示を見てみましょう。
同判決は、①地方公務員の給与に係る立法においても,不利益遡及適用禁止の原則は適用されるとしています。
しかし、例外的に、②特段の合理的理由ないし公共の福祉を実現するための必要性がある場合は、その必要性の程度、侵害される権利の内容、侵害の程度等を総合的に考慮して、不利益の遡及適用が許される場合もあり得るとするのです。
このような②の点を認めるのが、民間企業との違いです。
そして、問題となった事案については給与の実質的な減額を適法としました(給与を遡って減額して、その分を期末手当で差し引くという手法が問題になっていました)。
このように公務員の場合は、自治体の後だしジャンケンが正当化されて給与が減らされる場合もあります。


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