弁護士TKのブログ

興味関心も文章もまとまりませんが、そのときそのときで考えたことなどを、書き散らしていきます

こんな場合は単純承認になるでしょうか?~その2

2018年04月01日 | 相続関係

【こんな場合は単純承認になるでしょうか?】
以前、こんな場合は単純承認になるでしょうか?という記事を書きましたが(→こちら)、本日はその続編です。

【今回のケース】
今回は次のようなケースで考えてみます。
父親が亡くなったAさんは、父親の銀行口座に300万円あったので、そこからお金を引き出し、火葬費用、お父さんの治療費の残額、葬儀費用を支払いました。
その後お父さんに1000万円を超える債務があることが分かったので、相続放棄の申述をしました。

【単純承認が問題になる理由】
民法では「相続財産の一部を処分した」場合には単純承認をしたとみなすという規定があるので、銀行口座からお金を引き出し、火葬費用、治療費、葬儀費用を支払ったのが「相続財産の一部を処分した」ことにあたるかが問題となります。

【火葬費用ならびに治療費残額について
の判例】
火葬費用ならびに治療費残額について判断している裁判例があります。
結論はこのようなものを支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例が言おうとしていることを私なりに噛み砕いていうと次のようになるかと思います。

故人のお金を使うのは厳密にいうと「相続財産の一部を処分した」と言えるかもしれませんね。しかし、火葬費用とか治療費を支払ったくらいで単純承認にしてよいものでしょうか。その程度のこともできないということになると、倫理とか道義とかがなくなってしまいませんかね。単純承認になるからということで、火葬費用を支払わない、治療費も支払わないという世の中になったらどうなりますか。火葬費用は自治体が負担しなければならないだろうし、治療費は病院が負担しなければならない。遺族が得するためにそのようなことになるのは不公平で
はないですか。そういうのを法律上では「信義則」というんです。そういう風に考えれば、火葬費用の負担、治療費の支払いは法律上は相続財産を処分したとして、単純承認したとまでは言えない、そう考えるのが妥当ではないでしょうか。

裁判例の原文を上げておきます。
大阪高裁昭和54年3月22日決定(家月31・10・61)
「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法九二一条一号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないのであつて、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」


【葬儀費用についての判例】
葬儀費用についても判断している裁判例があります。
葬儀費用を支払っても単純承認にはならないとされています。

この裁判例は読みやすいのでそのまま判断箇所を挙げておくだけでよいでしょう

大阪高裁平成14年 7月3日決定(家月 55巻1号82頁)
「葬儀は、人生最後の儀式として執り行われるものであり、社会的儀式として必要性が高いものである。そして、その時期を予想することは困難であり、葬儀を執り行うためには、必ず相当額の支出を伴うものである。これらの点からすれば、被相続人に相続財産があるときは、それをもって被相続人の葬儀費用に充当しても社会的見地から不当なものとはいえない。また、相続財産があるにもかかわらず、これを使用することが許されず、相続人らに資力がないため被相続人の葬儀を執り行うことができないとすれば、むしろ非常識な結果といわざるを得ないものである。
 したがって、相続財産から葬儀費用を支出する行為は、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないというべきである。」

やはりポイントは「常識」のようです。
相続財産があるのにこれを使用することができなくて、葬儀もできないというのは非常識ではないですかという価値判断があります。

【仏壇や墓石の購入はどうか?】
この大阪高裁の事例では仏壇や墓石の購入まで行っているケースでしたので、その点についても判断しています。
葬儀費用とは異なり、仏壇や墓石については微妙な問題となるようです。

「葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが、一家の中心である夫ないし父親が死亡した場合に、その家に仏壇がなければこれを購入して死者をまつり、墓地があっても墓石がない場合にこれを建立して死者を弔うことも我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
 そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
 これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべきである。」

葬儀費用については、法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)には当たらないと明言しているのに、仏壇や墓石については「断定できない」と言葉を変えていることからも、葬儀費用とは異なる取り扱いがありうるということがおわかりいただけるかと思います。

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