『零落』と『ちひろさん』という映画を最近見て、どちらも僕にはとても面白かった。昨年の新作日本映画では、ここで書いた映画があまりベストテンに入らなかった。それは別にどうでもいいけれど、僕の好きなタイプの映画は人には受けないこともある。逆に『夜明けまでバス停で』『こちらあみ子』など、僕には疑問が残る映画ながらベストテン上位に入る作品もある。まあ、そういうもんだろうが、ここで取り上げる二本もあまり評判になってないし、好みは分かれるのかもしれない。

二本の映画は、どちらも漫画の映画化。漫画の実写映画化はものすごく多いが、あまり成功しないことが多い。すごい人気作品だと、作品や主人公を実写で表現するとイメージが壊れると思う人も多いだろう。浅野いにお原作の『零落』は、竹中直人監督、斎藤工主演で映画化された。竹中直人は怪優イメージが強いが、俳優以外に様々な活動をしている。
(監督と出演者など)
映画監督も10作目だという。最初の『無能の人』(つげ義春原作、1991)はヴェネツィア映画祭で国際批評家連盟賞を受けた傑作だった。つげ義春の映画化の中で一番成功していた。その後も『119』(1994)、『東京日和』(1997、荒木経惟夫妻をモデルにしている)あたりまでは面白かった。21世紀になっても時々監督作品があるが、あまり評判にもならず見てない映画が多い。先に挙げた作品では自分も出演しているが、今回は出ていない。
斎藤工が演じる漫画家の深澤薫は大ヒット漫画「さよならサンセット」の連載が終了して、次の作品の構想も浮かんでこない。妻の町田のぞみ(MEGUMI)は漫画編集者で、担当の牧浦かりんが大人気になって多忙である。夫婦はすれ違いで、薫は離婚も考えている。「売れれば良いのか」という漫画界で、創作意欲の衰えた薫に居場所はあるのか。家を出て、風俗嬢を呼んでみるが…。そのうち「ちふゆ」(趣里)という風俗嬢と仲良くなっていき、あるとき田舎に帰省する彼女に付いて行く。アシスタントの女性、漫画界の様子なども描きつつ、大学時代に付き合った猫顔の女(玉城ティナ)の呪縛が解けない。
(ちふゆ)
深澤薫はその気になれば売れる漫画をいくらでも描けるけど、「孤独」を抱えている。その心の中へ入るのは他人には大変で、外から見ればずいぶん身勝手である。その身勝手な中に「真実」を見つけられるか。風俗嬢「ちふゆ」は彼の心に寄り添えるのか。それとも所詮は金のつながりなのか。薫の苛立ちが判らないと、この話は何も面白くないだろう。筋だけじゃなく、登場人物の顔なども原作漫画に似ているようだ。またカメラワークや演出もなかなか冴えていて、見応えがあった。この人の人生はこれでいいのかと思う場面が多いが、映画は人生訓じゃないのでそこに説得力がある。僕はこの手の暗め映画が好き。
「ちふゆ」ならぬ「ちひろ」を名乗っていた元風俗嬢を有村架純が演じるのが『ちひろさん』。安田弘之原作の漫画の映画化で、こちらは映画には出て来ない人物も少しいるようだ。最近好調な今泉力哉監督作品だが、Netflix製作だから配信が中心の映画なんだろう。僕は新宿武蔵野館でやってるからそこで見たけど、これも面白かった。ここでも「孤独」が描かれている。ちひろさんはとある港町にある弁当屋「のこのこ弁当」で働いている。元風俗嬢ということを特に隠すわけでもなく、不思議に自然と客に接していて人気者になっている。そんなちひろさんの周囲に集まる群像を描いた映画。

有村架純なら何も風俗で働かなくても生きていけそうなもんだけど、そこは家庭的な深刻な事情もあったらしい。何で辞めたかも描かれず、どうして港町(ロケは焼津)に来たのかも不明。映画ではすでに弁当屋で働いていて、ホームレス、ワケあり女子高生、問題家庭小学生などが集まってくる。何かいつのまにか「親密圏」がちひろさんの周りに出来ている。そして、昔の同僚バジルや元店長(リリー・フランキー)に会って、なんだか楽しそう…。そう見えるのは上辺だけなのか、彼女は居着くことが出来るのか。

ここでも現代日本の「孤独」が描かれる。ただ『零落』は芸術家の堕ちてゆく身勝手な部分があるが、『ちひろさん』では壊れた家族の中に育つ苦しさが背景にありそうだ。こちらの映画も港町の風情、海に太陽が沈むシーンなどに魅せられた。僕はただ面白い映画ではなく、見る者の孤独に寄り添う映画が好きだ。主人公も身勝手なぐらいが良い。現実社会じゃないんだから、付き合いやすい人間ばかりじゃなくて構わない。

二本の映画は、どちらも漫画の映画化。漫画の実写映画化はものすごく多いが、あまり成功しないことが多い。すごい人気作品だと、作品や主人公を実写で表現するとイメージが壊れると思う人も多いだろう。浅野いにお原作の『零落』は、竹中直人監督、斎藤工主演で映画化された。竹中直人は怪優イメージが強いが、俳優以外に様々な活動をしている。

映画監督も10作目だという。最初の『無能の人』(つげ義春原作、1991)はヴェネツィア映画祭で国際批評家連盟賞を受けた傑作だった。つげ義春の映画化の中で一番成功していた。その後も『119』(1994)、『東京日和』(1997、荒木経惟夫妻をモデルにしている)あたりまでは面白かった。21世紀になっても時々監督作品があるが、あまり評判にもならず見てない映画が多い。先に挙げた作品では自分も出演しているが、今回は出ていない。
斎藤工が演じる漫画家の深澤薫は大ヒット漫画「さよならサンセット」の連載が終了して、次の作品の構想も浮かんでこない。妻の町田のぞみ(MEGUMI)は漫画編集者で、担当の牧浦かりんが大人気になって多忙である。夫婦はすれ違いで、薫は離婚も考えている。「売れれば良いのか」という漫画界で、創作意欲の衰えた薫に居場所はあるのか。家を出て、風俗嬢を呼んでみるが…。そのうち「ちふゆ」(趣里)という風俗嬢と仲良くなっていき、あるとき田舎に帰省する彼女に付いて行く。アシスタントの女性、漫画界の様子なども描きつつ、大学時代に付き合った猫顔の女(玉城ティナ)の呪縛が解けない。

深澤薫はその気になれば売れる漫画をいくらでも描けるけど、「孤独」を抱えている。その心の中へ入るのは他人には大変で、外から見ればずいぶん身勝手である。その身勝手な中に「真実」を見つけられるか。風俗嬢「ちふゆ」は彼の心に寄り添えるのか。それとも所詮は金のつながりなのか。薫の苛立ちが判らないと、この話は何も面白くないだろう。筋だけじゃなく、登場人物の顔なども原作漫画に似ているようだ。またカメラワークや演出もなかなか冴えていて、見応えがあった。この人の人生はこれでいいのかと思う場面が多いが、映画は人生訓じゃないのでそこに説得力がある。僕はこの手の暗め映画が好き。
「ちふゆ」ならぬ「ちひろ」を名乗っていた元風俗嬢を有村架純が演じるのが『ちひろさん』。安田弘之原作の漫画の映画化で、こちらは映画には出て来ない人物も少しいるようだ。最近好調な今泉力哉監督作品だが、Netflix製作だから配信が中心の映画なんだろう。僕は新宿武蔵野館でやってるからそこで見たけど、これも面白かった。ここでも「孤独」が描かれている。ちひろさんはとある港町にある弁当屋「のこのこ弁当」で働いている。元風俗嬢ということを特に隠すわけでもなく、不思議に自然と客に接していて人気者になっている。そんなちひろさんの周囲に集まる群像を描いた映画。

有村架純なら何も風俗で働かなくても生きていけそうなもんだけど、そこは家庭的な深刻な事情もあったらしい。何で辞めたかも描かれず、どうして港町(ロケは焼津)に来たのかも不明。映画ではすでに弁当屋で働いていて、ホームレス、ワケあり女子高生、問題家庭小学生などが集まってくる。何かいつのまにか「親密圏」がちひろさんの周りに出来ている。そして、昔の同僚バジルや元店長(リリー・フランキー)に会って、なんだか楽しそう…。そう見えるのは上辺だけなのか、彼女は居着くことが出来るのか。

ここでも現代日本の「孤独」が描かれる。ただ『零落』は芸術家の堕ちてゆく身勝手な部分があるが、『ちひろさん』では壊れた家族の中に育つ苦しさが背景にありそうだ。こちらの映画も港町の風情、海に太陽が沈むシーンなどに魅せられた。僕はただ面白い映画ではなく、見る者の孤独に寄り添う映画が好きだ。主人公も身勝手なぐらいが良い。現実社会じゃないんだから、付き合いやすい人間ばかりじゃなくて構わない。
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