尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

チャペック兄弟、犬と猫の本-チャペックを読む①

2017年12月27日 22時34分07秒 | 〃 (外国文学)
 先に書いたように、11月から12月にかけてはチェコ映画をずいぶん見ていた。個人的な事情で見逃した作品も多いけれど、カンヌ映画祭監督賞の「すべての善良なる同胞」など非常に重要な作品を見られた。せっかくだから、この機会にチェコ文学を読もうかと思ったが、なかなか時間が取れない。チェコ文学って、そんなにあるのかと思うかもしれないが、結構いっぱい訳されている。プラハに住んだけどドイツ語で書いたフランツ・カフカ、今はフランス語で書いてるミラン・クンデラなんかもいるわけだが、やっぱりまずはチャペックでしょ。来年は戌年なんだし、ということで。
(ダーシェンカ原本)
 カレル・チャペック(1890~1938)と言えば、とても多方面で活躍したチェコスロヴァキアの作家である。特に「ロボット」という言葉を最初に作ったことで有名。SFの「山椒魚戦争」や「ロボット」は岩波文庫に入っている。それと中公文庫でロングセラーの「園芸家十二カ月」や児童文学の「長い長いお医者さんの話」(岩波少年文庫)なんかも知られている。そして、かつて新潮文庫で出ていた「ダーシェンカ」という愛犬をめぐるエッセイを読んだ人もいるかもしれない。

 チャペックは1938年12月25日、つまり1939年3月のドイツによるチェコ併合の直前、ミュンヘン会談の少し後に48歳で惜しくも亡くなっている。自由を求めた反ナチス運動家でもあったチャペックは、ナチスにマークされていた。侵攻したドイツ軍はチャペックを拘束しようと家に向かったが、死亡していたことを知らなかったという話だ。しかし、それは弟のカレルのこと。兄のヨゼフはチェコを代表するキュビズムの画家だったが、ナチスに拘束され収容所から戻らなかった。

 カレル・チャペックの死後、犬や猫について書いたエッセイは「チャペックの犬と猫のお話」にまとめられた。河出文庫に入っていて、今も読まれている。この本には「ダーシェンカ」の部分も全部入っている。冒頭には写真がいっぱい載っていて、とても素晴らしい。そして同じく河出文庫に「チャペックのこいぬとこねこは愉快な仲間」という本も出ていて、そういう本もあるのかと買ってあった。当然カレルの本だと思って買ったんだけど、今回よく見てみれば兄のヨゼフ・チャペックの本じゃないか。著者によるイラストもいっぱい載っている。どっちも犬や猫が好きな人には絶対おすすめ。
 
 ヨゼフの本から書くと、これは子ども向けの絵本。子犬と子猫が仲良く一緒に住んでいる。子どもたちも仲良く、ありえない世界なんだけど、それが楽しい。犬と猫ががなぜかお金も少し持っていて買い物に行ったりもする。クリスマスケーキを作ろうとして、ありったけのものを詰め込んで、猫は大好きなネズミのくん製もいっぱいいれたりする。それで子どもたちをもてなそうとするんだけど、そこへ野良犬が匂いにひかれて…。といった面白いファンタジーで子どもも大人も楽しめる楽しい児童文学。
(カレル・チャペック)
 一方、カレルの本はお得意のユーモア・エッセイ。大部分が犬の話だけど、猫も飼っていて最後の方に出てくるプドレンカの話はけっこう強烈。とにかく多産系の猫ちゃんなのである。犬の方はミンダとかイリスとか、なによりダーシェンカの話。普通は内容のオリジナル性が大切だけど、これは「あるある本」で、犬や猫を飼った人には「それってある」「これもある」の連続である。それが楽しいし、全世界共通なんだなあと思ってうれしくなる。そんなステキな本。
(プドレンカ)
 今じゃ雌犬、雌猫を飼う人は、避妊手術をすることも多いだろう。でも、80年以上も昔のことで、そんなことはしない。日本でも大体の犬は放し飼いだった時代だが、ヨーロッパはもともと室内で靴を脱ぐ習慣がないから、犬も自由に家の中で飼われている。チャペックもマッチング・シーズン(発情期)には気を付けてるんだけど、なぜかどこかで妊娠してしまう。そういう苦労がつきない。

 「ちょっとばかりの排外主義」という短い章もある。それはイングランドやフランスやスペインやデンマークなんかの犬はチェコでも人気があるが、チェコ独自の犬がいないのが寂しいというのである。世界との友好を唱えるチャペックだけど、同時にオーストリア帝国からの独立を求めたナショナリストでもあった。この気持ちは僕にはよく判る気がする。日本には秋田犬柴犬がいる。長野県の川上村のみにいる川上犬なんか素晴らしい。犬はずっと人間の友だちだったから、その地域の風土にあった性質になって行ったと思う。チェコ犬が欲しいと思うチャペックにも共感する。
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