昨日旅行から帰ってきてNHKニュースを見たら、品川区教委が「いじめた子は出席停止に」という制度を積極的に適用するという方針を打ち出したというニュースを伝えていた。午前0時からの番組には若月教育長が出演して意義を語っていた。今日の新聞を見ると、東京新聞は大きく取り上げているが、朝日新聞には全く載っていない。全国紙に載っていないので知らない人も多いだろう。この問題をどう考えればいいだろうか。
結論を最初に書いてしまえば、
①今回区教委は積極運用するという方針を打ち出しているが、その方針には意味がないものが多い。
②現場で使いづらい制度であることは変わらないので、品川区教委の方針は今のままでは無意味である。
③この「出席停止」制度は、制度そのものに疑問が多い。
順番に説明しておきたい。
品川区の小中学校では、今まで出席停止措置を実行したことはないと言う。この措置自体は従来からあって、東京新聞によれば2010年度には全国で中学校51件に「とどまっている」。新聞記者は「とどまっている」と書くが、全国で50人以上が出席停止になっているのか。それは知らなかった。「相当多く使われている制度」であると言うべきだろう。しかし、「保護者に理解を得にくいなどのこともあり」、なかなか使われていない制度であると言う。それに対し、事務手続きのマニュアルを定めた冊子を小中教員1000名に配布。保護者会でも説明し、子どもたちにも授業で教えるように求めた。
これでは、積極的な適用を求める新政策になっていない。テレビで説明があったが、出席停止にするためには、学校と保護者と教育委員会の間に、結構複雑な書類のやり取りがある。今まであまり使われていない理由の一つは、この手続きの面倒くささである。よって、本当に「出席停止で学校がよくなる」と信じているのなら、大胆に制度設計を見直し、教育行政の責任をはっきりさせなくては意味がない。
・出席停止の権限を全面的に校長の判断にゆだねる。
・保護者等と問題が起きた場合の責任は全面的に区教委が負う。
・出席停止中の生徒の家庭訪問などは、全面的に区教委の指導主事が行う。
ここまで打ち出すと言うのなら、区教委は全面的に学校現場を支援してこの制度を使う気だと皆思うだろう。全教員に「マニュアル」を配るなんてしても、数年すれば教員はほとんど異動してしまう。事務手続きの流れは管理職に周知徹底されていればいいのであって、担任一人ひとりが細かく知っている必要はない。だからマニュアルは学校に数部あればいいのである。
僕が昔中学に勤務していた頃は、「出席停止」という措置があるということは知っていたが、ほとんど実用の対象になっていなかった。高校に異動したら、「特別指導」という名前で、問題行動を起こした生徒を自宅謹慎または学校登校謹慎をさせるという「指導」を行っていた。恐らく全国どの高校でも行われているのではないかと思う。中学に比べて恵まれているという思いも最初はあったのだが、だんだん様々なケースを経験してみると、「一長一短」あると思うようになった。
高校は義務教育ではないので、「退学」「留年」という措置がある。生徒がなんとか高校を卒業したいと思っている場合、学校側が生徒に「授業に出席せずに反省を求める」ことには有効性がある。高校で問題行動を複数回起こせば、学校ごとに細かいルールは違っているだろうが、「進路変更を求める」ことになるだろう。事実上の退学処分に近いが、あくまでも「自発的に退学願を提出する」という形を取る。何度も指導を繰り返す中で、これ以上この学校で学習を続けていくことは難しいという判断を、学校もだが保護者、本人も大体共有していくものである。(大体は「今度問題を起こしたら進路を変更する」という事前確認をその前の事件のときにやっておくことになる。)
一方中学では生徒を退学させられない。授業に出ていなければ、卒業・進学が不可になる制度があることはあるのだが、教室で授業を受けられなくても保健室登校、フリースクールや適応教室などでも出席とみなす柔軟な対応をするようになっているから、ほとんど適用されないだろう。成績が「1」でも留年はないし、問題行動を起こしても(たとえ鑑別所や少年院に入ったとしても)、元の学校に籍があって戻ってくれば進級するわけである。こういう中学の状況では、確かに「出席停止」が意味を持つ感じもするだろう。
でも、「出席停止」は実際は難しい。本人・保護者が納得していなければ、「出席停止」は逆効果の場合が予想される。最初から「出席停止1か月」はありえないので、一週間もすれば戻ってくる。その間に授業や行事なども進んでしまっている。本人が納得して反省しているなら、あえて出席停止にする意味はないし、反省せず指導に従う気持ちがないなら無意味である。「出席停止」にしても、納得していないで学校に来てしまったらどうするんだろう。いじめ問題の話なんだから、家でおとなしく謹慎していないで公園かななんかで「待ち伏せ」して、校外でいじめを続けるのを誰も防げないだろう。また「出席停止」はインフルエンザとか忌引きと同じで、学校の側が来なくていいと言ってるわけだから「欠席数」には入らない。学校に来て部活したいと言う生徒には「来るな」は効くが、粗暴タイプで勉強嫌いのいじめっ子には「出席停止」が嬉しくて仕方ないだろう。自習課題はたくさん出す、毎日家庭訪問する、担任は朝電話するなどはするだろうが、いつもより朝寝して昼間もテレビ見たりゲームしたりできてしまう。親の大部分は働いているだろうから、子どもをずっと見張っているわけにはいかない。そういう生徒の実態があるから、「出席停止」には意味がなく、逆に「野放し」にしてしまう危険性を感じてしまうわけだ。
ところで、そういう実際には使いづらい制度を、どんどん使っていこうと言うのは何故だろうか。今、高校では「退学」「留年」があるが、中学にはないと言うことを書いた。ということは、義務教育段階でも「留年」制度があれば、出席停止で授業に出させない状態が続いたら「留年」(卒業不可)の可能性が高くなる。ゆえに「留年」したくない生徒は「出席停止」を非常に恐れると言う可能性が考えられる。大阪市の橋下市長が「義務教育の留年」を言い出したことがあるが、どうもそこにつながっているのではないか。その問題が出てくる前提として、「いじめっ子は出席停止」、授業にほとんど出ていない生徒は「留年させるべきではないか」という方向に進んで行くのではないかと思うのである。
僕は小中での留年は全く無意味であると思う。学校が純粋に「学力養成機関」であるならそれもいいが、実際は義務教育段階では「地域の同年齢集団」的性格が強い。高校でも留年すると退学してしまう生徒が多い。一緒に入った同学年生徒から「脱落」するのが嫌だからである。中学段階で「留年」すれば、大病(大ケガ)で入院していた場合などを除き、ほとんどは下の学年になじむことは難しいと思う。その結果、中学卒と言う学歴がない低学力青年を大量に生むことになる。何とか同年代集団のまとまりを利用して、できるだけ高校まで、最低でも中学卒にはしなければいけないだろうと思う。
もう一つ、実際に使うかどうかは別にして、「抑止力」として「出席停止」を使う。学校はそれほど強い権力を有していると生徒に示す手段にするということもあるだろう。そうすると制度は使わないといけないので、各校一人は在任中に出席停止にしないと校長は評価されないという時代が来るのかもしれない。しかし、これは「死刑制度」に対する僕の反対論と同じで、制度の理解を間違え生徒の心を荒廃させる結果につながると思う。「いじめっ子」も怖いかもしれないが、先生も怖いわけで、さらに権力を誇示されると相談したくてもしにくくなる。
品川区は東京で一番最初に、義務教育段階での「学校選択制」を始めた所で、以後も小中一貫校など「先進的」な教育行政を打ち出してきた。「先進」というのは新自由主義的に突出と言う意味で、教員からすれば大変な勤務地区だと言われる。品川区からは早く異動したいという声があると前に聞いたことがある。「品流し」という言葉さえあるという。そういう競争的な教育政策を見直していく方向ではなく、学校権力を強めると言う方向で打ち出したのが今回の方針だと思う。が、今書いたようにそれだけではほとんどいじめ防止に意味はないはずだ。
結論を最初に書いてしまえば、
①今回区教委は積極運用するという方針を打ち出しているが、その方針には意味がないものが多い。
②現場で使いづらい制度であることは変わらないので、品川区教委の方針は今のままでは無意味である。
③この「出席停止」制度は、制度そのものに疑問が多い。
順番に説明しておきたい。
品川区の小中学校では、今まで出席停止措置を実行したことはないと言う。この措置自体は従来からあって、東京新聞によれば2010年度には全国で中学校51件に「とどまっている」。新聞記者は「とどまっている」と書くが、全国で50人以上が出席停止になっているのか。それは知らなかった。「相当多く使われている制度」であると言うべきだろう。しかし、「保護者に理解を得にくいなどのこともあり」、なかなか使われていない制度であると言う。それに対し、事務手続きのマニュアルを定めた冊子を小中教員1000名に配布。保護者会でも説明し、子どもたちにも授業で教えるように求めた。
これでは、積極的な適用を求める新政策になっていない。テレビで説明があったが、出席停止にするためには、学校と保護者と教育委員会の間に、結構複雑な書類のやり取りがある。今まであまり使われていない理由の一つは、この手続きの面倒くささである。よって、本当に「出席停止で学校がよくなる」と信じているのなら、大胆に制度設計を見直し、教育行政の責任をはっきりさせなくては意味がない。
・出席停止の権限を全面的に校長の判断にゆだねる。
・保護者等と問題が起きた場合の責任は全面的に区教委が負う。
・出席停止中の生徒の家庭訪問などは、全面的に区教委の指導主事が行う。
ここまで打ち出すと言うのなら、区教委は全面的に学校現場を支援してこの制度を使う気だと皆思うだろう。全教員に「マニュアル」を配るなんてしても、数年すれば教員はほとんど異動してしまう。事務手続きの流れは管理職に周知徹底されていればいいのであって、担任一人ひとりが細かく知っている必要はない。だからマニュアルは学校に数部あればいいのである。
僕が昔中学に勤務していた頃は、「出席停止」という措置があるということは知っていたが、ほとんど実用の対象になっていなかった。高校に異動したら、「特別指導」という名前で、問題行動を起こした生徒を自宅謹慎または学校登校謹慎をさせるという「指導」を行っていた。恐らく全国どの高校でも行われているのではないかと思う。中学に比べて恵まれているという思いも最初はあったのだが、だんだん様々なケースを経験してみると、「一長一短」あると思うようになった。
高校は義務教育ではないので、「退学」「留年」という措置がある。生徒がなんとか高校を卒業したいと思っている場合、学校側が生徒に「授業に出席せずに反省を求める」ことには有効性がある。高校で問題行動を複数回起こせば、学校ごとに細かいルールは違っているだろうが、「進路変更を求める」ことになるだろう。事実上の退学処分に近いが、あくまでも「自発的に退学願を提出する」という形を取る。何度も指導を繰り返す中で、これ以上この学校で学習を続けていくことは難しいという判断を、学校もだが保護者、本人も大体共有していくものである。(大体は「今度問題を起こしたら進路を変更する」という事前確認をその前の事件のときにやっておくことになる。)
一方中学では生徒を退学させられない。授業に出ていなければ、卒業・進学が不可になる制度があることはあるのだが、教室で授業を受けられなくても保健室登校、フリースクールや適応教室などでも出席とみなす柔軟な対応をするようになっているから、ほとんど適用されないだろう。成績が「1」でも留年はないし、問題行動を起こしても(たとえ鑑別所や少年院に入ったとしても)、元の学校に籍があって戻ってくれば進級するわけである。こういう中学の状況では、確かに「出席停止」が意味を持つ感じもするだろう。
でも、「出席停止」は実際は難しい。本人・保護者が納得していなければ、「出席停止」は逆効果の場合が予想される。最初から「出席停止1か月」はありえないので、一週間もすれば戻ってくる。その間に授業や行事なども進んでしまっている。本人が納得して反省しているなら、あえて出席停止にする意味はないし、反省せず指導に従う気持ちがないなら無意味である。「出席停止」にしても、納得していないで学校に来てしまったらどうするんだろう。いじめ問題の話なんだから、家でおとなしく謹慎していないで公園かななんかで「待ち伏せ」して、校外でいじめを続けるのを誰も防げないだろう。また「出席停止」はインフルエンザとか忌引きと同じで、学校の側が来なくていいと言ってるわけだから「欠席数」には入らない。学校に来て部活したいと言う生徒には「来るな」は効くが、粗暴タイプで勉強嫌いのいじめっ子には「出席停止」が嬉しくて仕方ないだろう。自習課題はたくさん出す、毎日家庭訪問する、担任は朝電話するなどはするだろうが、いつもより朝寝して昼間もテレビ見たりゲームしたりできてしまう。親の大部分は働いているだろうから、子どもをずっと見張っているわけにはいかない。そういう生徒の実態があるから、「出席停止」には意味がなく、逆に「野放し」にしてしまう危険性を感じてしまうわけだ。
ところで、そういう実際には使いづらい制度を、どんどん使っていこうと言うのは何故だろうか。今、高校では「退学」「留年」があるが、中学にはないと言うことを書いた。ということは、義務教育段階でも「留年」制度があれば、出席停止で授業に出させない状態が続いたら「留年」(卒業不可)の可能性が高くなる。ゆえに「留年」したくない生徒は「出席停止」を非常に恐れると言う可能性が考えられる。大阪市の橋下市長が「義務教育の留年」を言い出したことがあるが、どうもそこにつながっているのではないか。その問題が出てくる前提として、「いじめっ子は出席停止」、授業にほとんど出ていない生徒は「留年させるべきではないか」という方向に進んで行くのではないかと思うのである。
僕は小中での留年は全く無意味であると思う。学校が純粋に「学力養成機関」であるならそれもいいが、実際は義務教育段階では「地域の同年齢集団」的性格が強い。高校でも留年すると退学してしまう生徒が多い。一緒に入った同学年生徒から「脱落」するのが嫌だからである。中学段階で「留年」すれば、大病(大ケガ)で入院していた場合などを除き、ほとんどは下の学年になじむことは難しいと思う。その結果、中学卒と言う学歴がない低学力青年を大量に生むことになる。何とか同年代集団のまとまりを利用して、できるだけ高校まで、最低でも中学卒にはしなければいけないだろうと思う。
もう一つ、実際に使うかどうかは別にして、「抑止力」として「出席停止」を使う。学校はそれほど強い権力を有していると生徒に示す手段にするということもあるだろう。そうすると制度は使わないといけないので、各校一人は在任中に出席停止にしないと校長は評価されないという時代が来るのかもしれない。しかし、これは「死刑制度」に対する僕の反対論と同じで、制度の理解を間違え生徒の心を荒廃させる結果につながると思う。「いじめっ子」も怖いかもしれないが、先生も怖いわけで、さらに権力を誇示されると相談したくてもしにくくなる。
品川区は東京で一番最初に、義務教育段階での「学校選択制」を始めた所で、以後も小中一貫校など「先進的」な教育行政を打ち出してきた。「先進」というのは新自由主義的に突出と言う意味で、教員からすれば大変な勤務地区だと言われる。品川区からは早く異動したいという声があると前に聞いたことがある。「品流し」という言葉さえあるという。そういう競争的な教育政策を見直していく方向ではなく、学校権力を強めると言う方向で打ち出したのが今回の方針だと思う。が、今書いたようにそれだけではほとんどいじめ防止に意味はないはずだ。
中途半端な目で見ているから!いじめは無くならない!未成年でも逮捕するべきです!学校!教育委員会!文部科学省!先生!政治家!警察は何も役に立っていない!大津市いじめで加害者達がお咎め無しになったら!被災者がまた、出ます!法律で少年法を改善して下さい!何十年前のいじめとは違うんです!犯罪=殺〇何です!出席停止にして下さいね!口先だけで無く
刑事事件にならないほどのいじめ問題なら、一週間程度で戻ってくるでしょう。そして、加害生徒もその保護者も納得せずに、学校に恨みを持って戻ってくる。いや表面的には反省しているかもしれないけど。
この制度は前からあるわけだけど、あまり使われてないということは、使いにくいということです。僕が書いたのは、品川区の方針では使いにくいのは変わらないということです。
コメントされた方がいつの出来事かは判りませんが、元の記事は2012年です。その後であれ、その前であれ、出席停止という制度はあったわけで、教員は知ってるはずですが、使いにくい制度だから使われなかったわけです。
ではどうすればいいかは、他にもいじめ問題を書いているので菅、僕は「学校仲裁裁判所」を作るのが良いと思っています。