尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

給付金遅れは「マイナカード」が原因ではないーマイナ保険証問題③

2022年10月29日 22時32分42秒 | 政治
 マイナ保険証問題3回目。今回の河野デジタル相の方針は、そもそも岸田首相の指示によるという。首相には「マイナンバーカードが普及していないために、国民給付金の給付が遅れた」という思いがあるらしい。2020年のコロナ発生当時、岸田氏は自民党政調会長を務めていた。給付金という構想が出て来た時には、ずいぶん迷走したことは記憶に新しい。岸田氏は当初、所得制限を設ける制度を考えたが、結局「全ての国民に(所得を問わずに)給付する」ということになった。その経緯はともかくとして、岸田氏は「デジタル化の遅れ」を感じたというのである。しかし、その認識は間違っている。
(デジタル化を進める岸田首相)
 その問題を書く前に、マイナンバーカードに関する根本的な問題を書いておきたい。マイナンバー、つまり「個人識別番号」はすでに全国民に割り振られている。納税年金手続きなどには番号を書く必要がある。有価証券の取引にも必要である。そのため、年金事務所に別個に所得を届けなくても、向こうの方で事務処理出来るようになっている。つまり、「マイナンバー」は国民がカードを持つ必要はなく、すでに行政が実用化している。これ以上、国民の個人情報を収集する必要はないだろう。

 ところで、マイナンバーカードの説明を見ると、「全ての国民の方が、1人に1枚のマイナンバーカードを作成できます」とある。だから、子ども分にもポイントが付くと大宣伝している。保険証に利用されるとなると幼児でも作らざるを得なくなる。そのカードは「プラスチック製のICチップ付きカードで券面に氏名、住所、生年月日、性別、マイナンバーと本人の顔写真等が表示されます」と出ている。すなわち、まさにこれは「個人カード」ということになる。

 2020年の国民給付金では、当初「マイナカードでも受け付ける」と大宣伝した。そして地方自治体にはパスワードを忘れたなどの問い合わせが殺到した。そして最初のうちはマイナカードの申請がいっぱいあったが、自治体が対応出来なくなってマイナカードの申請を取り止めたということが多かった。それは何故だろうか。先の給付金は最後になって「世帯ごと」の給付になった。カードだけでは、配偶者や子どもがいるかどうかは判らないから、自治体がいちいちマイナカードによる申請を確認しなければならない。いったん誤支給してしまった後では、山口県で起こったケースのように揉めることがある。

 この問題は以前に書いたが、相変わらず理解していない政治家がいるようなのは何故だろう。マイナカードを幼児にも持たせようとしているが、それなら新生児も銀行口座を作らないといけないのか。マイナカードによる申請を求めるなら、個人情報しかないのだから、子どものカードで申請し子どもの口座に振り込むしか方法はない。これはムチャだろう。未成年のカードは不要なのである。親の口座に振り込むんだったら、子どもの情報は親権者のカードに紐付けるしかない。

 マイナカードは個人カードである。それなのに何故「世帯ごと支給」になったのか。それは「家族制度」ということだろう。別に旧統一教会の影響というわけではない。もともと日本の保守派は戦前の「天皇制絶対主義」を清算出来ていない。戦前の体制では、天皇が父、皇后が母、「臣民」は陛下の赤子という「家族国家」思想によって国民を統合しようとした。国民の中には「家制度」があって、「イエ」を中心にして国家が成り立っていたのである。家制度は現行憲法でなくなったはずが、国民の中には今も名残がある。「個人」を主張すると、「間違った個人主義」などと批判する政治家がいるのだ。

 そういう日本で、「個人」ですべてを把握しようという「マイナンバーカード」を普及させようとする。この矛盾に自分で気付かないのだろうか。「戸籍カード」なんてものを各家族ごとに作成することは不可能だ。そんなものは要らない。諸外国で「給付金が早かった」事例は多いようだ。それはカードがあるからではない。「個人識別番号」はすでにあるんだから、これは納税者番号と同じだから、番号と口座を登録すればカードなんかなくてもすぐに給付出来るのである。カードリーダーもパスワードも不要。郵便で口座情報をやり取りして給付出来るんだから。ネットショッピングを思い出せば、そんな面倒なカードは使わない。

 ところで、別問題だが「マイナンバー」という呼び方はもう止めて欲しいなと思う。他人が「マイナンバー」という時、それはその人のパーソナルナンバーを指すはずである。こちらの個人番号は相手からすれば「ユア・ナンバー」だろう。行政が街角でカードを作れとやってるけど、それは「あなたもカードを作りましょう」という意味だから、「ユアナンバーカード」と呼ばないと誤解される。パーソナルナンバー、それより個人番号で良いではないか。
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