今まで何度も書いてきた「教員免許更新制」がついに廃止された。「教員不足」をもたらし、少なからぬ教師の人生を狂わせてきた愚かな政策は果たして総括されたのだろうか。僕はその制度の発足当時から10年以上にわたって何度も問題点を指摘してきた。やっと廃止されたということで、だから言ったじゃないかと思う。本当はせめて「謝罪」の言葉を聞きたかった気持ちはある。
まあ放っておけば廃止されそうだったのに、ことさら長引かせそうな運動をする気もなかったけど。大日本帝国が連合国に降伏したときに、中国は「惨勝」と表現した。「惨敗」という言葉はあっても、「惨勝」という言葉はない。しかし、そう言いたくなる気持ちは理解可能だ。今回の「教員免許更新制度の廃止」も似たような感じかもしれない。せめて2回更新をせざるを得なかった人が出る前に廃止できなかったものか。
「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」は衆議院を4月12日に通過し、参議院本会議で5月11日に可決された。この法律改正案をいくら眺めても、内容が全く読み取れない。普通の人が読んでも判らないと思うが、一応参考のためにリンクを貼っておく。参議院にあるPDFファイルを示すと、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」になる。
衆議院では立憲民主党及び日本共産党が別個に修正案を出したが、否決された。その結果を受け、内閣提出の原案に対して、自由民主党、立憲民主党・無所属、 日本維新の会、 公明党、 国民民主党・無所属クラブ、 有志の会が賛成し、日本共産党、れいわ新選組が反対した。2会派の反対、及び立憲民主党の修正案は、更新制が必要だというものではなく、新たに作ることになった研修制度は不要であるというものである。なお、参議院文教科学委員会では採決に際して「附帯決議」が付けられた。
さて、この法改正によって、今までに教員免許を取得した人はどうなるのだろうか。文科省のサイトには、「改正法の趣旨や目的、留意事項等については、おって通知」とあり、現職教員に関しては教員委員会を通して通知されることと思う。しかし、現職じゃない人もいるわけだし、早めに参考ということで、「改正教育職員免許法施行後の教員免許状の取扱いについて(周知)」という資料が掲載されている。その中の「令和4年7月1日以降の教員免許状の扱いについて」を画像として掲載する。
(令和4年7月1日以降の教員免許状の扱いについて)
これを見ると、2022年7月1日時点で有効な教員免許は「手続なく、有効期限のない免許状となる」。これは「休眠状態のものを含む」と明記されている。「休眠」とは、現職ではなく退職した教員や「ペーパーティーチャー」の場合である。教員免許更新制上の期限以前に退職して、まだ更新期限が来ていない場合である。一方、すでに更新期限を越えた免許に関しては、「失効」はそのままだが、更新講習はないわけだから、都道府県教育委員会に再授与申請手続を行うことで、無期限の免許状が授与される。
この「再授与」の規定は面倒なので、もうすべて有効にすれば良いと思うが、まあ一度は「更新制」を実施した行政側の思考法なのだろう。ところで、ここで面白いことは、自分の場合である。更新制は2011年4月1日から発効したが、僕はその有効期限が終わる当日に退職したのである。補足説明で、「有効期限の日に退職した教員については、定年退職者は「現職教師」、自己都合退職、勧奨退職者は「非現職教師」の扱いになります」とある。従って、僕の免許は上記画像の「非現職教員の休眠」に該当し、よって「休眠」のものは手続なく無期限の免許となるはずだ。
まあ、それはともかく、あまりに詳しく書いても教員じゃない人には細かすぎると思うので、国会審議の重要ポイントだけ示しておきたい。まず、衆議院では、4月1日に文部科学委員会に3人の参考人を招いて意見を聞いている。「4月1日の委員会議事録」をリンクしておく。参考人は加治佐哲也(兵庫教育大学長)、瀧本司(日本教職員組合中央執行委員長)、佐久間亜紀(慶應義塾大学教職課程センター教授)の3人。特に佐久間氏の指摘には納得出来る点が多い。関心のある人は一度見ておく価値がある。
ちょっと紹介すれば、免許更新制は諸外国ではアメリカの一部の州でしか行われていないという。アメリカでは教師は授業するだけのために雇われているので、授業と別に研修を命じるためには「残業代」が発生する。しかし、富裕層の多い地区では予算が可能だが、貧困地区の学校では残業代の確保が難しい。そこで教師の研修を確保するために「免許の更新」という手段を取っているという話である。そもそも地区によって教育予算が違うこと自体が想像を超えている。やはり日本でやる意味など全くなかった。その後、4月6日に各党議員による審議が行われた。「4月6日の議事録」はここ。現時点では参議院の議事録は未掲載。
参議院文教科学委員会の附帯決議は以下のようなもの。「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」全部を載せると、長くなりすぎるので全文を知りたい人はリンク先を参照。(太字は引用者)
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、「新たな教師の学びの姿」は、時代の変化が大きくなる中にあって、教員が、探究心を持ちつつ自律的に学ぶこと、主体的に学びをマネジメントしていくことが前提であることを踏まえ、資質の向上のために行われる任命権者による教員の研修等に関する記録の作成並びに指導助言者が校長及び教員に対して行う「資質の向上に関する指導助言等」は、研修に関わる教員の主体的な姿勢の尊重と、教員の学びの内容の多様性が重視・確保されるものとすることを周知・徹底すること。とりわけ、校長及び教員に対して行う「資質の向上に関する指導助言等」については、教員の意欲・主体性と調和したものとすることが前提であることから、指導助言者は、十分に当該教員等の意向をくみ取って実施すること。
二、オンデマンド型の研修を含めた職務としての研修は、正規の勤務時間内に実施され、教員自身の費用負担がないことが前提であることについて、文部科学省は周知・徹底すること。
三、(略)
四、文部科学省及び各教育委員会は、本法の施行によって、教員の多忙化をもたらすことがないよう十分留意するとともに、教員が研修に参加しやすくなるよう時間を確保するため、学校の働き方改革の推進に向けて実効性ある施策を講ずること。(略)
五、六、七、(略)
八、「教師不足」を解消するためにも、改正前の教育職員免許法の規定により教員免許状を失効している者が免許状授与権者に申し出て再度免許状が授与されることについて、広報等で十分に周知を図るとともに、都道府県教育委員会に対して事務手続の簡素化を図るよう周知すること。また、休眠状態の教員免許状を有する者の取扱いについて、周知・徹底すること。
右決議する
まあ放っておけば廃止されそうだったのに、ことさら長引かせそうな運動をする気もなかったけど。大日本帝国が連合国に降伏したときに、中国は「惨勝」と表現した。「惨敗」という言葉はあっても、「惨勝」という言葉はない。しかし、そう言いたくなる気持ちは理解可能だ。今回の「教員免許更新制度の廃止」も似たような感じかもしれない。せめて2回更新をせざるを得なかった人が出る前に廃止できなかったものか。
「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」は衆議院を4月12日に通過し、参議院本会議で5月11日に可決された。この法律改正案をいくら眺めても、内容が全く読み取れない。普通の人が読んでも判らないと思うが、一応参考のためにリンクを貼っておく。参議院にあるPDFファイルを示すと、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案」になる。
衆議院では立憲民主党及び日本共産党が別個に修正案を出したが、否決された。その結果を受け、内閣提出の原案に対して、自由民主党、立憲民主党・無所属、 日本維新の会、 公明党、 国民民主党・無所属クラブ、 有志の会が賛成し、日本共産党、れいわ新選組が反対した。2会派の反対、及び立憲民主党の修正案は、更新制が必要だというものではなく、新たに作ることになった研修制度は不要であるというものである。なお、参議院文教科学委員会では採決に際して「附帯決議」が付けられた。
さて、この法改正によって、今までに教員免許を取得した人はどうなるのだろうか。文科省のサイトには、「改正法の趣旨や目的、留意事項等については、おって通知」とあり、現職教員に関しては教員委員会を通して通知されることと思う。しかし、現職じゃない人もいるわけだし、早めに参考ということで、「改正教育職員免許法施行後の教員免許状の取扱いについて(周知)」という資料が掲載されている。その中の「令和4年7月1日以降の教員免許状の扱いについて」を画像として掲載する。
(令和4年7月1日以降の教員免許状の扱いについて)
これを見ると、2022年7月1日時点で有効な教員免許は「手続なく、有効期限のない免許状となる」。これは「休眠状態のものを含む」と明記されている。「休眠」とは、現職ではなく退職した教員や「ペーパーティーチャー」の場合である。教員免許更新制上の期限以前に退職して、まだ更新期限が来ていない場合である。一方、すでに更新期限を越えた免許に関しては、「失効」はそのままだが、更新講習はないわけだから、都道府県教育委員会に再授与申請手続を行うことで、無期限の免許状が授与される。
この「再授与」の規定は面倒なので、もうすべて有効にすれば良いと思うが、まあ一度は「更新制」を実施した行政側の思考法なのだろう。ところで、ここで面白いことは、自分の場合である。更新制は2011年4月1日から発効したが、僕はその有効期限が終わる当日に退職したのである。補足説明で、「有効期限の日に退職した教員については、定年退職者は「現職教師」、自己都合退職、勧奨退職者は「非現職教師」の扱いになります」とある。従って、僕の免許は上記画像の「非現職教員の休眠」に該当し、よって「休眠」のものは手続なく無期限の免許となるはずだ。
まあ、それはともかく、あまりに詳しく書いても教員じゃない人には細かすぎると思うので、国会審議の重要ポイントだけ示しておきたい。まず、衆議院では、4月1日に文部科学委員会に3人の参考人を招いて意見を聞いている。「4月1日の委員会議事録」をリンクしておく。参考人は加治佐哲也(兵庫教育大学長)、瀧本司(日本教職員組合中央執行委員長)、佐久間亜紀(慶應義塾大学教職課程センター教授)の3人。特に佐久間氏の指摘には納得出来る点が多い。関心のある人は一度見ておく価値がある。
ちょっと紹介すれば、免許更新制は諸外国ではアメリカの一部の州でしか行われていないという。アメリカでは教師は授業するだけのために雇われているので、授業と別に研修を命じるためには「残業代」が発生する。しかし、富裕層の多い地区では予算が可能だが、貧困地区の学校では残業代の確保が難しい。そこで教師の研修を確保するために「免許の更新」という手段を取っているという話である。そもそも地区によって教育予算が違うこと自体が想像を超えている。やはり日本でやる意味など全くなかった。その後、4月6日に各党議員による審議が行われた。「4月6日の議事録」はここ。現時点では参議院の議事録は未掲載。
参議院文教科学委員会の附帯決議は以下のようなもの。「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」全部を載せると、長くなりすぎるので全文を知りたい人はリンク先を参照。(太字は引用者)
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、「新たな教師の学びの姿」は、時代の変化が大きくなる中にあって、教員が、探究心を持ちつつ自律的に学ぶこと、主体的に学びをマネジメントしていくことが前提であることを踏まえ、資質の向上のために行われる任命権者による教員の研修等に関する記録の作成並びに指導助言者が校長及び教員に対して行う「資質の向上に関する指導助言等」は、研修に関わる教員の主体的な姿勢の尊重と、教員の学びの内容の多様性が重視・確保されるものとすることを周知・徹底すること。とりわけ、校長及び教員に対して行う「資質の向上に関する指導助言等」については、教員の意欲・主体性と調和したものとすることが前提であることから、指導助言者は、十分に当該教員等の意向をくみ取って実施すること。
二、オンデマンド型の研修を含めた職務としての研修は、正規の勤務時間内に実施され、教員自身の費用負担がないことが前提であることについて、文部科学省は周知・徹底すること。
三、(略)
四、文部科学省及び各教育委員会は、本法の施行によって、教員の多忙化をもたらすことがないよう十分留意するとともに、教員が研修に参加しやすくなるよう時間を確保するため、学校の働き方改革の推進に向けて実効性ある施策を講ずること。(略)
五、六、七、(略)
八、「教師不足」を解消するためにも、改正前の教育職員免許法の規定により教員免許状を失効している者が免許状授与権者に申し出て再度免許状が授与されることについて、広報等で十分に周知を図るとともに、都道府県教育委員会に対して事務手続の簡素化を図るよう周知すること。また、休眠状態の教員免許状を有する者の取扱いについて、周知・徹底すること。
右決議する