尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

WOWOWドラマ「悪党~加害者追跡調査~」を見る

2020年10月09日 22時49分29秒 | 映画 (新作日本映画)
 WOWOWが製作した「連続ドラマW」の3本を一週間交替で映画館で上映している。その最後となる「悪党~加害者追跡調査~」をシネリーブル池袋で見た。瀬々敬久が監督した大力作だったが、時間が長いためか(平日だからか、主演の東出昌大の人気が蒸発してしまったからか)数人しか客がいない。12時に始まってA(1~3話)が2時半まで、B(4~6話)が3時に始まって5時半過ぎまでという長尺になるから、そうそう続けて見に行ける人も少ないのは確かだろう。

 時間もさることながら、犯罪被害者と加害者の問題、特に少年犯罪をどう考えるかなど、テーマがシビアすぎて重い。原作はこういうテーマをよく書いている薬丸岳の2009年の小説(角川文庫)である。瀬々監督は2018年に同じ薬丸原作の「友罪」を映画化していて、キネマ旬報ベストテン第8位となった。今回のドラマも瀨々監督の確かな力量を実感できる力作で、編集や音楽も含めて高いレベルに仕上がっている。2019年5月12日から6月16日にかけて放映された。

 冒頭で刑事がレイプ容疑者に拳銃を突きつけて大声を上げている。さすがにやり過ぎで警察を懲戒解雇されて数年後、佐伯修一東出昌大)はホープ探偵事務所で調査員をしている。所長の木暮松重豊)が佐伯に声を掛けて拾ったのには、理由があったことは一番最後になって判る。その探偵事務所に少年犯罪の加害者を捜してくれという依頼が来る。佐伯は細谷という犯人を捜し当てるが、細谷は振り込め詐欺グループで掛け子や受け子を束ねる「仕事」をしていた。巧みに近づき、潜入することになるが…。依頼の目的は何か、そして細谷は「更生」出来たのか。調査は何をもたらすのか。第1話は原作の第1章である。
(カメラ片手に張り込む佐伯)
 第2話ではネグレクトの母を探す話。第3話は事件を起こして縁を切った弟を末期がんの母に会わせる為連れてきて欲しいという依頼。これらのエピソードを通して「赦すこと」「赦せないこと」の境目をめぐって、いろいろと考えさせる。一方で佐伯の過去に何があったのかが次第に判ってくる。かつて高校生の姉が無惨に殺された事件があり、今も忘れられない。犯人たちが何をしているか、自分の時間を使って探り続けている。前半は原作のエピソードに沿って進行する。

 後半になると、原作の第4話はカットされ、それ以後に進む。弁護士の鈴本柄本明)がかつて担当した少年の現状を調べて欲しいというのである。鈴本は地味な国選弁護士に意義を感じて弁護をしてきたが、自らの娘が事件被害者になってしまったのだという。一方で、佐伯の姉殺人犯調査が進行し、今は流行っているラーメン店主となった田所が通うキャバクラにも行ってみる。そこで田所のお気に入りの「はるか」(新川優愛)と仲良くなる。はるかは田所を嫌い、佐伯に親しみを感じていく。そこに同じ犯人グループの寺田が登場し、社長令嬢と結婚話が出ている田所を脅迫する。はるかは寺田の部屋に盗聴器を仕掛けるが…。
(佐伯とはるか)
 5話、6話は田所と寺田、もう一人の犯人榎木、そして鈴本弁護士、木暮所長、伊藤冬美(はるかの本名)らが絡み合い、佐伯をめぐって怒濤の展開。それをどこにも乱れやよどみを感じさせることなく描ききっている。病院ロケも効果を上げている。私生活をほとんど姉の犯人探索に費やしている佐伯だが、彼の目標は「復讐」なのか。人間は変われるのか、犯罪被害者は加害者を赦すことが可能なのか。重いテーマだが、エンタメ性を消すことなく、見るものを納得させていく。演出力とともに、松重豊や柄本明の脇役としての凄さをまざまざと実感する。

 ラストはこうなって欲しいなあと思うようになっていて、そこはエンタメ系原作のテレビドラマだなと思うが、やはりそうじゃないと重すぎてしまうだろう。事件や加害者、被害者の問題は個別性が強く、安易に一般化は出来ないと思う。このドラマでも決して一般化はせず、安易な結論は出していない。人間にはいくつもの顔があり、複雑なものだと思う。その複雑な諸相をかなり本格的に見つめている。時間さえあれば、多くの人に頑張って見て欲しいんだけど…。

 新川優愛がとても良かった。検索してみたところ、ロケバスの運転手と親しくなって結婚したと出ていた。ここで書かなかったが、もっと多くの登場人物がいて、板谷由夏蓮佛美沙子も重要な脇役で印象的。2012年にもドラマ化されていて、その時のキャストは佐伯が滝沢秀明、所長が渡哲也、はるかが北乃きいだったと出ていた。そっちも魅力的だが全然知らなかった。
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