尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「定住外国人地方参政権」問題をどう考えるか

2017年10月06日 23時12分53秒 | 政治
 「希望の党」が公認候補に求めた政策協定書に「外国人に対する地方参政権の付与に反対すること。」という一項が入っている。改めて注目されたこの問題をどう考えればいいのだろうか。

 僕は今タイトルに「定住外国人地方参政権」と書いた。「定住」と書くのは当たり前すぎるので、以下では省略したいと思う。時々これを理解してないような人も見受けられるが、旅行者が旅先で投票できないのは、日本人だって同じである。「定住」の意味は、すでに「外国人地方参政権」を認めている国によって違っている。居住期間を定めて「〇年以上」としている国が多い。

 問題は「地方参政権」である。ちゃんと理解していない人は、「国政選挙の選挙権を与えるのか」などと思っている人も時々見かける。世界で定住外国人にも国政選挙の選挙権を与えている国はほとんどない。「ほとんど」と書くのは、ウルグアイのように、憲法で15年以上定住の外国人に選挙権があると決めている国があるから。(ウィキペディアによる。なお、被選挙権はない。)また、重要な関係のある国に限って例外的に認めている国もある。イギリスでは英連邦内の国民に認めているし、ポルトガルはブラジル人に、ブラジルはポルトガル人に認めているようだ。

 日本では「外国人の国政選挙権」は問題にならない。かつて行われた「外国人参政権訴訟」の最高裁判決(95.2.28)で、憲法上「外国人参政権」は認められないとしている。現行憲法の解釈上、それは常識的な考え方だと思うし、国政参政権を要求している大きな運動もないだろう。(ただ、「傍論」において「地方レベルの参政権については法律による付与は憲法上許容される」との記述があった。この裁判の詳細や判決の解釈に関して細かく知りたい人は、自分で調べて欲しい。)

 一方、「在外日本人」、つまり仕事などで外国で何年も暮らしている日本国民の選挙権も、昔は保証されていなかった。要するに、当日海外旅行していて投票できない人と同じ扱いだったわけである。それに対し違憲訴訟が起こされ、2005年の最高裁判決で違憲判断が下された。そのような「先人の苦闘」があって、今は在外日本人の参政権が保証されるようになったわけである。

 そのような流れは諸外国でも同様だ。例えばトルコの選挙で在外投票にトルコ大使館前に集まったトルコ人とクルド人が衝突して問題になった事件を覚えている人も多いだろう。アメリカ大統領選挙でも日本在住のアメリカ人の投票風景がニュースになった。今年の韓国大統領選でも在外投票が行われている。事前登録が必要だということで、登録者は3万8千人ほどだったという。

 このように、「国政選挙権は、国籍所有国に限られる(ただし、特別な関係にある外国人には例外的に認められる)」というのが、大体の国の共通点だろう。それに対して「地方参政権」は違っている。それは「国民」と「住民」は違うからだろう。同じ国民であっても、例えば東京都にずっと住んでいない日本国民は都議会議員選挙で投票できない。それを逆に考えれば、「同じ地域にずっと住んでいる人は、国籍が違っても地方選挙で投票出来てもいいのではないか」という発想になる。
 
 これは世界的にもかなり広がっている考え方である。EU加盟国は、同じEU諸国民には地方参政権を認めている国が多い。英仏独伊などヨーロッパの主要国は、EU以外の外国人には認めていないが、オランダ、ベルギーやスウェーデン、デンマークなど北欧諸国はどこに国の人でも認めている。ロシア、ニュージーランド、チリ、韓国、香港なども認めている。アメリカ、カナダ、スイス、オーストラリアなどは、国としては認めていないが、州ごと、あるいは都市ごとに認めているところもある。

 日本でも、小池知事や「維新」の人々は、地方分権を進める改憲をしようとかよく言う。「地方分権」や「地方主権」とか、そういう言葉が好きらしい。だったら、地方の住民である定住外国人の権利を大切にしてもいいと思うが…。各地で行われている「住民投票」の中には、定住外国人の投票を認めているところもある。住民投票は条例で決めるから、公職選挙法による国籍制限をなくせる。

 自治体の合併をめぐる住民投票などで、もう実際に投票したケースがある。それこそ「地域住民の声を聞くべきテーマ」だし、実施しても何の問題も起きなかった。何を恐れているのか知らないが、地域の問題を決めるときに、その地域に長らく住んでいる人の声を聞くというのは、当然ではないだろうか。特定の外国人が集住している地域もないではないが、日本人より多いというわけではない。そういうところの行政当局は、外国人住民と対話しないとやっていけない。外国人住民のインテグレーション(統合)を進めるうえでも、むしろ地方参政権がある方がやりやすいんじゃないか。

 離島などで「ある特定の外国人が集団で住み着いた場合」などと言う人がいる。(小池氏もかつてそう言ったらしい。)なんか、こういう「被害妄想」みたいな話を聞くと、リアリズムの政治家ではないなあと思う。選挙結果を左右するために、ある特定集団が移住してきたら、日本人だって選挙違反である。外国人参政権が認められれば、そういうことをした外国人ももちろん選挙違反になる。

 それに選挙結果を左右するほどの大量の外国人が、定住して参政権が認められるまで(諸外国では少なくても5年程度)、ずっと住んで外国人登録をしないといけない。その間何をしているのか。働きもしないで、母国の誰かが養っているのなら、それは「住民」とは言えない。そんなことをするために何十億円もかかるだろうから、どこの国もやろうとは思わないだろう。そういうことをして、日本全体の国政を左右できるならともかく、たかが小さな離島の村長や村議会選挙に関わるわけがない。

 それよりも、韓国は外国人地方選挙権を認めているんだから、右派の日本人が韓国へ住みつけば、韓国の地方政治を変えられることになる。韓国の「慰安婦像」問題を大きく取り上げる人がかなり多いが、公道を管理する権限は地方自治体にあるようだ。韓国は「永住資格取得後3年以上が経過した19歳以上の外国人」に認めている。もちろん、そのためには実際に住みついて仕事をして地域に溶け込まないといけない。何千人も人がそういうことがするわけだ。そんなことができるわけがないだろう。自分ができないことは、当然相手の国の人もできないし、するわけがない。

 その国に定住している人は、国政選挙権と地方選挙権を共に持っている。日本でも、どの国でも同じだ。だけど、さまざまな事情で外国に住んでいる人は、今は国政選挙は投票できるが、その地域の選挙では投票できない国もある。そういう風に考えれば、国家集権を主張する人は別として、地方自治を大事にする人なら、定住期間などの制限を付けて、一定の外国人にも地方選挙権を認めるという方がスッキリする。国によっては、被選挙権も認めている国もあって、ロシアやオランダでは日本人が地方議会の議員になったこともある。それもいいなと思うけど。

*(ところで、今は外国人一般を考えたけれど、日本にとって韓国・朝鮮人、台湾などの旧植民地出身の「特別永住者」は本当はちょっと違う問題である。イギリス等は、旧植民地の独立にあたっては、国籍選択の自由を与えたことが多い。軍人恩給などでももちろん差別などない。そういう「特別な関係にある外国人」には、特別の待遇をするということが、植民地宗主国の責任だということだろう。)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする