尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

夏目雅子没後30年

2015年09月08日 23時47分40秒 |  〃  (旧作日本映画)
 最近は昔の映画を見ていて、それに時間を取られる。本が読めないし、国会前にも行けないので困る。神保町シアターで僕の大好きな「芦川いづみ」の特集をやっているが、そのことは別に書きたい。今、早稲田松竹で、夏目雅子没後30年ということで、絵葉書まで作って4本上映している。そんなにファンだったわけでもないけど、もう30年経ったのかと思い、全部見直してみた。

 一週間のうち、初めの3日は「鬼龍院花子の生涯」(1982)と「時代屋の女房」(1983)、後半の4日(11日まで)「魚影の群れ」(1983)と「瀬戸内少年野球団」(1984)である。このうち「時代屋の女房」だけは公開時に見逃し、10数年前に森崎東監督特集がどこかであった時に見た。他の三本は公開時に見て、「魚影の群れ」はちょっと前に相米監督特集で再見した。でも、やはりどの映画も細部を忘れていたのには自分で驚いた。「鬼龍院」なんか、夏目雅子がタイトルロールだといつの間にか思い込んでいたぐらいである。没後30年なんだから、いずれも30年以上前の映画である。忘れるわけだ。

 夏目雅子(1957~1985)という人は、そのあまりに短い人生が「悲劇の女優」と伝説化したけれど、同時代的には誰もがまずモデルとして知った。カネボウのキャンペーンガールの印象が強く、女優としての演技力は当時はあまり評価されなかった。映画会社に所属して、同じようなプログラムピクチャーに連続的に出演して俳優イメージが作られていく時代はもう終わっていた。70年代はそれでも「日活ロマンポルノ」というプログラムピクチャーがあったけど、80年代になると一本ごとに違う色合いの映画に出る。あるいはテレビに出る。さらに舞台にも出る。夏目雅子は1978年にテレビの「西遊記」の三蔵法師役で人気が出たというけど、僕は見ていない。舞台にもいくつか出ていたようだが、見ていない。

 フィルモグラフィーを見ると、出演映画は13本。ナレーションもあれば、大作の中の脇役もある。(「大日本帝国」や「小説吉田学校」など。ちなみに後者では吉田の娘の麻生和子、つまり麻生太郎元首相の母親役だった。見たけど覚えてない。)主演レベルが案外少ない。そんな中で貴重な4本の映画だが、あまり共通したイメージは感じられなかった。美人は美人なんだけど、60年代までの「誰が見てもうっとりする」「壮絶なまでの美女」ではない。だからと言って、「美人というより隣に住んでるカワイイ子」でもない。ある種、ファニーな感じもさせるけど、基本は美人女優。そういうタイプは扱いが難しい。今回上映の4本は、いずれも原作があり、監督も有名。だから、主演女優のイメージもそれぞれに違う。存在感のようなものが求められる時代に入っていたのだ。

 それぞれの映画に簡単に触れておきたい。「鬼龍院花子の生涯」は実質的なブレイク作品で、決め台詞の「なめたら、いかんぜよ」は大流行した。宮尾登美子原作の初映画化で、そのことの功績も大きい。高知の侠客や娼家の世界を華麗なる映像で描く五社英雄監督作品。五社監督と仲代達矢に圧倒されて、とても面白かった記憶がある。今見ても十分に面白いが、夏目雅子追悼という目で見ると、ものすごい頑張りが素晴らしく、ここに大女優現るという現場を見た感がある。侠客仲代の養女となり、鬼龍院一家の全盛期から没落までを見届ける役である。養父仲代に犯されかかるシーンがあり、ヌードシーンがある。ウィキペディアによれば、事務所は反対したが、本人が押し切ったとのこと。
(「鬼龍院花子の生涯」)
 「時代屋の女房」は、村松友視の直木賞受賞作の映画化。僕はこの映画が今一つ理解できなかったのだが、今回やっと判った。つまり、二役であることが。同時代に見たわけではないので、前はうっかり見過ごしてしまったのである。今見ると、東京の大井町に実在したという「時代屋」という古道具屋をめぐる都市風景が素晴らしい。夏目雅子というより、町を見る映画とも思える。夏目雅子は時代屋にふらっと現れて居ついては、時々消えてしまう謎の美女という役。主人は渡瀬恒彦で、古道具屋をめぐるさまざまな人々の様子を描きながら、人間模様を映し出す。森崎東監督作品としては異色で、僕にはどう評価すべきかよく判らない。(つまり、いま一つ面白くないということだが。)

 「魚影の群れ」は、吉村昭原作相米慎二監督が映画化。でも有名な原作とも言えないし、大間のマグロ漁師をめぐる「作家の映画」になっている。相米映画の特徴が一番はっきりする映画だと思う。だけど、大間の海でマグロを追う緒形拳がすごすぎて、本物の漁師のドキュメントだと思うぐらいすごい。夏目雅子はその娘で、佐藤浩市と結婚して、親と衝突する。重要な役ではあるが、海とマグロに圧倒されて、夏目雅子を見る映画とはとても言えない。今見ると、こんなすごい(危険なと言ってもいい)映画を撮る力量がまだ30年前の日本映画にはあったのだと感慨を覚える。ただ、映画としては漁の場面の迫力に依存し過ぎている感じがする。初めて見た時から「これは何だろ」感を覚える。他の相米映画の方が好きだけど、こんな映画があったことは多くの人に知って欲しいと思う。

 「瀬戸内少年野球団」は作詞家阿久悠の初小説として話題を呼んだ原作を、篠田正浩監督が映画化。映画としても面白いが、夏目雅子映画としても一番いい。敗戦直後の淡路島の小学校先生役。役柄から、清楚できちんとした場面が多く、アップも多い。後半になると、少年野球チームを率いることになり、野球場面も楽しい。「戦争で死んだ夫」の弟が迫ってきて、義父母も家を考えろと言う。この義弟は渡辺謙のデビューで、若々しい。そこに死んだはずの夫が戻ってくる。そこに子どもたちや漁村の人々のドラマが重なるが、「戦後映画」というか「占領期映画」として今も色あせない。
(「瀬戸内少年野球団」)
 英語題名が「マッカーサーズ・チルドレン」で、日本の占領を考えるためにも重要。高校野球(中等学校野球)も重要な意味を持っている。今年もっと再注目されるべき映画だと思う。今はなくなったという徳島県の小学校の建物が懐かしい。島の風景は岡山県笠岡市の眞鍋島で撮影されている。そのような風景も貴重。篠田監督も戦争映画をたくさん作っているのだが、夏目雅子の夫、郷ひろみは八路軍に囚われて救われたという設定。いろんな意味で興味深い。「野球」と占領期というのも、大きなテーマだと思う。ベストテン3位。夏目雅子は、とてもいい。劇映画の遺作。27歳で、美しい盛りの病死だった。
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