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尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

映画「マップ・トゥ・ザ・スターズ」

2015年01月08日 21時52分06秒 |  〃  (新作外国映画)
 デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作「マップ・トゥ・ザ・スターズ」が公開中。変な映画ばかり作ってきたクローネンバーグの中でも、相当怖くて異様な映画。ハリウッドの病んだ人間模様を描く映画はかなりあるが、この映画もその中でも忘れがたい一本だろう。ジュリアン・ムーアが2014年のカンヌ映画祭女優賞を受賞した作品。

 新年は神保町シアターやフィルムセンターで東映時代劇の特集がバッティングして、同じ映画も上映される。シネマヴェーラ渋谷の名作洋画特集と合わせて古い映画で映画初め。新年の新作映画は新宿武蔵野館で「ストックホルムでワルツを」と「マップ・トゥ・ザ・スターズ」を見た。変な映画好きの僕でも、クローネンバーグは評価が難しく、見てない映画も多い。でも、ハリウッドを舞台にした今回の映画は、人間の奥底の闇や悪意を見つめて、非常に怖い。

 フロリダからハリウッドを訪ねた女の子アガサ(ミア・ワシコウスカ)は、リムジンを雇って超売れっ子の子役ベンジーの屋敷跡を訪ねる。一方、女優ハヴァナ(ジュリアン・ムーア)は、死んだ母に憑りつかれていて、昔母親が演じたアート映画のリメイクに出演を熱望している。ハヴァナのセラピーを担当しているのがベンジーの父ワイス(イアン・キューザック)だが、ベンジーは13歳ながら薬物中毒で、ハリウッドのセレブの家の中は問題だらけである。顔のあざがあるアガサは、ツイッターで知り合ったライターを通して、ハヴァナの秘書に雇われることになった。このアガサはどうも数多くの秘密があるようだけど、それは何なのか。アガサを演じるミア・ワシコウスカは印象深い不気味さで、この映画を引っ張る。

 これだけでは全然判らないと思うが、ハヴァナの病的な世界とワイス家の抱える深刻な秘密がアガサという存在を通してリンクし始めると、画面から目が離せなくなる。どちらの家も大邸宅で、ハリウッドのお約束として大プールがある。そして、登場人物がこのプールに亡霊を見て、世界を狂わせて破滅へと向かうのである。ハリウッドに人生をかけて破滅してきた多くの人々の怨念がこもった「ハリウッドの地霊」という感じか。このプールは、例えばワイルダーの「サンセット大通り」でウィリアム・ホールデンが死体で浮いていたプールなのではないだろうか。

 クローネンバーグ(1943~)は、カナダ出身の映画作家で「スキャナーズ」「ヴィデオドローム」などを作り、続いて「デッドゾーン」「ザ・フライ」を作った。このあたりはSF、ホラー系としか思っていなかったのだが、その後バロウズ原作の「裸のランチ」、J・G・バラード原作の「クラッシュ」など作家性の強い映画に乗り出し、21世紀になってからは「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」など、人間の中にある暴力を見つめた。フロイトとユングを描いた「危険なメソッド」は見逃したが、前作「コズモポリス」も不可思議なSF的な映画だった。ヨーロッパの「変態」監督とはまた違い、けっこう芯の太い「異常映画」ばかりを撮ってきた人である。古稀を過ぎて、その怖い映画作りはますます堂に入っている。「偉大」の域に入ってきたのではないか。

 アガサが最初に乗るリムジンを運転しているジェロームは、役者や脚本家を目指してハリウッドに来た若い男がとりあえず働く仕事をしている。この役にはは、脚本を書いたブルース・ワグナーの実体験が反映されているという。この映画の魅力は、そういった細部にもハリウッドの現実が生きていて、カリフォルニアの風土が持つ乾いた感性がうまく映像化されていることではないか。ハリウッドの病んだ姿は実に深い闇に閉ざされ、画面全体を怪しげで不穏なムードが覆っている。そういうのが好きな人にはかなり満足できる映画かと思った。(なお、Maps to the Stars という原題ながら、スターズは複数だけど、マップは邦題では単数なのはなぜか?批判しているのではなく、この邦題の付け方に日本語の特性がうかがえるように思う。)
コメント (3)
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