尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

小杉勇監督の日活アクション

2013年01月31日 00時51分49秒 |  〃  (旧作日本映画)
 「日活100年」特集で日活やフィルムセンターの選定にも入ってない作品が神保町シアターで何本か上映されている。この中に小杉勇監督作品が3本入っている。僕は小杉勇が監督した作品を一本も見たことがない。というか、監督していたことも知らなかった。と言っても、小杉勇と言われても判らない人が多いと思うが、戦前の日活映画で活躍した名優である。
(小杉勇)
 小杉勇(1904~1983)は、戦前の日活で内田吐夢監督などの「傾向映画」に出て認められた。「傾向映画」とは「左翼的傾向のある映画」である。その後30年代後半に「人生劇場」「真実一路」「路傍の石」などの文芸作品で活躍。さらに日中戦争下に戦争映画「五人の斥候兵」「土と兵隊」で有名になった。

 代表作は、内田吐夢監督が長塚節の名作を映画化した「土」(1939)だろう。また内田吐夢監督の「限りなき前進」(1937)はリストラされ狂気におちいる会社員を描いている。この映画は長く見られなかったが、かなりフィルムが欠落しているものの最近フィルムセンターで修復版が作成された。同年の「新しき土」は日独合作で、原節子主演で最近リバイバルされたが、これも小杉主演。こういう風に戦前、戦中の文芸映画、戦争映画で中心的な活躍をしていた俳優が小杉勇だったのである。

 その人が戦後は多くの映画を監督していた。ウィキペディアでは5本程度しか出ていないが、もっと調べるとものすごく数が多い。「名寄岩 涙の敢闘賞」「チャンチキおけさ」「東京五輪音頭」など、見てみたいような、見なくてもいいような題名が並んでいる。「刑事物語」「機動捜査班」というシリーズが多。添え物の刑事映画である。今回見た「狂った脱獄」(1959)も52分の中編で、東映実録映画みたいな題名だが、中身は小杉本人が人情警官を演じる人情刑事ドラマだった。光と影を生かした安定した娯楽作で、古い感じだけど面白い。主演の岡田真澄は後年はスターリンみたいな貫録になったが、この映画では琴欧洲みたいな感じの青年である。

 日活アクションに関しては、渡辺武信「日活アクションの華麗な世界」という名著がある。小杉監督、宍戸錠主演の「抜き射ち風来坊」(1962)、「あばれ騎士道」(1965)の名前は出てくるが、ほとんど記述がない。その扱いは不当とは言えないだろう。日活は石原裕次郎に加え、小林旭がスターとなり、そこに「第三の男」赤木圭一郎が登場した。しかし裕次郎が1961年にスキー事故で長期離脱を余儀なくされ、61年2月21日に赤木圭一郎が事故死した。

 そのためスターがいなくなり、苦肉の策で宍戸錠、二谷英明を主演スターに格上げした。裕次郎復帰後、二谷はアクション映画の助演に戻るが、錠は独自のハードボイルド系の主演作が時々つくられた。今回見た小杉監督作品は、いずれも日活のスターシステム上はB面の企画にあたる宍戸錠主演映画である。「抜き射ち風来坊」は、この頃かなり作られている韓国の李承晩ラインによる「日本漁民の不法抑留問題」が背景にある。鈴木清順の「密航0(ゼロ)ライン」は対馬の海上保安官を描き、今井正の「あれが港の灯だ」は社会派映画で描いた。きっとまだあるに違いない。

 いくら何でも抑留日本人が脱走するとバンバン銃撃してくるのはおかしいが、錠は金子信雄に裏切られて、韓国に置き去りにされる。そこで日本人の母親を持つ梨花(松原智恵子)に助けられる。3年たって、復讐を誓う錠と母を探す松原は日本に密航してくる。そして東京の海運会社で社長に成りあがった金子と、麻薬を扱う組織が仕切るクラブでドラマが繰り広げられる。このクラブは例によって日活風の無国籍空間である。日活アクション恒例の手順で話が進み、破たんがなくスラスラ見られる。小杉監督は安定した娯楽作品を作ることにおいては、なかなかの手腕である。韓服姿の松原智恵子がクラブでトラジを歌う忘れがたき名場面もある。

 「あばれ騎士道」も錠と智恵子の競演。錠の弟、郷瑛治も出ている。そして何より、渡哲也の初出演映画で、クレジットに「新人」と出るのも初々しい。この映画では多くの映画でガンマンを演じてきた錠が国際的オートレーサーである。今帰国するところだが、弟の渡哲也もレーサー。父の警官が殺された事件の解決をめぐって、あれこれするが、レーサーという設定がほとんど生きていない。
(「あばれ騎士道」)
 香港から来た踊り子ナンシーを水谷良重を演じている。今は「二代目水谷八重子」となって新派の女優というイメージしかないが、若い時は歌手、ミュージカルなどでも活躍。映画にもずいぶんたくさん出ている。この映画では、ダンスと歌を披露し、いつもは藤村有宏や小沢昭一がしゃべっている怪しげな中国人風日本語をしゃべりまくっている。そういうシーンもある変な映画だ。鈴木清順のように自分の美学にこだわらない。戦前の名優が単なる娯楽作品をそつなく作っていた。
コメント
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