実戦教師塾・琴寄政人の〈場所〉

震災と原発で大揺れの日本、私たちにとって不動の場所とは何か

実戦教師塾通信百六十一号

2012-04-30 11:19:51 | 福島からの報告
 帰還への路



 柳…アカシヤもだな


 私のもう一つの仮設訪問先は、楢葉の集会所である。そこで呼吸のレッスンをやっていることも、もと牧場主の方がそこでのいつもの話相手であることも言ったと思う。色々教えてくれる。とりあえずは、
「(牛の)賠償金はもらっても使えないんだ」
という主さんの言葉の意味をお分かりだろうか。住まいに戻れるようになって生活ができるようになったその時、それは牛を買うためのお金になるからだ。また、外で家畜を飼っていた経営者は大変だという。屋内で家畜を飼っていた業者はそれまでのように外部から飼料を購入すればいいが、牧場という屋外の場所を持っていたものは、それまで自然のものを食べさせていた。それがそうは行かなくなった。今、飼料の購入は逼迫している。
 いちいちもっともな話に私はうなづくばかりだ。
「田んぼや畑は、一年間放置すれば元に戻すのも一年、というわけにはいかないんですよね」私はそう尋ねる。雑草が土地を荒らすから、と。
「そうだね。雑草もだけどね、柳、あとアカシヤも生えて農地を荒らすんだ」
驚きつつ私は、涼しげに田んぼの傍らを飾る柳を思い起こす。芭蕉の句

田一枚 植えて立ち去る 柳かな

も浮かんで来る。なんと柳は「雑草(木)」だった。驚いた。
 さらになるほどと思ったこと。
 先月(3月)16日に、政府の原子力損害賠償紛争審査会は、避難区域見直しに合わせた新指針を決めた。それによると賠償額は、

○帰還困難区域(年間50ミリシーベルト超で5年以上住めない) 5年分一括600万円
○居住制限区域(年間20ミリシーベルト~50ミリシーベルト) 240万円(2年分)
○避難指示解除準備区域(年間20ミリシーベルト以下)  月10万円

となっている。私もニュースで知っていた。そうなのか、程度にしか受け取らなかったニュースである。しかし、これは改めて見てみると、それぞれ月割りですべて「10万円」だ。みんな共通の額である。
「つまり、避難指示解除準備の区域にいるものは、避難指示が解除されたら、即刻賠償が打ち切りになるんじゃないかと、我々としてはかんぐるわけよ」
私は、アッと小さく叫んだ。新聞記事の小さなカッコ書きの部分「賠償打ち切りの時期は示さず」とはそういう意味だったのかと思い、牧場主さんの顔を見るしかない。
 今月(4月)15日に楢葉町の新しい町長が選ばれた。その選挙期間中にこの新指針について説明があったという。楢葉の町民はいわき市の文化センターで行われた国の説明会に集まったが、みんな不満が一杯だったという。
「なんでこんな大切な説明を、日曜でもない普段の昼間にやるんだ」
ということだったらしい。
 今年の会津には観光客が戻っているらしいね、そう牧場主さんがホッとしたようにつぶやいた。主さんは去年、初めは会津に避難した。あの頃会津の観光地の駐車場はガラガラだったんだ、そう言った。


小さな瑕疵?

 さて、少しニュースの話題を続けよう。
 27日のニュース・報道は小沢裁判判決がダントツであった。読売での大飯原発の扱いは三番目で、前日行われた住民説明会の記事は「大飯稼働巡り要望相次ぐ」という見出しだった。反対意見が見られなかったというか、そこでは取り上げられていなかった。NHKの報道と驚くくらい異なっていたことが印象的だった。
 「国民のみなさん、だまされちゃいけません。一体国が何を根拠に『安全』だと言えるのか、ちっとも明らかにしていないんですから」という、至極まっとうな意見を流している大阪橋下市長は、これからトーンダウンする、と同じく読売は予想していた。私にもそう思えるが、読売の一貫した基調は「原発がないと日本経済は停滞・破綻する」である。
 27日夜7時のニュースのトップは大飯原発説明会だった。そのトップの場面はお坊さんの「福島の人たちが今でもあんなに苦労をされている」と意見を言う場面だった。それはNHKが流したのである。昨年3、4月の「大本営発表」(NHKに限らないとは思うが)のようなトーンとは若干違っているようにも思える。私はまたしてもあの文藝春秋『3,11から一年』特集の中の一節を思い出す。

「心にじつはちいさな変容があり、それが、この先何年もかけて、日本社会全体の動向をもじわじわと変えていくことになるのか?」(桜庭一樹『わたしたちの小さな瑕疵』より)

 先日の『福島民報』の調査報告によれば(4月24日)、原発最稼働に反対する福島県民は72%だった(全国の世論調査では60%台の前半だ)。私の仲間はそれに対して「そんなに少ないの?」と言っていた。「発電銀座」と言われた福島沿岸は、今も多くの火力発電所が全開で動いている。第二原発のお膝元では、ラーメン屋やクリーニング屋が、タクシーが、まだ戻れない地元の最稼働を待っている。72%は多いのだろうか少ないのだろうか。


 ☆☆
前回でも触れた「滝桜」、やはりよくあちこちで話題になってますね。先週の『いい旅夢気分』でもやってましたね。レポーターの中田喜子が、小学生のグループに「みんな、毎年来てるの?」と聞いてました。応えた子が良かった。
「ここだから! ここに(住んで)いるから。だからいつも見てる!」
いやあ、なんて素敵な! 周囲にはうざったいカメラやマイクがひしめき合っていたはずなのに、いい所に自分たちはいるんだよ、というかのような響き、さわやかでした。

 ☆☆
先日いわきから帰ってくる時、信号が青でもちっとも動こうとしないマスタードカラーの軽、見ると電話(携帯)してるんですよ。それで私が追い越したら(バイクで)、運転手が窓の中からスンゲエ顔するんですね。若っかいオバサンでした。その数分後です。私の後に白バイさんがいきなりついたんですね。ちょうど信号が変わる所で、あとちょっとで信号無視のタイミングでした。あわててスピードメーターを見たらメーター読みで60キロ(制限50キロの国道でした)。白バイさん、数分間私のあとをついたのですが、あきらめたように路地に消えました。
 世間ではやっているという「ツィッターでのタレ込み」ってホントなのかな、と思ったものでした。

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1 コメント

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忘れてはならないもの (リーガルハイ)
2013-07-19 11:17:06
犬は師子を吠えれば腸がくさる。阿修羅は日輪を
箭で射れば頭が七分に破れるという。
一切の真言師は犬と修羅とのようであり、法華経の
行者は日輪と師子とのようなものである。

繰り返す

犬は師子をほうれば腸くさる・修羅は日輪を射奉れば頭 七分に破る・一切の真言師は犬と修羅との如く
・法華経の行者は日輪と師子との如し
(乙御前後消息

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