千の天使がバスケットボールする

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ヒラリー・ハーン ヴァイオリン・リサイタル

2013-05-14 22:00:36 | Classic
ヒラリー・ハーンはどこへ向かおうとしているのだろうか。
1979年11月生まれの彼女は、現在、33歳。まだ33歳なのか、もう33歳なのか。
少女の頃から一流のヴァイオリニストととして世界中で活躍している彼女は、気さくなアメリカの少女という素顔の雰囲気から演奏している姿には、もはや巨匠候補の風格すらただよっている。ヴァイオリンを弾いている時の堂々たる雰囲気は、よく見るとそれほど整った容姿でもないにも関わらず、男女を問わず、彼女の演奏を聴く者に美しいと感じさせる”力”がある。今夜の演奏会終了後のサイン会は、またもや長蛇の列で、早々にあきらめて帰宅せざるをえなかった。人気、実力ともにトップを走る若手ヴァイオリニスト。それが、ヒラリー・ハーンだ。

そんな彼女だから、インターネットで委嘱作品を公募すると世界中から400もの候補作品が集まったそうだ。今回は、その作品も含めてヒラリー・ハーンのための委嘱作品、つまり現代曲が並ぶ。作品自体は、ソナタ形式ではなく、近年彼女がとりくんでいるというアンコール・ピースを集めた「In 27 Pieces : The Hilary Hahn Encores」から抜粋している。率直に言って、聞いた事のない作曲家、作品。もともとがアンコールのために作曲されていることもあり、標題があることからもどの曲も比較的親しみやすく入りやすい。抜群のテクニックを誇る彼女ではあるが、一瞬一瞬、集中力高く真摯にとりくんでいるのが感じられる。世界的にクラシック音楽のマーケットが縮小しているなか、こうしたプロジェクトで、双方向に音楽の可能性を広げようと音楽界に貢献している姿には好感がもてる。やはり、ヒラリー・ハーンらしい。そして、今夜も彼女には私たちに美しいと感じさせる品格がそなわっていた。

しかし、しかし、である。。。
演奏会のチラシには、音楽ライターなる方による「有名な作曲家の作品を並べて演奏するだけで終わらないのが、ヒラリー・ハーンのクリエイティビティ」と書いてある。バッハ、モーツァルト、フォーレ、有名な作曲家である。ベートーベンの「運命」なんぞ、こどもですら名前だけは知っている。けれども、私は有名な作曲家の作品が並んでいるからといって、わざわざ演奏会に来ているわけではない。時代をこえて長く聴かれる名曲には、そして現代も残る作曲家には、人の心をとらえる高い音楽性と深遠さがある。何度同じを聴いても、別の演奏家、違う指揮者、他のオーケストラでの演奏を貪欲に聴いてみたくなる。音楽を生業とする仕事の中で、このような現代曲を演奏することはとても重要で尚且つ大切な機会だと考える。評価の定まった名曲ばかりの演奏では、クラシック音楽そのものが衰退していく。今回、生まれたばかりの曲の演奏にたちあえたことは光栄でもあり、しかも大好きなヒラリー・ハーンの名演奏である。けれども、演奏会全体を通して、私はどこか充実感がたりないものを感じた。新作の中に演奏されたバッハ、モーツァルトで、心がようやく満たされていくのがわかる。ピアニストの華やかな演奏を楽しみこそすれ、現代音楽のどの曲もなんだかイージーリスニングのようで、アンコール・ピースは、やはりアンコールで演奏されるものである。

最後に、フォーレの演奏はあまりにも独創的で、少々なじめなかったと白状しておこう。決して、保守的な私ではないのだが、なんだかあわただしく落ち着かない雰囲気で終わったしまった感がある。ところで、彼女は人気あるヴァイオリストとは言え、マスコミで大きくとりあげられた某ピアニストやヴァイオリニストとは違うので、演奏を聴きにきた会場の観客はそれなりに音楽を知っている方たちであろうに、第一楽章で拍手があったのは不思議な感じだった。ずっとソナタ形式ではなく、短く終わる曲が続いたためだろうか。

---------------- 2013年5月14日 オペラシティ --------------------

[出演]
ヒラリー・ハーン(Vn)、コリー・スマイス(Pf)
[曲目]
・アントン・ガルシア・アブリル:"First Sigh" Three Sighs より *
・デイヴィッド・ラング:"Light Moving" *
・モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ホ長調 K.302
・大島ミチル:"Memories" *
・J.S.バッハ:《無伴奏ヴァイオリン・パルティータ》第2番ニ短調 BWV1004から「シャコンヌ」
・リチャード・バレット:"Shade" *
・エリオット・シャープ:"Storm of the Eye" *
・フォーレ:ヴァイオリンソナタ 第1番 イ長調 op.13
・ヴァレンティン・シルヴェストロフ:"Two Pieces" *
(*=ヒラリー・ハーンのための委嘱作品)

《アンコール》
・ジェームズ・ニュートン・ハワード:133...at least
・デヴィッド・デル・トレディッチ:Farewell

■アンコール!
2006年6月8日オペラシティ
2010年6月2日チャイコフスキーVn協奏曲


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