千の天使がバスケットボールする

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レイ・チェン ヴァイオリン リサイタル

2013-11-05 22:08:15 | Classic
11月3日、日本中が注目する中「東北楽天ゴールデンイーグルス」が優勝した。もうまー君というのは失礼かもしれないが、大活躍をした田中将大選手は実に男前だった。来年は、国内であの勇姿が見られないかと思うと残念だが、そういえば、かってのライバルだった”何かをもってらっしゃる”ハンカチ王子さまの勇姿を近頃は見かけない。彼はどこへ行ったのだろうか。

閑話休題。
何かをもっている人、私的にはそれはハンカチ王子ではなくヴァイオリニストのレイ・チェンその人である。
ほぼ一年ぶりに来日してきたその人は、リサイタルを開いただけではなく、サントリーホールではシベリウス協奏曲も演奏したそうだ。昨年は、ノーベル賞受賞式でブルッフのヴァイオリン協奏曲を弾いた時の山中さんとのツーショット写真が新聞などにも掲載され、今年はアルマーニのモデルも務めたりと、いろいろな意味で彼が若者らしく演奏だけでなく人としてのハバを広げていることが感じられる。しかし、今回のプログラムの内容から、レイ・チェンの演奏活動は意外と堅実で慎重であることも感じられた。

今年の演奏もモーツァルトのソナタからはじまる。伴奏は昨年同様、もはやベテランの風格の漂うジュリアン・カンタン。(これまでクエンティンという呼び方で日本語記載されていたが、正しい発音はカンタンだそうだ。)モーツァルトのソナタは、演奏するのは技術的には易しいが、音楽として演奏するのはとても難しい曲だと常々思う。しかし、ヴァイオリン・ソナタ イ長調 K.305は、レイ・チェンの音楽性と個性との相性がよいはずだと私は確信している。しかし、昨年の記憶がよみがえってきたのだが、真摯にこの曲に取組むあまり、本来の伸びやかさとエレガンスさが少しものたりない。贅沢でわがままな注文かもしれないが、プロとしての経験を積んで純粋に演奏することを楽しんでいる彼らしい音を待ちたい。

さて、次のプロコフィエフのソナタは、息をつくまもない技巧的な熱演を要する難曲である。民族風でありながら、機械的なリズムが重奏となって続く。鉄のようなリリシズムの中に、美しさも求められる。この曲は、彼にとって今度の勝負パンツ(失礼!)ならぬ勝負曲ではないだろうか。卓抜したテクニックと渾身の演奏に会場もおおいにわいた。

後半のバッハになると、レイ・チェンの魅力がさらに輝きはじめた。バッハの精神性の高さを追求しつつ、エンターティメントらしさも盛りこんだ音楽にあかるくなり心から楽しめる。そして、色気とチャーミングがまぶされたお得意のサラ・サーテのハバネラ。更に、情緒たっぷりに弾いたかと思うと、後半はとんでもないハイテンポにも関わらず、破綻なく躍動感に満ちた疾走するツィゴイネルワイゼン。ピアニストのジュリアン・カンタンの演奏もさえまくっていた。

毎年毎年、鮮度のよいヴァイオリストが誕生して泡のごとくいつのまにか消えていく。音楽の世界でソリストとして第一線で活躍するのはあまりにも厳しい。1989年生まれのレイ・チェンは8歳の時すでにクイーンズランド・フィルハーモニー管弦楽団と共演、翌年長野オリンピックの開幕祝賀コンサートにも参加している。2008年メニューイン・ヴァイオリン・コンクールで優勝し、翌年はエリザベート王妃国際コンクールにて、最年少出場者で優勝した。こんな薔薇色の素晴らしい音楽暦も、彼の将来を約束しているとまではいえないのがこの業界だ。しかし、彼は何かをもっているヴァイオリニストだ。その何かが、いつしか熟して比類のない音楽に育つことを私は楽しみに待ちたい。だから、浮気はしてもずっと見守って演奏会に足を運んでくれる息の長いファンをつかむためには、アルマーニで武装した鍛えられた精悍な肉体と甘いマクスを売りにしないで欲しいとちょっと願っている。アーモンド形のきりっとしたきれいな目をしているけれど、何よりも”素敵な音楽”をもって生まれたからにはね。

余談だが、最初のモーツァルトの第一楽章が終わった時に、拍手がわいたのはちょっと気の毒だった。( 私がよく聴く往年のオイストラフのチャイコフスキー協奏曲のCDで、感動のあまりやはり第一楽章で待ちきれなかった観客の拍手の録音が入っているのとは事情が違うであろうから。)それから、舞台を去る時に、通常新人でも主役が先に歩くところを、カンタンに道を譲っていたのは、演奏とは全く関係ないが感じのよい印象が残った。

--------------------------  2013年11月5日 浜離宮ホール --------------------------------
[出演]
レイ・チェン(Vn)、ジュリアン・カンタン(Pf)
・モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 K.305
・プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 作品94bis
・J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ 第3番ホ長調 BWV1006
・サラサーテ:ハバネラ 作品21-2、プレイラ 作品23-5、ツィゴイネルワイゼン 作品20

■アンコール
・グルック:メロディ(クライスラー編)
・ジョン・ウィリアムス:シンドラーのリスト

アンコールを弾く時に、「私の演奏は、私のお・も・て・な・し」と日本語で話して会場に笑いが広がった。彼の声はよくとおる。

■昨年の演奏会もアンコール!
・レイ・チェン 未来のマエストロシリーズ


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