千の天使がバスケットボールする

クラシック音楽、映画、本、たわいないこと、そしてGackt・・・日々感じることの事件?と記録  TB&コメントにも☆

「やわらかな生命」福岡伸一著

2014-05-01 18:04:43 | Science
野球に例えたら、打率は何割になるのであろうか。私にとっては、5割を超える打率で快調にヒットを飛ばしている、いやルーキーの時から飛ばし続けているのが福岡ハカセのエッセイである。本1冊単位ではなく短いエッセイものの1本1本を、その内容の充実度とレベルの高さで測ると、ページをめくる度に、心が躍り、清冽に目を開かれる。某ノーベル賞候補作家の新作が出版される度に、特別に駅の構内で店員さんが声をはりあげて宣伝して売っているイベントを横目に、新作を切望して待っている作家のひとりが福岡ハカセである。

「やわらかな生命」。
つよく、しなやかで、やわらかい生命のありようを語ろうとするいかにもハカセらしいタイトルの本書は、「週刊文春」の2011年9月15日号~13年4月18日号掲載されたエッセイを6つ章に集約したものである。いい感じの仕上がりのよいものだけを集めた抜粋ではないのに、どのページも興味深く、じっくりと読まされる。現代人の日常生活の風景になりつつある携帯電話や端末機の充電の儀式から、教科書でおなじみのルイジ・ガルバーニのカエルの実験による電気生理学の発見、リチウムイオン電池の日本人技術者の貢献に至るまでの最初のお話。日常から科学まで、取り扱う分野が広く、その活字は、意外性に富んだ知の発見の旅でもあった。

それから、すっかり忘却の彼方にあった「アルミや亜鉛のように水の溶けやすい金属は電子を放出してイオン化する」現象、、、個人的に、これはちょっと使える話だ。もうひとつ、ハカセのおなじみの友人、顕微鏡を製作したレーウェンフックを、知識階級の象徴であるラテン語の読み書きができないオタクと言い切っていることも使えそうなネタだ。そんな彼の心を解きほぐし、翻訳して出版までプロデュースしたのがロンドンのヘンリー・オルデンバーグだったそうだ。その後、レーウェンフックがスケッチを専門家に依頼して(ハカセ説によると専門家はフェルメール)、次々の投稿し続けた。なんと、その精密な手記は亡くなる90歳まで続いたそうだ。同じ素材で、ここまでリサイクルして使いまわして、尚且つその都度鮮度が落ちずに鮮明。ハカセの変幻自在な手法も、私には謎でもある。

科学者として研究の最先端で走る池谷裕二さんが、研究者のメディア活動についてご自身のサイトでコーナーを設置していて、アウトリーチ活動の是非を公開している。そこには、研究とアウトリーチ活動の両立の厳しさと悩みが伺えるのだが、私は科学者のアウトリーチ活動推進派である。コトが単純ではないのはわかるのだけれど。

さて、最近、ハカセは有名人となり、その活動範囲も広がりつつあるようだ。「生物と無生物のあいだ」出版当時の、白衣を着た素朴で繊細な詩人から、スタイリッシュな都会人にすっかり変貌しつつある。失礼ながら、その見事な変身ぶりにある種の生き物の変態を観察している気すらしてくるのだが、増えたその人脈を生かし、研究者時代とは異なる場所もフィールドワークに加え、益々観察力と考察力に深みを増している。次回作も乞うご期待だ。

尚、表紙の写真は、細胞性粘菌の子実体。

■アーカイヴ
「動的平衡」福岡伸一
「ノーベル賞よりも億万長者」
「ヒューマン ボディ ショップ」A・キンブレル著
「ルリボシカミキリの青」福岡伸一著
「ダークレディとよばれて」ブレンダ・マックス著
「フェルメール 光の王国」
「遺伝子はダメなあなたを愛している」
「生命の逆襲」「生命と記憶のパラドクス」
ミッシングリンクのわな


最新の画像もっと見る

コメントを投稿