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「リアル・クローン」若山三千彦著

2014-05-14 22:33:50 | Science
4月16日、 理研の笹井芳樹副センター長によるstap細胞の論文問題に関する会見を見た小保方さんは、尊敬する笹井さんにご迷惑をかけたと泣いたそうだ。男だったら泣くか、それをご丁寧に発信する有能な弁護集団の世間の同情を誘うかのような意図もしらじらしいのだが、なんだかお2人が水面下で結託して、山梨大学の若山照彦教授に微妙に罪をなすりつけようとしているのを感じたのは、私だけではなかったのではないだろうか。

さて、ブラック笹井氏が、「世界的な若山」ともちあげつつ、彼の所属大学を”山形大学”などとうっかり間違えて言ってしまった若山照彦さんだが、最終学歴は東京大学大学院で博士課程を修了。30歳前のポスドク時代に、ハワイ大学で世界初の体細胞クローンマウスを誕生させて、研究者として一躍脚光を浴びた。そんな若山さんだが、幼い頃は山から山へ駆け巡り、小学生時代の成績は1と2ばかりの問題児だったそうだ。本書は、若山さんの元高校の理科の教師だったお兄様が執筆したクローンマウス誕生と「ネイチャー」に論文が掲載されるまでの若き研究者のドキュメンタリーである。

1997年2月、英国のロスリン研究所でクローン羊ドリーが誕生した時は、全世界に衝撃が走った。しかし、その後、わずか半年後に同じ哺乳類のマウスで体細胞クローンを誕生させた成果については、国内ではそれほど大きく報道されていなかったような記憶がある。しかし、ドリーよりも画期的だったのが、若山さんが様々な革新的な核移植方法の工夫で誕生させたマウスのクローンであり、そのためにリアル・クローン(学会では、通称ホノルルテクニック)と呼んでいる。しかも、ロスリン研究所ではドリーの後に次ぐ二番目の誕生は成功していないが、若山さんのクローン・マウスは次々と成功し、2年ほどでクローン・マウスが200匹を超え、第6世代のマウスも誕生し、当初の雌のみという定説をひるがえし、雄でもクローン・マウスの作成に成功、尻尾の細胞からもクローンを作っている。やはり、”世界の若山”という言葉は決して皮肉ではなかった。

クローンそのものは、農学部出身の若山さんが興味をもったように、発生工学の分野の研究になるが、細胞分化や初期化に関わる化学物質の解明にも期待された。その後、山中さんがiPS細胞を作成してノーベル賞を受賞したのは周知のとおりだが、クローン作成も何らかの貢献をしているであろう。

ところで、研究者でありながら名人芸の職人さんのような若山さんにとっては、クローン・マウスの成功よりも難しかったのが、あの「Nature」への論文掲載だった。有力な論文掲載紙に投稿した論文が掲載されることは、非常に重要だ。慎重に、細心に、執拗に、何度も追加資料、新しい研究結果を要求してくる「Nature」サイド。その一方で、突き放すことなく、論文掲載に期待をもたせてくる。そんなさなか、お調子のよい同僚との指導権争い、論文審査のさなかに先を越されるのではないかという不安、掲載されていないのに論文の内容も知られるようになり、ポスドクという身分も様々な不安に拍車をかける。

とうとうクローン・マウスが「Nature」の表紙を飾る日がやってきたのだが、その後に、ハワイ大学が契約していたベンチャー企業との裁判というおまけまでついてきた。若き研究者の奮闘する日々、それはまさしく”リアル・ポスドク”の世界だった。

本書は大変読みやすく、誤解を招きやすいクローンの解説もついている。多少、研究者を真理の探究者と理想化している感はするのだが、写真から誰もが感じる若山さんの朴訥で誠実な風貌に、本書からは粘り強さという芯の強さもかいまみられる。

今月8日、理化学研究所は、調査委員会により、慎重に検討を重ねた結果、stap細胞論文問題で再調査を行わないことを決定した。記者会見は3時間にも及び、きっちりと科学者らしく理論的に説明と報告があったそうだ。その決めてのひとつとして、以前に「サイエンス」の査読者から「切り貼りをする場合は、(それとわかるように)間に白いレーンを入れるように」などの指摘をすでに受けていたことが、共著者である若山照彦教授によってもたらされたからだ。

■いろいろありますリアル・科学者の世界
「二重らせん」ジェームズ・D・ワトソン著
・昨年は、ロザリンド・フランクリン生誕93周年だった


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