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観劇記録+日記@不定期更新。俳優・内野聖陽さんを勝手に応援中!時々サカナクション。

今後の観劇予定

直近はナシです… コロナめ!

No.309 「コクーン歌舞伎『佐倉義民傳』」

2010年06月19日 23時42分18秒 | 過去の観劇記録
2010年6月19日(土) マチネ シアターコクーン 1階 BL列 13番

木内宗吾=中村勘三郎、駿河弥五衛門=中村橋之助、甚兵衛の姪おぶん/徳川家綱=中村七之助、渡し守甚兵衛/座長=笹野高史、幻の長吉=片岡亀蔵、家老池浦主計=坂東彌十郎、堀田上野介正信/宗吾女房おさん=中村扇雀、他。
演出=串田和美、脚本=鈴木哲也、音楽=伊藤ヨタロウ、ラップ歌詞=いとうせいこう、他。

下総(しもうさ)(千葉県)佐倉の名主木内宗吾は、領主堀田上野介(こうずけのすけ)の暴政に苦しむ農民を救うため、江戸屋敷に門訴したが、不成功に終わったので、いったん国へ帰り、監視厳しい印旛(いんば)沼を渡し守甚兵衛の義侠(ぎきょう)で渡って、妻子に別れを告げ、ふたたび江戸へ上り、上野・寛永(かんえい)寺で将軍に直訴する。願いはかなえられるが、上野介は宗吾を妻子もろとも磔刑(はりつけ)に処したあと、宗吾一家の亡霊に悩まされ、ついに堀田家は滅びる。歌舞伎に珍しい農民劇。
(あらすじはYahoo辞書より)

早いもので、コクーン歌舞伎を観出してから4年目になる。
今年は「佐倉義民傳」という演目。

セットは本物の土が入った、6畳程の平たいのが2つと、板の間のが1つ。どちらも人力で動かす。
背景はずっとグレーっぽい柄なのだが、最後にはパッと変わり、印象を残すものになる。

この宗吾という人、本当にピュアというか、まっすぐで、人の鑑のような人物である。
自分の命を賭けて農民達の一揆を抑え、領主に直訴し、あげくは“天下の大罪”である将軍への上意である。
もう少し上手く立ち回った方が良いのでは無いか…と多少イライラしそうな人物であるが、今の時代にこのような人はいるのだろうか?
演目が投げかける問題は、今も昔も何も変わっていないという事を考えさせられる。
そんな問いかけは、コクーン歌舞伎オリジナルキャラクターの駿河弥五衛門が代弁してくれる。宗吾のやり方に疑問を抱きつつ、状況を見守り時には発破をかけたり、気になって仕方がない様子。
笹野さんの甚兵衛。渡し場のシーンが良かった。追われる宗吾を家族の元へ送り届けようと、宗吾が命賭けているのを知り、自分が何を惜しむことがあろうと、鎖を断ち切り渡してやる。雪が降りしきる中、静かに進む舟のシーンは、ことのほか美しかった。
七之助くんは、その甚兵衛の姪・おぶん。彼女は重圧に苦しみ、何も無い佐倉の地に嫌気がさして離れたくて仕方がない。駿河と一緒に江戸に出るが、そこにも明るい未来は無かった。
亀蔵さんの長吉は、借金取りのヤクザ者だったけど、ひょんなことから宗吾に助けられた後、十手持ちになっていたが、「天下の大罪人」を追って、そうとは知らず宗吾の家に。だが罪人が宗吾と知り、役人には嘘をついて江戸へ行かせてやる。そこのシーンも良かった。
彌十郎さん演じる池浦だって、決して悪人ではない。主君の余りの世間知らずさに、お家の為を思いやっていること。
で、その世間知らずのおぼっちゃま領主と、宗吾の妻の2役を演じた扇雀さん、ブラボー!である。この領主、表向きは領民思いの名君のようだが、その実ナカミを伴わない、まるで昨今の日本のリーダーを見ているようだった。領主の息子が言うセリフ「お米が無ければ饅頭を食べれば良いのに」。うーん、どこかで聴いたような(笑)。幕開きの半狂乱の所も凄かった。
おさんは本当に良い女房で、苦しい家計を支え、子ども3人の面倒を見て、夫である宗吾と共に死罪になる覚悟もあり。
またこの子役が上手でねぇ… 泣かせる泣かせる(T_T)。
その名場面でもある「子別れ」のシーン。やっと帰ってきた“ととさま”に甘えたい次男と、しっかりものの長男と。父と一緒に花見をした夢を見た長男。「来年一緒に行きたい」と言う。でも来年は無い。だが父は約束する。つかの間の家族の団らんは短く、泣いてすがる2人の子と妻。妻の胸には生まれたばかりの長女。
将軍への上意シーンは息をするのもはばかられるような、緊迫した空気が劇場内に満ちて、無音&スローモーションで展開する一部始終を固唾を呑んで見守る。
やがて磔にされた宗吾の所へ、家族も皆縄付きで連れてこられる。長男は、「殺される所を見ると弟が怖がるから、弟から先に処刑してください」と訴える。もーここいら辺で涙腺崩壊しまくりです。
次々と処刑される宗吾一家。と場面一転して芝居小屋へ。実はいままでのは劇中劇だったらしい。この劇で宗吾を演じていたのは、あの男だった。

歌舞伎とラップって、一見相反するような感じになるかと思いきや、違和感無かった。歌詞は聴き取りづらかったけど、和の鳴り物とも相性が良かった。
客席も多用。今回はバルコニー席や2階席にも出没していた。

昔は今と繋がっている、何をすべきか…を問いかけて終演となった。