欧州危機(ユーロ危機)の行方 緊縮財政は国民生活を苦難に 危機の再生産の危険
欧州危機(ユーロ危機)が叫ばれて、EUが各国に緊縮財政を主導しています。でも、果たして緊縮財政をして国家予算の赤字を減らしたところで欧州危機、いわゆる通貨危機は収まるのでしょうか疑問です。
国債残高が増えて返せる見込みがなくなっていくことで、国債の買い手がつかなくなる。国債の金利が高騰してますます国家財政を圧迫する。
だから国債発行額を減らす緊縮財政に・・・。
でも緊縮財政にして真っ先に削減されるのは福祉や教育予算ってことは日本でもヨーロッパでも同じ事。一番とばっちりを受けるのは、労働者や中小業者や農漁民、子どもたちや高齢者です。
国民の購買力が減って、産業全体のお金の周りが悪くなる。それが税収減に結びついて、さらに国債発行を強いられる。
財政危機のもともとの根源は、取れるところから税金を取ってこなかった事にあるのではないでしょうか。
欧米では富裕層から、「私たちに税金を課してくれ」と声が上がっているといいます。
欧州諸国はもちろん日本でも、国家として大企業や資産家への税金の応能負担をするべきではないでしょうか。
それがユーロ危機やGDPの2倍までにも膨れ上がった日本の国債残高を解決していく道ではないでしょうか。
マルクスも『資本論』で述べているように、強制によらないとその解決の道はないことです。
以下、「しんぶん赤旗」日曜版の記事です。
欧州を中心に資本主義諸国の債務・金融危機が深まっています。その中で昨年11月23日、衝撃的な出来事が生じました。
ドイツ政府が新しく発行した「10年物国債」が市場で4割も売れ残り、「札割れ」となったのです。これまでも「札割れ」はありましたが、このように大量に売れ残ったのは異常です。残りはドイツ連邦銀行が引き受けました。主要国の国債に対する不信が、とうとう欧州最大の経済大国ドイツにまで広がりました。これは債務危機の深刻さを反映したものです。
そのため各国の国債が価格暴落しました。国債を売る時の利回りが上昇し、イタリア国債は再び危険水準である7%台となりました。同時にロンドン市場のドル建て銀行間取引金利(LIBOR)もリーマン・ショック以来最高の0・5%台となり、銀行の資金コストが上がり経営基盤の弱体化がさらに進んでいます。
その結果、格付け会社による国債や金融機関への格下げが行われたりしています。昨年11月と12月にアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどの大手銀行の格下げが発表されました。今後さらなる格下げの検討もされます。またユーロ圏15力国の国債が格下げの方向にあるとスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は12月5日に明らかにしました。
このような危機的状況に対して、欧州連合(EU)は12月8、9日首脳会議(サミット)を開き、危機対策の「最終回答」を出しました。その主な内容は次の3点です。
第一に財政赤字対策として、赤字ゼロの達成義務を原則とする新条約の今年3月の成立をめざす点です。この新条約はEU26力国の参加となります。ここで最大の問題は、イギリスが反対し不参加となったことです。
第二は金融危機対策として国際通貨基金(IMF)を活用し、総額2000億距-(約20兆円)の支援制度をつくることです。このIMF強化と既存の欧州金融安定化基金(EFSF)により金融「安全網」の強化をはかろうというのです。
第三は欧州安定化メカニズム(ESM)を2013年設立予定から、今年7月に早める点です。
欧州共通通貨ユーロの彫刻の前に設けられた「占拠」運動のテント=2011年12月8日、ドイツ・フランクフルト(ロイター)
このサミット合意を、どのように評価すべきでしょうか。
第一に、これまで各国バラバラであった財政規律を統合化する方向では、大きく前進したと評価できる面があります。しかし現実に実施できるかは、まったく不透明で、その見通しはありません。イギリスが反対したのと同時に、各国間の経済格差をそのままにして、財政の統一化は不可能との考えが強くあるからです。
実際、緊縮財政は国民の犠牲のもとで行われており、各国国民は生活を守るために反対運動を繰り広げています。
第二に金融対策も金融機関を救うのみで、国民生活や景気回復には役に立っていません。
欧州危機克服の根本的対策は、金融取引税実現、金融機関への監督強化など投機取引規制と、それぞれの国の国民生活の向上・安定を通じての経済再建以外にありません。そうしなければ危機はさらに続くでしょう。
今宮謙二(いまみや・けんじ 中央大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2012年1月15日付掲載
欧州危機(ユーロ危機)が叫ばれて、EUが各国に緊縮財政を主導しています。でも、果たして緊縮財政をして国家予算の赤字を減らしたところで欧州危機、いわゆる通貨危機は収まるのでしょうか疑問です。
国債残高が増えて返せる見込みがなくなっていくことで、国債の買い手がつかなくなる。国債の金利が高騰してますます国家財政を圧迫する。
だから国債発行額を減らす緊縮財政に・・・。
でも緊縮財政にして真っ先に削減されるのは福祉や教育予算ってことは日本でもヨーロッパでも同じ事。一番とばっちりを受けるのは、労働者や中小業者や農漁民、子どもたちや高齢者です。
国民の購買力が減って、産業全体のお金の周りが悪くなる。それが税収減に結びついて、さらに国債発行を強いられる。
財政危機のもともとの根源は、取れるところから税金を取ってこなかった事にあるのではないでしょうか。
欧米では富裕層から、「私たちに税金を課してくれ」と声が上がっているといいます。
欧州諸国はもちろん日本でも、国家として大企業や資産家への税金の応能負担をするべきではないでしょうか。
それがユーロ危機やGDPの2倍までにも膨れ上がった日本の国債残高を解決していく道ではないでしょうか。
マルクスも『資本論』で述べているように、強制によらないとその解決の道はないことです。
以下、「しんぶん赤旗」日曜版の記事です。
欧州を中心に資本主義諸国の債務・金融危機が深まっています。その中で昨年11月23日、衝撃的な出来事が生じました。
ドイツ政府が新しく発行した「10年物国債」が市場で4割も売れ残り、「札割れ」となったのです。これまでも「札割れ」はありましたが、このように大量に売れ残ったのは異常です。残りはドイツ連邦銀行が引き受けました。主要国の国債に対する不信が、とうとう欧州最大の経済大国ドイツにまで広がりました。これは債務危機の深刻さを反映したものです。
そのため各国の国債が価格暴落しました。国債を売る時の利回りが上昇し、イタリア国債は再び危険水準である7%台となりました。同時にロンドン市場のドル建て銀行間取引金利(LIBOR)もリーマン・ショック以来最高の0・5%台となり、銀行の資金コストが上がり経営基盤の弱体化がさらに進んでいます。
その結果、格付け会社による国債や金融機関への格下げが行われたりしています。昨年11月と12月にアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスなどの大手銀行の格下げが発表されました。今後さらなる格下げの検討もされます。またユーロ圏15力国の国債が格下げの方向にあるとスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は12月5日に明らかにしました。
このような危機的状況に対して、欧州連合(EU)は12月8、9日首脳会議(サミット)を開き、危機対策の「最終回答」を出しました。その主な内容は次の3点です。
第一に財政赤字対策として、赤字ゼロの達成義務を原則とする新条約の今年3月の成立をめざす点です。この新条約はEU26力国の参加となります。ここで最大の問題は、イギリスが反対し不参加となったことです。
第二は金融危機対策として国際通貨基金(IMF)を活用し、総額2000億距-(約20兆円)の支援制度をつくることです。このIMF強化と既存の欧州金融安定化基金(EFSF)により金融「安全網」の強化をはかろうというのです。
第三は欧州安定化メカニズム(ESM)を2013年設立予定から、今年7月に早める点です。
欧州共通通貨ユーロの彫刻の前に設けられた「占拠」運動のテント=2011年12月8日、ドイツ・フランクフルト(ロイター)
このサミット合意を、どのように評価すべきでしょうか。
第一に、これまで各国バラバラであった財政規律を統合化する方向では、大きく前進したと評価できる面があります。しかし現実に実施できるかは、まったく不透明で、その見通しはありません。イギリスが反対したのと同時に、各国間の経済格差をそのままにして、財政の統一化は不可能との考えが強くあるからです。
実際、緊縮財政は国民の犠牲のもとで行われており、各国国民は生活を守るために反対運動を繰り広げています。
第二に金融対策も金融機関を救うのみで、国民生活や景気回復には役に立っていません。
欧州危機克服の根本的対策は、金融取引税実現、金融機関への監督強化など投機取引規制と、それぞれの国の国民生活の向上・安定を通じての経済再建以外にありません。そうしなければ危機はさらに続くでしょう。
今宮謙二(いまみや・けんじ 中央大学名誉教授)
「しんぶん赤旗」日曜版 2012年1月15日付掲載