仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

表象文化論学会設立準備大会

2005-11-21 10:47:11 | 議論の豹韜
以前に紹介した表象文化論学会。土曜は上智で報告していたので、麹町にホテルを予約して宿泊し、日曜の午前中のみ出席してきました。

第2日目午前中のプログラムは、下記の3つのパネルからひとつを選んで聴講する形式。
 A)「表象不可能なものの回帰―カタストロフ以後の暴力批判―」
 B)「ネゴシエーションズ―イメージとその外部―」
 C)「近代の上演」
私は迷わずAを選択。報告は3つで、
・宮崎裕助氏「神的暴力の正義、超表象の悪―デリダとナンシーにおける「アウシュヴィッツ」の表象―」
・多賀健太郎氏「喪の証言性をめぐって―声・記憶・神話―」
・香川檀氏「ドイツのホロコースト記念碑論争と〈対抗記念碑〉」
どれも、近年方法論懇話会で扱ってきた記憶、ブラックボックスとしての外部、そしてデリダと深く関わる内容です。
自分が報告した翌日で疲れてもいたせいか、発表者の物語りがなかなかストレートに入ってこず、少々困惑。そんななかで面白く聞けたのは、香川さんの発表でした。氏は、悲惨な事件を記念するモニュメントが持つ文法上の問題(例えば、建立が完了になるという無時間性(事件を想起させ継承させてゆくのではなく、そこで終了させ断絶させてしまう危険性を孕む)、教訓的・権威主義的なナラティヴ(経験を共有していない若者らから敬遠されてしまう)など)や、従来の方法論の限界(再現的具象化、神話などをモチーフとした寓意像、抽象化のどれもが、被害者の経験と齟齬を生じてしまう)を指摘し、それらを克服する可能性を持ったゲルツの〈対抗記念碑〉に注目します。これは、抽象的造形物自体が最終的には姿を消し、その〈不可視性〉によって逆に強烈な印象を生じるもので、従来の記念碑の伝統だった視覚志向性を転換した画期的試みと評価される。しかし、アイゼンマンによるホロコースト記念碑はさらなる革新を目指し、訪問者が石の森を彷徨するという不安定な経験に誘われ、結果、出来事=他者の経験との客観的距離が消失してゆく。記念碑における能動的メランコリーをいかに生み出すかという点で、この〈効験性〉にこそ新たな可能性が見出される、ということです。

最後の〈効験性〉云々は疑問ですが、真に表象不可能である死者の領域へ、訪問者の回路を開いてゆく役割は持つでしょう。日本でも最近、戦争関係の記念碑に対する悪質ないたずら、破壊行為が目立ってきています。直接経験の衝撃度を維持した集合的記憶をいかに構築するか、もう少し真面目に考えた方がいいかも知れませんね(幕末見廻組の佐々木唯三郎の墓が坂本龍馬ファンに壊されるとか、小説などによる衝撃度の回復が新たな問題を生む場合もありますが……)。
しかしいちばん気になったのは、どの報告や議論のなかにも、記念行為による死者の個性の剥奪を問題化する視点が欠けていたことですね。佐藤壮広さんじゃありませんが、ホロコーストで亡くなった方々を被害者として総括し、その多様な生の軌跡への接続を限定してしまうこと自体が、最大の暴力なのではないかと思います。アイゼンマンの創作はひとつの可能性として、その不安定な経験を個々の直接経験へ開いてゆく、本当の意味での〈効験性(というより〈感得行為〉とでもした方がしっくりきますが)〉が議論されるべきでしょう。

どうでしょう、表象文化論学会。私は全日程に参加したわけではないので何ともいえませんが、面白い反面、東大臭が立ちこめているところが気にかかり(?)ましたね。ま、単立の学会というより、東大表象文化論学科所属の学会というイメージなんでしょう(このへんのことは、きっと土居浩さんが批判してくださるでしょう。1日目は師茂樹さんも参加されていたようなので、彼のコメントにも期待です)。報告者がみんな同じ根っこを持っているせいか、書物の引用傾向なんかが共通している点も、興味を失わせます(このあたり、報告者自身の言葉が素直に受けとめられない原因かもしれません。もうベンヤミンはいいよ)。
可能性と問題点、両方が目につく学会でした。

終了後、同じパネルに参加し、いつの間にか背後に忍び寄っていた土居さんと渋谷で食事。またオタクネタで話し込んでしまいました。そうそう、『叢書 史層を掘る』リスペクトの話題にもなりましたね。次なる世代を学問の世界へ呼び込むためにも、あらたな時代へ向かって〈史層を掘〉り進んでゆきたいものです。
Comment    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 懐かしいね | TOP | ぱらいそさ、行くだ~ »
最新の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | 議論の豹韜