【5月に11秒43、福島千里の今季ベストにわずか0.09秒の差】
第96回日本陸上競技選手権が8~10日、大阪・長居陸上競技場で行われる。ロンドン五輪代表最終選考会を兼ねており、その結果を踏まえ大会直後の11日、五輪代表選手が発表される。五輪を目指す選手にとってはまさに大一番。100m女子の16歳、土井杏南(埼玉栄高2年)もその1人だ。走るたびに高校新記録を塗り替え、5月には日本歴代7位タイの11秒43を出した。気がつけば、五輪参加標準記録A(11秒29)まであと0.14秒。48年ぶりの出場を目指す女子400mリレーの代表候補としても急浮上している。16歳での五輪出場となると陸上では戦後の最年少出場だ。
陸上の五輪参加枠は1カ国で1種目最大3人。出場のためには昨年5月からのレースで標準記録を上回る必要がある。現在100m女子では日本記録保持者の福島千里(北海道ハイテクAC)が持ちタイム11秒24(昨年6月記録)で標準Aを突破ずみ。そのほかにはBを突破している選手もいない。福島は今大会で優勝すれば、その時点で五輪出場が内定する。
【今年に入って急成長、先輩高橋の高校記録も塗り替える】
今大会の女子100mで最も注目を集めるのが土井(1995年8月24日生まれ)だ。埼玉・朝霞一中2年のとき11秒89の中学新記録を樹立、3年生になった2010年8月には11秒61という驚異的なタイムをたたき出し、陸上関係者を驚かせた。埼玉栄高に進学した11年5月には11秒60と0.01秒タイムを伸ばすが、急成長を遂げるのは今年に入ってから。2月に大阪城ホールで開かれた日本ジュニア室内の女子60mで当時日本タイの7秒40を記録した。(この記録は3月の世界室内選手権で7秒29を出した福島に破られる)
その後、3月に沖縄で行われた女子短距離日本代表合宿に初参加。これがいい刺激になったのか、4月29日の織田記念100m予選で11秒53、決勝で11秒50を出す。女子高校記録は埼玉栄高の先輩でもある高橋萌木子(富士通)が3年生だった06年に出した11秒54だったが、2年生になったばかりの土井がこれをあっさり塗り替えた。さらに、その2週間後の5月13日、高校総体埼玉県予選の100m予選で11秒43(決勝でも11秒45)を記録した。これはジュニア(20歳以下)の日本新記録、日本歴代7位タイという快挙だ。日本のエース福島の今季ベスト11秒34(4月の織田記念)にわずか0.09秒差まで迫ってきた。
【持ち味はスタートダッシュと足の回転スピード】
土井は身長が158cm(福島は165cm)と、女子短距離陣の中ではやや小柄。そのハンディをスタートダッシュと、ぶれない体の軸、足の回転速度でカバーする。とりわけ足の回転スピードは天性のものだろう。埼玉栄高女子陸上競技部の清田浩伸監督は昨年12月から始めた骨盤トレーニングの成果が出てきたとみる。骨盤のダイナミックな動きで推進力を得るジャマイカのウサイン・ボルト(100m、200mの世界記録保持者)の走りを参考にしたという。
急成長の要因としてもう一つ、土井の「心の良さ」を挙げる。「土井にはヒントを与えると素直に受け止め徹底的にやり抜く強い意志と、いつも明るく前向きに取り組む姿勢がある」。土井は今大会で「標準記録Aを突破したい」と目標を高く掲げている。すでに福島がAを突破しており、100mでの五輪出場のためには土井も今大会でAを超えることが最低条件となる。
【48年ぶり出場を目指す400mリレーの有力候補としても浮上】
日本女子は400mリレーでも東京五輪以来48年ぶりの出場を目指している。土井が100mで好タイムを出すと一躍その有力候補としても躍り出る。ロンドン五輪の女子400mリレーの出場枠は16カ国。今年7月2日までの3カ国以上が参加したレースが対象で、ベストタイム2レースの平均でランクづけする。現在の日本女子のランキングは11位。前回北京は17位で惜しくも出場を逃しただけに、出場枠内を何とか確保したい。今後他の国の状況によっては日本選手権後ベストメンバーを組んでランキングアップへ再挑戦する可能性も出てきた。そのためリレーの五輪代表候補の発表だけはもう少し先になりそうだ。
400mリレーでの五輪出場を目指す選手にとっては、今大会の100mで上位に食い込むことが絶対条件。福島、土井のほか高橋萌木子、市川華菜(中京大)、北風沙織(北海道ハイテクAC)、岡部奈緒(ミズノ)らがその大一番に臨む。果たして最年少土井の五輪出場はなるのか。注目の女子100mには24人がエントリーしており、8日午後7時半から予選、9日午後8時15分から決勝が行われる。