【祇園祭の花「ヒオウギ」とは無縁】
植えたり種をまいたりした覚えもないのに、1年前、突然花が咲いてびっくり。当初はてっきり「ヒオウギ」とばかり思っていた。ところが調べてみて全く別物のヒメヒオウギズイセン(姫檜扇水仙)と判明。しかも繁殖力が旺盛で雑草扱いされることも多く、地域によっては栽培そのものが禁止されていることも分かった。それでも、フリージャのような鮮やかな朱色の花は、彩りの少ない梅雨時の庭にアクセントをつけてくれる。
アヤメ科クロコスミア属。南アフリカ原産のヒオウギズイセンとヒメトウショウブ(姫唐菖蒲)の交配種といわれ、日本には明治時代中頃、ヨーロッパから観賞用として入ってきた。旧属名の「モントブレチア」が通称名として今でも使われている。花や葉の形がヒオウギとスイセンに似ていることからヒメヒオウギズイセンの名があるが、ヒオウギの花にある斑点がなく、剣のような葉もヒオウギに比べると幅が狭い。同じアヤメ科にヒオウギを小ぶりにした「ヒメヒオウギ(姫檜扇)」があるが、これは南アフリカ原産の球根植物で、ヒオウギやヒメヒオウギズイセンとは全く別物という。あぁ、ややこしい!
ヒオウギは日本、中国など東アジア原産で、同じアヤメ科だがヒオウギ属で1属1種。扇状に広がる葉がヒノキの薄い板で作った扇に似ていたことから「檜扇」の名が付いた。別名に「射干」「烏扇」など。関西では魔除けの花として祭りに欠かせず、とりわけ京都では「祇園祭の花」として期間中、山鉾町の玄関や軒先に飾られたり生けられたりする。真っ黒な種子は「射干玉(ぬばたま)」「烏羽玉(うばたま)」と呼ばれ「黒髪・夢・夜・雲・暗き」などに掛かる枕詞にもなっている。ヒオウギという花が万葉の時代からいかに大切にされてきたかが分かる。
一方、外から日本にやって来たヒメヒオウギズイセンは地下茎をどんどん伸ばし野生化して、今ではあまり見向きもされない存在に。それどころか、7年前には佐賀県から「環境の保全と創造に関する条例」に基づき、キショウブやホテイアオイなどとともに〝移入規制種〟に指定された。県内全域で植栽や種子をまくのは、まかりならぬというわけだ。それにしても花が可愛いからと遠く日本まで連れてこられ、その果てには生態系のバランスを壊すからと邪魔者扱い。ヒメヒオウギズイセンには少し気の毒に思えるのだが……。