【アスリート勝言研究会著、笠倉出版社発行】
日の丸を背にした「勝言」というユニークなタイトルが目を引く。アスリートとして頂点を極めた勝者たちが残した言葉ということで「証言」をもじったものだろう。現役・OBも含め内外の一流アスリート100人を取り上げているが、果たしてどんな言葉を残してくれているのだろうか。
最初に登場するのが女子サッカー沢穂希で、表紙の上部にもある「苦しい時は私の背中を見なさい」。4年前の北京五輪で劣勢に追い込まれた中、後輩宮間あやにこう伝えたという。日本の女子サッカー界をリードしてきたという自負が感じられる沢らしい言葉だ。男子サッカーの井原正巳は「体がついていかないのではなく、心がついていかなくなった時が自分の潮時」。日本を代表するディフェンダーで日本代表出場試合数は歴代1位。2002年に現役から退いた。
W杯アジア最終予選でハットトリックを挙げるなど存在感を発揮している本田圭佑は「日本人初とか興味ない。僕が目指しているところは遥か上なんで」。長友佑都は「たとえ目指すべきことが達成できなかったとしても、成長に限界はないし、努力はね、裏切らないから」。元日本代表監督のジーコは、ある優勝を決める大一番でミスから相手に得点を奪われ肩を落とす選手に、試合後「気にすることはない。私はワールドカップでPKをはずしたことがある」と話したそうだ。その言葉に選手も救われたに違いない。同じく元日本代表監督のフィリップ・トルシエは「うまい選手を選ぶだけなら私でなくてもできる」。
メジャーリーガーの松井秀喜は「調子が悪くなったときも、絶対に前の感覚を思い出そうとするのは嫌なんです。そう思った時点でそれは後戻りですから」。いつも前向きな松井らしい。国民栄誉賞を受賞した元柔道家山下泰裕も「現役の途中でもし一度でも(柔道人生を)振り返っていたら、登る力が弱まったかもしれないね」と同じような言葉を残している。ハンマー投げの室伏広治は「メダルの色は何色でも重要なのはそこに向かって努力していくこと」、王貞治も「努力は必ず報われる。もし報われない努力があるのなら、それはまだ努力とは呼べない」。
女子バレーボールの栗原恵は「MVPはプレーだけに与えられるものではなく、〝人間的にも豊かな人になれ〟というメッセージも込められていると思う」。ロンドン五輪の代表選出は微妙だが、ぜひ活躍する姿を見たいものだ。プロゴルファー宮里藍は「人間って楽なほうに行こうとするんですが、〝ここで負けても次があるや〟って思ったら、もうそれで終わり」。プロバスケットのアレン・アイバーソンは「体のサイズは関係ない。ハートのサイズが大切なんだ」。メキシコ五輪銀メダルの君原健二は「紙一重の薄さも重ねれば本の厚さになる」。歩数の積み重ねのマラソンの元ランナーらしい言葉だ。本書で取り上げられたアスリート100人が100人それぞれに、さすが含蓄のある言葉を残していた。