く~にゃん雑記帳

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〈人形作家永瀬卓さん〉 平城宮いざない館夏期企画展「万葉挽歌(レクイエム)」開幕

2024年07月14日 | 美術

【万葉集の登場人物中心に31体、中学教師定年後独学で!】

 平城宮跡歴史公園内の平城宮いざない館で夏期企画展「万葉挽歌(レクイエム)―人形からみる古(いにしえ)の奈良」が始まった。人形の制作者は埼玉県越谷市在住の永瀬卓さん(75)。わずか15年前に独学で始めたとは到底信じられない精細な造形と憂いを秘めた表情の人形など31体が並ぶ。9月1日まで。(下の人形は「額田王(立像)」

 永瀬さんは1972年に東京教育大学芸術学科絵画専攻を卒業。以来、越谷市内の中学で美術の教師を務めた。人形の制作をふと思い付いたのは2008年の定年退職後。学生時代に見た有馬皇子の人形像がずっと頭の中を巡っていたという。万葉集関連本の表紙を飾っていたその人形の作者は紙塑人形の人間国宝、鹿児島寿蔵氏(1898~1982)だった。(下は天照大神が隠れた天の岩戸の前で一糸まとわぬ姿で踊ったという「天宇受売命(あめのうずめのみこと)」)

 万葉集ゆかりの奈良での企画展は不思議な縁で実現した。4年前、東大寺のお水取り(修二会)見学で奈良を訪れた永瀬さんは正倉院近くに宿をとる。その「小さなホテル奈良倶楽部」のオーナー、谷規佐子さんが作品に魅せられ、偶然宿泊していた知人の中田文花(もんか)さんに紹介。中田さんは日本画家⋅造形作家⋅尼僧(華厳宗)⋅舞楽舞人などマルチで活躍しており、多彩な人脈を通じて展示会の準備が進められたという。(下は「倭女王」)

 展示作品は全部で31体。「神々の世」「日本の曙」など時代を追って配置されている。「日本の曙」では万葉集の冒頭を飾る「雄略天皇御製歌」の「籠(こ)もよみ籠持ち┄┄」を表現した人形も(下の写真)。

 

 「胎動する歴史」「動乱の時代」では謀叛の疑いなどで処刑されたり自害したりした有馬皇子や大友皇子などが並ぶ。大津皇子と姉の大伯皇女の背景には姉が「明日よりは二上山を弟と我が見む」と歌った山並み。その前で永瀬さんが悲劇の歴史を親子連れの来場者に分かりやすく解説していた。

 有馬皇子は座像(写真㊤)のほか立像も展示中。飛鳥時代を代表する女流歌人、額田王も冒頭の立像のほか座像(写真㊦)も。

 

 さらに坂上郎女も立像と座像(写真㊦)の2体。「月立ちてただ三日月の眉根掻き日長く恋ひし君に会へるかも」の万葉歌が添えられている。

 

 下の人形は「越中の大友家持と坂上大嬢」。坂上郎女にとって家持は娘婿にあたる。家持が越中に赴任したのは746年で、その4年後、大嬢は都から越中に移った。

 最終章は「平和への祈り」として中将姫(写真㊦)や長屋王、藤三娘(とうさんじょう)、光明子が並ぶ。光明皇后は王羲之の『楽毅論』臨書の際、藤原不比等の三女として藤三娘の名前を使った。

 

 永瀬さんが人形作りを始めたのはあくまでも趣味としてだったという。そんな経緯もあって、その世界ではほとんど無名で賞とは無縁。ただ作品群を目の前にしたとき、趣味の領域を遥かに超越しているように感じた。永瀬さんは「賞をもらうなんて思わず、好きなように自由に作ってきました」と謙虚に話されていた。(下の人形は「藤三娘」)

 

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