【バイオリンの渡邊紗蘭ら優勝者4人が熱演】
第91回日本音楽コンクールの「受賞者発表演奏会」が7月2日、奈良県大和郡山市のやまと郡山城ホールで開かれた。若手音楽家の登竜門といわれる同コンクールは昨年、ピアノ・バイオリン・声楽・オーボエ・フルート・作曲の6部門で競われ、7人が優勝を飾った(ピアノ部門で1位が2人)。この演奏会は各部門の優勝者のいわばお披露目公演。今年3月の東京を皮切りに愛知、鹿児島で開かれ、今回の大和郡山公演が4カ所目だった。
舞台に登場したのは(写真左から)オーボエの榎かぐやさん(東京音楽大学卒業)、バイオリンの渡邊紗蘭(さら)さん(東京音楽大学1年)、声楽(ソプラノ)の松原みなみさん(東京芸術大学声楽科教育研究助手)、ピアノの小嶋早恵さん(東京芸術大学大学院修士課程在籍中)の4人。コンクールで115人が出場したバイオリン部門で優勝した渡邊さん(当時高校3年生)は、全部門を通して最も印象的な演奏に贈られる増沢賞も獲得した。
最初の演奏者は3年に1度開かれるオーボエ部門(出場者57人)の優勝者、榎かぐやさん(千葉県出身)。本選ではサン=サーンスの「オーボエソナタニ長調作品166」などを演奏、聴衆賞に当たる岩谷賞も受賞した。この日はこの曲を含む2曲を披露。オーボエはギネスによると木管楽器の中で「最も難しい楽器」とか。榎さんはそんなことは微塵も感じさせずに、自在に操ってふくよかな音色を奏でていた。とりわけソナタ終盤の目にも止まらない運指の技は圧巻だった。(下の写真は演奏会の会場やまと郡山城ホール)
2番目の奏者はバイオリンの渡邊紗蘭さん。コンクール本選で演奏したのはバルトークの協奏曲第2番だったが、この日はパガニーニの無伴奏独奏曲「24のカプリス(奇想曲)より第1番、第24番」、ピアノ伴奏でF.ワックスマン作曲「カルメン幻想曲」などを披露した。第24番は奇才パガニーニの作品の中でも難曲として有名。渡邊さんは左手ピッチカートなどの超絶技巧の個所も余裕をもってこなし、むしろ楽しみながら弾いている様子だった。渡邊さんは甲子園球場のお膝元、兵庫県西宮市の出身。ツイッターなどに「阪神ファン」「目標はベルリンフィル・コンサートマスターの樫本大進さん」とあったことを思い浮かべながら演奏に聴き入った。
休憩を挟んで後半に登場した2人はいずれも大阪府出身。ソプラノの松原みなみさんはまず「夏の思い出」「霧と話した」など中田喜直の日本歌曲5曲を披露した。1曲目の「むこうむこう」の数小節を聴いただけで、まろやかな声質と響き、豊かな表情にすっかり魅了された。続いて演奏したのはマーラーの「ハンスとグレーテ」、ドニゼッティの「あたりは沈黙に閉ざされ」など3曲。プロフィルの中に「ウィーン国立音楽大学オペラ科を審査員満場一致の首席(最優秀)で修了」とあった。そして昨秋の日本音楽コンクール声楽部門(出場者84人)での優勝。この日歌い終えるや、会場からは「ブラボー」の掛け声が飛んでいた。
最後の演奏者はピアノの小嶋早恵さん。コンクールのピアノ部門は6部門で最も多い199人が出場した。3次にわたる予選を勝ち抜いた小嶋さんは本選でショパンの協奏曲第2番を演奏、坂口由侑さん(桐朋音楽大学在学中)と同点1位で優勝を分け合った。この日の演奏曲はラヴェルの「夜のガスパール」だった。キラキラと光るスパンコールをちりばめた黄金色のドレスを身にまとった小嶋さんは、印象主義音楽といわれるラヴェルの難曲をそのドレスのように表情豊かに演奏した。演奏時間は22分あまりだった。
この後、演奏者4人がそろって舞台に登場、会場からは盛大な拍手が送られていた。4人にはそれぞれに華があり、舞台上で演奏する姿はまるで天上から舞い降りてきたミューズのようだった。音楽の素晴らしさを再認識させてもらえた至福の2時間だった。