【原産地は中国北部? 葉先に金平糖に似た球果】
ヒノキ科コノテガシワ属の一属一種の常緑樹で、原産地は中国北部と推測されている。日本では庭や公園に植えられることが多いが、中国では墓地や寺院でよく見かけるそうだ。大きいものは高さが20mにもなる。1つの株に雌花と雄花が咲く雌雄異花で、3~4月頃、淡紫緑色の雌花と黄褐色の雄花を付ける。ただいずれの花も地味で目立たず、代わりに目を引くのが花後の球果。直径1~2cmほどの灰色がかった緑色で、角が尖った独特の形をしている。
学名は「Platycladus orientalis(パラティクラドゥス・オリエンタリス)」。和名は平面状の葉がまっすぐ垂直に立ち上がる様子を、上に向け大きく広げた子どもの手のひらに見立てた。ヒノキの葉は水平に広がり、葉の裏が白っぽいのに対し、コノテガシワの葉は全体が緑色で、表と裏を明確に区別できないのが特徴。漢名は「側柏」。葉は生薬の「側柏葉」として止血や下痢止めなどに使われる。「センジュ(千手)」や「シシンデン(紫宸殿)」「エレガンティシマ」など多くの園芸品種が出回っている。
万葉集に「このてかしわ」という言葉を織り込んだ歌が2首ある。万葉表記は「兒手柏」と「古乃弖加之波」。これをコノテガシワとみる向きもあり、手元の『万葉の花 四季の花々と歌に親しむ』(片岡寧豊著)も巻16-3836の消奈行文(せなのぎょうもん)の歌を取り上げる中でコノテガシワを詳しく紹介している。ただコノテガシワが大陸から日本に渡来したのはずっと後の江戸中期の元文年間(1736~41)といわれており、万葉の時代にはまだ国内になかった可能性が高そう。では歌に詠まれた「このてかしわ」はどんな植物を指すのか? この点についてはまだ定説がないようだ。