【万葉集にも登場、「ビナンカズラ」の別名も】
モクレン科サネカズラ属の常緑の蔓性低木。古くから親しまれてきた日本を代表する蔓木の一つで、関東以西の本州と四国、九州、沖縄の山野に自生する。庭木や生け垣のほか、盆栽や生け花の花材としても用いられてきた。雌雄異株のものが多いが、雌花と雄花が咲く雌雄同株のものもある。学名は「Kadsura japonica(カズラ・ジャポニカ)」。属名に日本語の葛(かずら)がそのまま使われており、種小名も「日本の」を意味する。
花期は7~8月。葉腋から花柄を垂らし径1.5cmほどの淡黄色の花を付ける。雌花は花の中心部が黄緑色、雄花は赤茶色。雌花は花後、小球の集合果が次第に膨んで、初秋~晩秋に黄緑色から真っ赤に熟す。和名サネカズラの「サネ」は実のことで、その実の美しさから名付けられた。樹皮はネバネバの粘液を多く含み、かつては整髪料や和紙を漉く際の糊料などとして利用された。そのため「ビナンカズラ(美男葛)」「ビンツケカズラ」「トロロカズラ」といった異名もある。
サネカズラは古くから和歌などでよく詠まれてきた。最も有名なのは小倉百人一首の三条右大臣藤原定方の歌かもしれない。「名にし負はば逢坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもかな」。サネカズラの蔓で密かにあなたをたぐり寄せたいと、忍ぶ恋の熱い思いを歌い上げた。万葉集にもサネカズラを詠んだ歌が10首ほどある。ただ「さねかずら」より「さなかずら」と歌ったもののほうが圧倒的に多い。「玉櫛笥みむろの山のさなかずら さ寝ずはつひにありかつましじ」(巻2-94、藤原鎌足)