【落果するリンゴが「万有引力の法則」発見の契機に!】
リンゴの原産地はヨーロッパ南西部のコーカサス地方~西アジアの天山山脈といわれ、栽培の歴史は4000年以上前に遡る。品種数は世界で約1万5000種とも。その一品種がこの「セイヨウリンゴ‘Flower of Kent’(ケントの花)」だ。5月頃開花し、8月から9月にかけて成熟する。果実の重量は120~250g。ただ熟すと全て自然落下するうえ、最近の甘いリンゴと違って渋いため生食には向かないそうだ。
経済的な価値はほとんどないものの、このリンゴは別の側面から注目を集めてきた。それは物理学者アイザック・ニュートン(1643~1727)の「万有引力の法則」の発見の逸話から。生まれ故郷の英国中東部ウールズソープ村で、樹上からこのリンゴの果実が1個落ちてきたのを見たことが法則発見につながったという。このため‘ケントの花’は「ニュートンのリンゴ」の名前で広く知られるようになった。逸話に出てくるリンゴの木はその後伐採されて今はないが、伐採前に接木が残されていた。その子孫のリンゴの木が今も英国をはじめ各地で栽培されている。
日本に渡ってきたのは今から半世紀ほど前の1964年。日本学士院院長だった科学者柴田雄次博士(1882~1980)宛てに、知人の英国物理学研究所所長のゴードン・サザーランド卿から接木苗1本が贈られてきた。だが防疫検査の結果、高接病(たかつぎびょう)というリンゴ特有のウイルスに感染していることが判明。学術上貴重なものとして焼却処分を免れた苗木は小石川植物園(東京都文京区)に隔離された。その後、長年の無毒化の研究の末、ついにウイルス汚染のない接ぎ穂5本の作出に成功、1980年にようやく国内への輸入が正式に認められた。小石川植物園で初公開されたのはその翌年81年のことだった。
小石川植物園の「ニュートンのリンゴ」はその後、穂木が国内各地の教育機関や植物園、博物園などに分譲されてきた。科学の振興や啓発の役目を担って――。弘前市りんご公園、長野県果樹試験場、大町エネルギー博物館(長野県大町市)、名古屋市科学館、名古屋市東谷山フルーツパーク、京都府立植物園、姫路市立手柄山温室植物園、広島大学、熊本県農業公園カントリーパーク……。