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いわゆるロス疑惑事件の手続について

 三浦元被告人がサイパンで逮捕されたとのニュースにはやはり驚きました。
 たしか無罪が確定したはずだが,という記憶と,もう27年前の事件かという感慨とが交錯しました。

そして私は,最高裁で無罪が確定した事件でまた逮捕できるのか,とその手続に非常に関心を持ちました。
 重罪について時効がない,というカリフォルニア州の制度は理解できますが,日本で無罪が確定した事件について新証拠が見つかったということで,アメリカで処罰に向けた手続を始めることは,国それぞれが持つ司法権の独自性として説明可能でしょうか。 

最近,日本で重大犯罪を犯してブラジルに逃亡した犯人について,ブラジルで代理処罰の裁判が開始されたとの報道がありましたが,仮にそこで無罪になった被告人が来日したとしても,そのとき同じ罪で逮捕するということにはならないでしょう。代理処罰に関する両国間の取り決めの趣旨に反することになると思われます。

 日本とアメリカとの間では,捜査共助や犯罪者引き渡しの条約が締結されているに過ぎませんが,捜査はあくまで裁判の準備活動ですから,捜査段階の両国の調整が詳細になされていることは,相互の裁判制度を尊重する,ということを当然の前提としているといえないでしょうか。

 日本の憲法39条後段「同一の犯罪について,重ねて刑事責任を問はれない。」という二重処罰禁止の規定が,アメリカの憲法修正第5条「何人も,同一の犯罪について,再度生命,身体の危険に臨まされることはない。」(アメリカ大使館ホームページから)の規定に由来することは周知の事実ですから,日本の裁判制度を尊重する限り,アメリカで有罪に向けた手続をすすめることは,アメリカの憲法にも触れる可能性があります。

日本の裁判制度を無と評価するなら別ですが,一体どのような解釈で今回の手続が進められているのか,その説明には今後も関心を持っていきたいと思います。「花」

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コメント
 
 
 
いろいろ考える契機 (TANAKK)
2008-02-26 14:19:54
三浦元被告の逮捕は、いろいろなことを考える契機になりそうです。まず時効。日本で殺人が15年というのは有期刑の最高に併せたのだそうですが、最近は15年以上の判決もよく聞くので、無期限はともかく、延長は考えてもいいでしょう。一事不再理は戦犯裁判などで無視されてるのかなと思うこともありますが、ブラジルの例でもし犯人が来日しても、日本は逮捕はちょっとしないでしょう。アメリカは世界の警察官であると同時に、検察官・裁判官なのだということですね。それと共謀罪が使われたそうで、警察として便利なものだそうですが、ここで改めて日本に共謀罪が成立したらということを考えねばならないと思います。この視点はまだないですね。最後に裁判員。こういう国際犯罪で時効とか一事不再理が絡む場合、素人の裁判員には理解しにくく、プロの判事が論議をリードしてしまえるということになるかな、とふと思いました。
 
 
 
時効は既に延長されています (チェックメイト)
2008-02-29 22:50:09
平成16年改正で、殺人罪を含め「死刑に当たる罪については25年」に延長されています(刑事訴訟法250条1号)。
あとは、殺人罪については、人の命を永遠に奪ったのだから、あるいは死刑相当であり得るのだから、といった理由で、時効を撤廃するかどうかという立法判断だろうと思います。
ただ、そうすると永久に捜査体制を維持しなければならなくなるわけで、国家財政等の制約を全く無視していいのかという議論も避けられないでしょう。
 
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