日本裁判官ネットワークブログ
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1 先日用事があって上京した際に,池袋に住んでいる次女夫婦の家に泊めて貰った。来年小学入学の男の子と4歳の女の子の2人の孫と遊んできた。男の子とはオセロの真剣勝負で,接戦であったが2連敗した。ふざけて「こんなチビに負けてたまるか」などと悪態をついていたので,孫は大喜びしたようで,近くまた勝負をすることになった。
2 下の女の子は「木の実博士」で「どんぐり」が大好きで,そこそこ大きい箱にどんぐりを沢山拾い集めていた。近くのあちこちの公園に行くと,どんぐりの木がないかと探すのだというのである。私も妻も2人の子も大のどんぐり好きで,夫婦裁判官として転勤するごとに,転勤先の宿舎の近くの公園などで,どんぐりの木を見つけては,拾って箱に集めたものであった。
3 そうすると,下の女の子のどんぐり好きは遺伝ということであろうか。「おじいちゃんに一番大きなどんぐりをお呉れ。」と言うと,「ダメ」と拒否されてしまった。しかしなお執拗にせがんでいると,中ぐらいのどんぐりをひとつ呉れた。
4 そのどんぐりを自宅に持ち帰って,仏壇に祭ってある妻の位牌の前に,「君の遺伝だよ。」と言って,そのどんぐりを供えたのである。
5 もう20年も前のことだと思うが,私の郷里の桃太郎を祭っているとされている有名な神社の裏山には,桃太郎の古墳があり,その頂上近くに大きな実のなるどんぐりの木を見つけて,親子4人でどんぐりを拾ったことがあった。そのとき次女はまだ小学生であったような気がする。そのどんぐりは,孫が集めていたどんぐりの一番大きなどんぐりの2倍はあるのではないかという気がする。そのどんぐりを沢山拾っておいて,今度上京するときに,孫にプレゼントすることにしようと思っている。そして,私も孫から,この前貰ったどんぐりよりも大きいどんぐりを沢山貰ってきて,妻の位牌に供えてやろうと思っている。きっと妻も喜ぶに違いない。
6 寺田寅彦随筆集の「どんぐり」という一文がある。妊娠中に肺結核になった奥さんが,ある体調の良い日に,近くの小石川植物園に行きたいというので,夫婦で歩いて出かけたところ,奥さんがどんぐりの木を見つけて,夢中になってどんぐりを拾い,自分のハンカチが一杯になると,夫のハンカチを借りてまた一杯にして喜んだという,微笑ましい夫婦の光景が描かれている。
 その後奥さんが亡くなり,奥さんのお墓に苔(こけ)の花が何回か咲いたころ,6歳になった忘れ形見の長男を連れてその植物園へ遊びに出かけたところ,その子が夢中になってどんぐりを拾い,5~6個拾うごとに息をはずませて,父のそばに飛んできて,父の帽子の中に広げたハンカチに投げ込むことを繰り返すのである。その様子を見て,父は母の遺伝だと思うのである。「大きいどんぐり,ちいちゃいどんぐり,みいんな利口などんぐりちゃん」と歌いながらどんぐりの頭をつつく長男の姿に,懐かしさと悲しい思いで亡き妻を忍ぶのである。そして亡き妻の長所も短所も全て遺伝して差し支えないが,母の悲しい運命だけは,この子に繰り返させたくないものだと,しみじみそう思ったというのである。明治38年の作品である。
7  わがやはみんなどんぐりが大好きであるが,そんなことから私は寺田寅彦一家に,わが家との類似性を見い出して,この随筆が大好きになったのかも知れない。(ムサシ)

             



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