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  過日、地元弁護士会の若手を中心とした判例勉強会で、銀行預金差押えに関する最高裁平成23年9月20日決定について議論を交わしました。ご案内の通り、メガバンクの預金差押えについて、支店番号順に当該債務者の全預金を差押えるという申し立てを却下したものです。高裁段階では認める決定が複数出ており、一部には最高裁の判断に対する期待感があったのですが、残念な結果に終わりました。

  その際、若手弁護士から言われて愕然としたことがあります。「裁判官は、せっかく苦労して判決を書いたのに、最高裁にその執行力をそぐような決定を書かれて悔しい思いはないのでしょうか」。そうです。若手弁護士ひいては依頼者から見れば、お金を払えという判決を書く裁判官は、その後のことについても十分思いをいたしてくれている、と思うはずです。

  ところが、自分の判事補時代を顧みても、そのような発想はありませんでした。和解が成立すれば、確かにそれは嬉しいのですが、判決の場合は書いてしまえば終了です。控訴審でどうなるかは気になりますが、確定後どうなったかなどは、よほどの案件でないと気にしません(小さい庁であれば、代理人弁護士を通じて事実上聞くことがあるでしょうが)。執行事件は、訴訟事件とはまた別のジャンルの事件として、その特殊なルールの中で処理をします。かくいう私も、15年以上前の裁判官時代には、同じ金融機関の三つの支店に順番を着けて差し押さえるという申し立てを却下し、高裁で逆転されたという経験があります。執行裁判所の論理からすると、じゃあどこまで支店の数を増やすことを認めるのかという境界線が事実上明確でなくなると考えたからです。

  韓国の弁護士にTwitterで問い合わせたところ、韓国の債権差押え制度では、金融機関さえ特定すれば良く、支店の特定を求められることはないそうです(まあ、色々法制度の違う韓国では、日本と違って同一人の口座把握が簡単にできる事情があるのかもしれませんが)。

  弁護士法23条の2に基づく照会という制度があって、各銀行にこの人にはどの支店に預金があるのか照会するという方法もありますが、メガバンクは預金している人(つまり判決で支払義務を負っている人)の同意がないと、回答してくれません。

  また、そもそも差押えをしようとしても、その人にどんな財産があるのか判らないという場合に、財産開示手続と言って、正直にどんな財産があるのか明らかにするように求める制度があるのですが、日本では殆ど使われていません。これに対し、韓国では、財産明示宣誓手続というものがあり、従わないと監置と言って身体を拘束される可能性があるためか、よく利用されているようです。2009年の統計だと、韓国の財産明示命令申立てが13万4072件であるのに対し、日本の財産開示申立ては894件しかないそうです(金融商事判例1378号1頁)。

  こうした点で、国民に裁判を起こしても相手からお金を回収できる可能性が高いですよと言うメッセージを発しないと、国民はせっかくアクセスした司法手続に愛想を尽かして二度と使わないと思わないかと心配になります。

 

 PS この原稿は、佐藤幸治先生の講演の前には概略完成させていたものですが、ブログでの先生の講演の宣伝を優先させようと、掲載を遅らせていました。佐藤幸治先生の講演に関しては、福岡の家電弁護士さんのような反応(http://ameblo.jp/mukoyan-harrier-law/entry-11282244179.html)もいただいているところであり、当ネットワーク関係者にも色んな考え(私の佐藤幸治先生宛の手紙は、一番佐藤先生をびびらせたそうです。笑)があることをお示しする意味でも、少し加筆して掲載させていただきました。



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