東京新聞2024年6月19日 07時58分
人気バンド「Mrs. GREEN APPLE(ミセス・グリーン・アップル)」の新曲「コロンブス」のミュージックビデオ(MV)が植民地主義などを連想させると批判され、公開を停止した。
「負の歴史」に肯定的評価を与えることが許されないのは当然だが、歴史自体から目を背けることになっては本末転倒だ。国際的に受け入れられている歴史認識への理解を深める契機としたい。
MVには「新大陸到達」の冒険家、コロンブスらに扮(ふん)したメンバーらが、訪れた小島で「先住民」の類人猿に人力車を引かせたり、乗馬や音楽を教えたりする場面があり、植民地主義や人種差別を想起させると指摘された。
コロンブスは近年、欧州による先住民征服、虐殺の象徴として語られ、米国の反人種差別運動では銅像が撤去されている。
レコード会社などは歴史の理解に欠ける表現があったと公開を停止し、キャンペーンソングに起用した日本コカ・コーラ社も同曲を使ったCMの放映を中止した。
メンバーは謝罪文で、差別表現とされる懸念を持ちつつも「前向きにワクワクできる映像」を目指したと釈明したが、認識が甘かったと言わざるを得ない。
国際理解とかけ離れた芸能表現が問題視された例は過去にもあった。2016年にも女性アイドルグループの衣装がナチスの制服に似ていると批判され、運営側が謝罪に追い込まれた。
日本発のMVは今や世界中で視聴されている。歴史認識に対する無理解は日本のポップカルチャーの水準に疑問符を付けかねず、官民挙げての「クールジャパン戦略」にも影響が及びかねない。
ただ、こうした事例が表現の自由を萎縮させてしまう事態も避けなければならない。歴史的な出来事を扱うことを避ける傾向が強まれば、歴史への無理解が一段と広がりかねないためだ。
日本政府や自治体には、関東大震災時の朝鮮人、中国人虐殺など「負の歴史」に背を向ける傾向があるが、こうした姿勢は歴史の検証を促す国際潮流に逆行する。開かれた議論こそが歴史認識の違いを乗り越え、相互理解を促す。
今回の問題も、単なる謝罪やビデオの公開停止、責任追及で終わらせてはならない。歴史を学び、人類文化の向上を図る機会として幅広く議論されるべきである。