ロイター2023年7月11日12:35 午後
[メキシコ市 10日 トムソン・ロイター財団] - 人工知能(AI)を規制する必要性に注目を集めたいと考えたコスタリカの議員らは、対話型AI「チャットGPT」に新法の作成を依頼した。「法律家のように考え」、憲法に従って法案を起草するよう指示。そして、出来上がった文章をそのまま議会に送った。
法案提出を主導したバネッサ・カストロ議員は、トムソン・ロイター財団に「多くの好意的な反応が得られたが、非常に危ういと考える人も多かった」と語った。
チャットGPTが提言したのは、説明責任、説明可能性、偏見防止、人権保護の原則に基づいてAIシステムを規制する機関の設立だ。
法案は今年5月に提出され、現在は市中協議のプロセスに入っている。
「AIは、まだ人間の手が必要な立法の道具の一つに過ぎないことを学んだ」とカストロ氏は話す。
コスタリカは、過去1年間に中南米でAIを規制する法律を審議もしくは承認した8番目の国だ。
同国のジョハナ・オバンド議員は、AI規制には賛成だが、チャットGPTは単に憲法を基に統計と条文をまとめただけなので、法案には反対だと述べた。
最大の反対理由は、法案が単なる「善意のリスト」であり、実効性を伴わないことだ。これは中南米で議論されているAI法制全般に共通する懸念となっている。
オバンド氏によると、チャットGPTは「基本的権利と国際条約に基づいて規制すべきだ」と提言してきた。「だが、その権利や条約とは何なのか。法案はそれらに言及していない」という。
中南米諸国は、欧州連合(EU)がAI規制法案を可決したことに刺激を受け、規制の策定を進めている。この中には、生体認証監視におけるテクノロジーの使用を禁止し、どのコンテンツがAIによって生成されたかを明確にするための規則が含まれている。
メキシコでは今年3月に法案が提出された。ペルー議会は6月、中南米で初めてAIを規制する法律を承認しており、大統領が署名すれば施行される。
ペルーの法律はデジタルセキュリティーと倫理の原則に基づき、AIの開発を監督する国家機関を定めている。
法制化を主導したホセ・クエト議員は「法律の核心は、倫理的で透明、持続可能な方法でAIを利用できる環境を生み出すことだ」と語った。
<人種差別>
ブラジルでは過去4年間、AI規制について熱心な議論が交わされており、議会は三つの法案を審議中だ。
2021年にはAIの法的枠組みが下院で承認されたが、上院で阻止された。この枠組みは原則論が中心で、執行のメカニズムが欠如していた、と米国の非営利団体、モジラ財団のフェローであるタルシージオ・シルバ氏は言う。
この法案をきっかけに上院の委員会が設立され、AIのリスクに基づく900ページの規制案の発表に至った。人々に危害を加えたり、社会から疎外された人々を標的にしたりする可能性のあるAIシステムを「極めて危険」とみなし、禁止する内容だ。
しかし、シルバ氏のように反人種差別を唱える人々は、この議論からマイノリティーの視点が排除されていることを懸念している。
「委員会は18人の法学者と80人の専門家で構成されたが、その中にブラジルの少数民族は1人もいなかった。黒人や先住民のことは考慮されていなかった」とシルバ氏は明かす。
ブラジルでは審議中の3法案に基づく新法案が5月に上院に提出され、間もなく議会の委員会で審議される予定とあって、AI規制はホットな話題だ。
シルバ氏が重視するのは、社会から疎外された人々の不当な逮捕を可能にする顔認識システムや、人種的マイノリティーを差別する自動雇用システムの使用を防ぐことだ。シルバ氏らは、AIシステムによって被害を受けた人々に対する補償制度を導入するよう主張している。
中南米地域全体でも、議員らはAIシステムにおける偏見や差別と戦うことの重要性に同意している。ただ、法案の多くは偏見や差別を防止し、調査し、処罰する具体的な方法という点では内容は曖昧だ。
<AI植民地化>
中南米のAI規制議論に共通するのは、地元での研究開発を促し、マイクロソフトやグーグルのような多国籍企業との競争を可能にする環境作りの必要性が叫ばれていることだ。
ブラジルの法案の一つは「規制のサンドボックス(隔離された空間)」の創設を政府が認可することを提案している。これは、地元企業が管理された環境でAI技術を実験できる枠組みだ。
「我々は現在、少数の米国系多国籍企業の製品によって植民地化されている」と、この地域の専門家を集めたイベロアメリカ人工知能学会のフランシスコ・ガリホ会長は指摘。「この植民地主義に対処する最善の方法は、多国籍企業に対抗できるような地元製品の開発を促進することだ」と語った。
3月にウルグアイの首都で開催された地域AIサミットに集まった専門家らは、中南米の言語や文化を考慮し、中南米人による中南米人専用のAIシステムを作る必要性も訴えた。
(Diana Baptista記者)
https://jp.reuters.com/article/latam-ai-idJPKBN2YR04P?il=0