東洋経済5/21(土) 12:31
「東大生は漫画を読まない」と思われがちですが、「漫画も立派な参考書」と断言するのが現役東大生の西岡壱誠さんです。では、勉強になるおすすめの漫画はどれなのか。『東大×マンガ』を監修した西岡さんが紹介します。
みなさんは、「漫画」と聞いてどんな印象を持つでしょうか。漫画といえば、娯楽の1つで勉強にはまったく関係ない、学問とは無縁のものだと思う人も多いと思います。
が、実はそんなことはありません。漫画の中には勉強になるものも数多く存在していて、実は東大生たちも、勉強になる漫画をたくさん読んでいるのです。小さいころから漫画を読んで勉強していて、だからこそ東大に合格できた、という学生も少なくないのです。
今回は、東大生のおすすめ漫画の中から3つを選んで紹介させていただきます。
■勉強は日常生活に立脚していることを教えてくれる
①理系科目の勉強になる『理系が恋に落ちたので証明してみた。』
この漫画は、理系の大学生たちが「恋」という不確かで非科学的なものを証明しようとするラブコメディ漫画です。実はこの漫画、すごく理系科目の勉強になるのです。
高校数学でも習う確率の問題や素数に始まり、「NP困難」や「巡回セールスマン問題」などの大学で扱う理系の問題などを題材にしているため、読んでいて知識として得るものが多いです。
しかし、僕がこの漫画をおすすめするのは知識という点だけではありません。この漫画は、学問との付き合い方を教えてくれます。「勉強というのは難しいものではなく、日常生活に立脚しているということを教えてくれる」という点で、僕はこの漫画をみなさんにおすすめしたいのです。
この漫画では理系の事柄が多く題材として描かれています。でもそれらはすべて、日常生活の延長線上として語られます。
スマホゲームのガチャと結び付けて「確率」の話が描かれ、デートでどういうコースでいけば一番多く乗り物に乗れるのかを考えるために「巡回セールスマン問題」が描かれ、ギャルゲーのルート分岐のために「NP困難」が語られています。よく「勉強なんて社会に出たら何の役にも立たない」なんて言いますが、実はそうではなくて、学問というのは必ず社会のどこかで役立っているものです。
実は東大の入試問題も、社会と結びついて問題が作られています。物理ではボードゲーム のジェンガの摩擦を求める問題が出たり、数学ではブラックジャックの確率を求める問題が出たり、地理ではシャッター通り商店街がなぜ生まれるのかを問う問題が出ていたりします。
これは、東大が「机の上だけの勉強」ではなく、「社会や日常生活とつながる勉強」を推奨しているからだと思います。そしてそのための「学びに向かう姿勢」を教えてくれるのが、『理系が恋に落ちたので証明してみた。』だと言えるのではないでしょうか。
ぜひ皆さん読んでみてください!
■無機質だった教科書が違って見えてくる
②日露戦争後の空気感がわかる『ゴールデンカムイ』
日露戦争後の北海道を舞台に、戦争帰りの屯田兵たちやアイヌ民族や新撰組の生き残りを巻き込んで、しっちゃかめっちゃかな戦いが繰り広げられる漫画、『ゴールデンカムイ』。この漫画を読むと、その当時の人々の空気感がわかります。
漫画というのは、「空気」を知ることができるところに価値があります。
歴史の教科書を読んでいても、無機質に書かれた一文一文の連なりとして見てしまったらあまり面白いとは感じられません。でもその時代の空気感なんかがわかると、教科書が違った側面を見せてくれることがあります。
例えば、この漫画を読んだ後で日本史の「日露戦争で日本が賠償金を取れず、日比谷焼き討ち事件が起こった」という記述を読むと、その一文に秘められた当時の人たちの想いが理解できます。
この漫画では直接的に日露戦争とその講和条約が描かれているわけではないのですが、しかし当時の民衆の「あんなに頑張って戦ったのに、どうして」という思いが理解できるようになります。日露戦争だけではなく、この漫画では北海道の開拓やアイヌ民族の生活やそこに生きる人々の価値観も描かれていて、アイヌや北海道の歴史も彩りを持って理解できるようになります。
『ゴールデンカムイ』を読めば、勉強が面白くなって、そして理解しやすくなるわけです。
③読解力が鍛えられる『BILLY BAT』
最後はこの漫画、浦沢直樹著「BILLY BAT」です。東大生の友だちとみんなで読んで語り合うことが多い作品なので紹介します。
漫画家の主人公は、ただの漫画のキャラクターであるはずのコウモリに話しかけられ、自分が作ったはずの漫画がどんどん現実のものになっていき翻弄されるようになります。
そして実はそのコウモリは、アドルフ・ヒトラーやアインシュタイン、フランシスコ・ザビエルなどの歴史を変えた有名人たちにも見えていたことがわかっていき、さらにケネディ大統領の暗殺や9.11のテロなど実在の事件にも繋がっていく……という、歴史を巻き込んだ壮大なスペクタクル漫画がこの『BILLY BAT』です。
この漫画は非常に難解な作品で、僕自身、何度読み直したことかわかりません。でもそれだけ重層的で、非常に勉強になる作品です。そしてそうやって読み直すうちに気付いたのですが、これは非常に読解力が鍛えられる漫画です。
■「物語」というものの考え方が非常に示唆的
作中で主人公たちが作った漫画のエピソードが、そのまま現実の世界でも起こった出来事になっていく話の構成上、1ページ前ではコウモリやウサギが登場してしゃべっていたかと思えば、その次のページではまったく同じ構図で人間の登場人物たちが話をしている……なんて描写もはさまれて、もうこれが実際に「BILLY BAT」という漫画の世界の中で起こっている出来事なのか、それとも主人公たちが作っている漫画の中だけの話なのかわからなくなってしまいそうになります。
しっかりと読み込まないと話を追えなくなるので、だからこそ本を読解する訓練になります。
そして、作中で描かれている「物語」というものの考え方が非常に示唆的で勉強になるのです。「登場人物たちには必ず何かの役割がある」「解釈は人それぞれ」「人間はたまに思い掛けない行動を取る」「作者は何らかの思いに突き動かされて作品を描いている」……これらの大原則を、生き生きと伝えてくれます。
この物語自体が実は、物語の読み方を教えてくれる作品なんじゃないかと思えるくらい、この作品は読解力を高めてくれるのです。みなさんぜひ、読んでみてください!
いかがでしょうか。ただこれらの作品を読めば学校の成績が上がるとか資格試験でいい点が取れるとかそういうことはありません。でも、これらの作品は「生かそう」と思えばいくらでも生かすことができると思います。東大生は、ただ漫画を読んでいるのではなく、勉強に生かす読み方ができているから漫画から勉強できているのです。
ぜひ皆さん、漫画を読んで勉強に生かしてみてください!
西岡 壱誠 :現役東大生・ドラゴン桜2編集担当
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1b2936293882ffd0e0e2fbba37520cdad4df275?page=1